第20話  東藤家 理沙  

文字数 1,698文字

「由瑞さん。素敵なお庭ですね。タクシーを待つ間、ちょっと案内していただけますか?」
理沙は言った。

「いいですよ」
由瑞はそう言って庭に出た。

「あなたが麗の言っていた『本命の可愛い子』なのですね?」
由瑞は聞いた。
「あら?そんな事を言っていました?そんな事も無いとは思うけれど・・・・。確かにガールフレンドではあるけれどね。きっとあなたの気が軽くなる様に、わざとそう言ったのじゃないかしら?麗はすごく優しい人だから」
そう言って由瑞を見る。
由瑞は「ああ・・・。それも有り得るな」と呟く。


「麗から話を聞いたの。それで、もしもあなたが、まだ一人でいるのならって。色々と調べていたら・・・ここに辿り着いたの」
由瑞は笑った。
「ここに辿り着く情報収集力に驚きますね」
「まあね。でも、予期せぬ収穫があったから。凄い収穫。蘇芳さんって凄いわね。本物の占い師ね」
「有難う。あなたが褒めてくれた事を蘇芳に伝えます」
由瑞は返した。
理沙は由瑞を見詰める。
由瑞は目を逸らす。

目力が凄いなと思う。蘇芳や小夜子と通じる様な視線。頭の中を見通す様な。
きりりとした目元と眉。
口角が上がった薄い唇。気の強さが伺える。
プライドの高そうな女だ。自信に溢れて。

どこが『私とあなたの好みは似ているのかしら?』だよ。全然似ていないじゃないか。
そう思った。


「あなたってとても素敵ね。麗の気持ちも良く分かるわ。あの子、樹さんには勿体ないわね。」
由瑞は驚く。
「樹さんを知っているの?」

「以前、銀座のパーラーで見掛けたの。麗が知っていたわ。・・・ねえ、あなたは、まだ樹さんに未練があるのかしら?」
由瑞は苦笑いをする。
「随分失礼な人だな。あなたに何の関係がある?」
「あら?」
理沙はくすくすと笑う。
「麗にちょっと教えてあげたいの」

「彼女はもう結婚している」
由瑞は答えた。
「そうなの?それは残念ね。・・・今は、あなたに恋人はいらっしゃるの?」
理沙はそう言って微笑んだ。
「しつこい人だな」
由瑞は呆れた様に言う。
「いないのね」
理沙はにこやかに言った。



理沙を庭先で見送る。

車が行ってしまって、蘇芳はほっとする。
「そうだ。塩。塩を撒かなくちゃ」
蘇芳は大きなお腹を抱えて家に急ぐと塩をあちらこちらに撒いた。

「良かったわ。由瑞。あれがあなたの元カノじゃなくて。手に触れる事も出来なかったわ。ヤバい感じがして」
「あんな我の強そうな女。付き合うかよ。ぼこぼこにされそうだ。蘇芳。彼女は何者なの?何?東藤家って?」
由瑞は聞いた。
東藤家(あずまとうけ)。古武道の家だったと思う。『藤家神道流』。外国にも道場があると聞いたわ。その業界じゃ一番ね。そしてかなり古い家柄よ。それにもうひとつ。西藤家(さいのとうけ)。この二つは本家、分家の関係だったと思うけれど・・・。
『西』も古武道かしら?西は九州で東は長野だったか、山梨だったか・・ちょっと調べてみるわね」
蘇芳は言った。


「由瑞。彼女はまたきっと来るわ。彼女には出来るだけ関わらないで。だからその麗と言う人にも連絡は無しよ」
「どうして?」
「東藤家はやばい女だからよ!」
蘇芳は言った。
由瑞は笑って「分かった」と頷いた。

「でも、どうしてまた来るの?もう用は済んだんだろう?」
由瑞は聞いた。
「あなたの事がメインだったのだけれど・・・・でも占いをスタートして分かったのだけれど、彼女は探し物をしているのよ。それも占って欲しかったみたい」
「探し物?」
「そう」
蘇芳は答えた。


「これは小夜子さんと史有にも伝えて置かないと。融さんへの連絡は小夜子さんに任せましょう」
「?・・・何で?・・蘇芳。珠衣は関係ないだろう?」
由瑞は言った。
蘇芳は答えた。
「大有りよ。大アリの大アリクイ。だって、私、あの人の事を知っている。と、言うか、多分、あの人に会った事があるもの」
由瑞は驚く。
「どこで?」

蘇芳は由瑞を見詰める。
そして言った。
「あの、小夜子さんを迎えに行った、あの青い異界。昨年の連休。
ああ・・あなたは行ってないから知らないわね。・・・あの池の畔で。怜さんの足にくっ付いていた。彼女は首だけだったけれどね」










*読んでくださって有難う御座いました。
あらあらと言う感じですね。
【八】に続きます。(笑)



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