第15話  奥の院 3 

文字数 1,003文字

融は息を切らしながら走り寄ると樹の腕を掴んだ。
「ここへ来ては駄目だと言っただろう?帰るぞ」
樹は慌てて立ち上がる。

融は小夜子を睨む。
「二度と勝手な真似をするな。いいか。樹を巻き込むな。今度やったら、俺はお前と縁を切るからな。二度と珠衣に帰って来ない」

小夜子は驚いた。
「何をそんなに怒っている?私はただウタに会わせようと思っただけで・・・・」
「黙れ。小夜子。いいか。約束だ。二度とここに樹を入れるな」
樹も驚いた。
「何をそんなに怒っているの?」
そう言った彼女を融は見る。そして池の周囲に視線を移す。

 いた。
見付けたひとつ。

ひとつ見つけると後は簡単だった。いる。あそこにもいる。有象無象の輩が。
まずい。こっちを見ている。
融は顔を顰めた。
だからここは嫌なんだ・・。
あの森を抜ける小道にだっていた。木々の隙間からこっちを覗いていた。それを見ない様にして走って来た。

融は樹の腕を掴んだまま走り出した。


「ちょっと。待って」
樹は慌てた。
「そんなに早く走らないで!」
融は黙って歩く。
ずんずんと歩く。
融が怒っているのがひしひしと伝わって来る。
「絶対にここに入ってはダメだって言っただろう。どうして守らない」
融は歩きながら樹に言った。

そう言った融の体に樹は抱き付いた。
融は思わず滑りそうになった。
「何すんの!?危ないでしょう!」
樹は顔を上げるとへへへっと笑った。
融は呆れた顔で樹を眺めた。
「何、呑気にへらへら笑っているの?俺は怒っているんだよ」
「ちょっと嬉しかったの」
「何で?」
「あなたが小夜子さんに怒ったから」


融はがっくりと力が抜けた。
「君はまったく・・・」
「まったく?何?」
「いや。二度とここに来ないでくれ。約束だ」
融は苦笑しながらそう言った。


樹はそのまま融を見上げて言った。
「キスしてもいい?」
「ちょっと、俺の話、ちゃんと聞いてんの?」
「聞いている」
樹は目を閉じて答える。
「今?」
「今」
融は辺りを見回す。
何もいない。
樹の唇に触れようとして・・・・ぱらりと木の葉が樹の頭に落ちて来た。
融はふと上を見上げる。
ぎょっとする。
急いで樹の手を掴む。
「うわっ!べたべた。ウタを触ったな。ちょっと。こんな手で俺の服に触わったの?勘弁してくれよ」
融は樹のべたべたな手を掴んだまま石段を急ぐ。
「だって、手を洗う前に、融君が引っ張って来たんじゃん」
樹は返す。
「ねえ。キスは?」
「キスは後。石鹸で手を洗ってから」
そう言うと融は慌てて鳥居を抜けた。


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