夜歩く悪魔(1)

文字数 1,325文字

 その夜、上手く寝付けなかった下丸子隊員は、星空でも観ようと、窓を開けて外を眺めてみた。

 その時、彼の目に留まったのは、AIDS基地の寮のある棟から、正門の方へと歩いていく純一少年の姿であった。
 無許可で基地外に出るのも勿論違反だが、(そもそも)、もう時刻は真夜中を過ぎている。
「こんな時間に、何処に行くのだろう?」

 下丸子隊員は、純一少年の動きを目で追ってみた。だが彼は、基地の門をさっと跳び越え、そのまま基地の外へと出て行ってしまい、行先を突き止めようにも、もう追い掛けることは出来そうにない。
 門を警備していた守衛も、彼の動きの素早さに脱走者がいたことに気付けなかった様で、彼を追おうとする者はいなかった。

 こうなってしまうと、下丸子隊員も、その夜はもう何も出来ない。結局、彼は、純一少年の行動に疑念を抱きつつも、眠れぬ夜をひとり、ベッドに潜って過ごすしかなかったのである。

 翌日、下丸子隊員は、純一少年を廊下で捕まえると、昨夜のことを問い質してみた。
 勿論、彼が本当のことを言う筈もない。だが、単純に彼を侵略的宇宙人と決めつけ、射殺する勇気もない。結局、下丸子隊員は質問すると云う、一番解決にはならないであろう方法を選択したのである。

 彼には以前、敵の捕虜になった時、沼部隊員と2人して助けられたことがある。
 沼部隊員にその話をすると、「あれは純一君とは別人だ……」と彼は言うが、間違いなくあれは純一少年だった。
 彼には得体の知れない、何かひとに言えない特別な秘密がある……。

「純一君、君……。昨日の晩……」
「あれ? 見られちゃいました? う~ん、不味いなぁ……」
 純一少年は、意外と簡単に無断外出したことを白状した。

「実はね、矢口隊員の弟さんの渡君、彼の情報なんですけどね。
 本厚木界隈に出るらしいんですよ……。
 夜な夜な、街を徘徊し、人間を襲って命を奪っていく恐ろしい魔物が……。
 で、僕は、そいつを捕まえようと考えていたんですけどね……」
「本厚木の通り魔殺人のことを言っているのかい? まさか、君、そんな噂話を信じているんじゃないだろうね?」
「半分信じていますよ。それに、少し気になることがあるんです」
「気になること?」
「ええ、被害者の体から、花の匂いがするって言うんです。もし、それが月下美人の香りだとすると、僕には思い当たる節がある」
「君の知り合いの宇宙人に、そんな奴がいるって言うのかい?」
 純一少年は、下丸子隊員の言葉に思わず笑い、それが治まってから話を続けた。
「僕に宇宙人の知り合いはいませんよ……」

 彼は、そこから先の決意は自分の心の中に止め、下丸子隊員には伝えなかった。
「夜な夜な街を彷徨い、人間の生気を奪う魔物。僕が知っているのは大悪魔だ。この世界の

が、人間を襲う魔物だとしたら、僕は

を倒さなければならない……。どんなに恐ろしい強敵だとしてもだ!」

 下丸子隊員も、純一少年とは別の決意を固めている。
「今晩は、彼に悟られない様、蒲田隊長に外泊許可をとり、彼が何をしようとしているのか確かめよう……。それが結果、彼女を悲しませることになるとしてもだ!」
 2人は、お互いに、その後は何も語らず、それぞれの持ち場へと戻っていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

小山刑事、鈴木傳吉(鈴傳)刑事


刑事さんたち。小山刑事は警視庁捜査一課の刑事さん。鈴傳刑事は神奈川県警に所属している。

パク郎


下丸子隊員の知り合いの飼い犬。嗅覚は優れているが、誰にでも懐く、番犬としては役に立たない犬。

新田有希


新田純一と美菜の娘。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み