夜歩く悪魔(6)
文字数 1,133文字
純一少年と下丸子隊員の2人は、何とも場違いな思いをしながらも、海老名にあるデパートの化粧品コーナーや、アロマテラピーのコーナーを予定通り梯子した。
それで、純一少年は、目的の匂いがダマスクローズの香りであることを再確認し、彼女の無実を確信することが出来た。だが、下丸子隊員の方は、月下美人がどんな匂いを持つ花なのか、残念ながら確かめることは出来なかったのである。
こうして、デパートで目的の匂いを確認した2人は、映画で時間を潰した後、海老名繁華街にある飲み屋で、夕食を共にすることにしたのであった……。
「これまで純一君とは、あまり話す機会は無かったね……」
「ええ、姉がいますからね……」
純一少年は下丸子隊員の問いに、手羽先と格闘しながら答える。
「君のことは……、あまり話しちゃいけないって事になっているのかい?」
「ええ……。残念ながら、詳細は秘密ってことになっています」
「そうか……」
下丸子隊員は、黙々と食べ続ける純一少年を見ながら、ふっと溜息を吐いた。
「沼部隊員が、何か、君を受け入れているのが分かる様な気がするよ……。君は敵じゃないんだなって気がする……」
「そんなことを簡単に決めて掛かると、後で痛い目を見ますよ」
「そうかも知れないね。でも……。
僕たちAIDSの敵は、基本的に秩序だった侵略軍なんだ。君は僕に言わせると、カオティックエビル、無秩序な無法者、そんなイメージがある……」
「当たらずとも遠からず……でしょうね。僕は無秩序だし、
「で、今回は、どうしてなのかい?」
「どうして、ここまで事件に首を突っ込んでいるか……ですか?
最初は、知り合いが犯人じゃないかと心配していたんです。そこは大丈夫そうなのですが、少し犯人に腹が立ってきましてね。僕の単なる気紛れですよ……」
「単なる気紛れね……」
そう言うと、下丸子隊員は、ジョッキの生ビールを飲み干した。
そして、その1時間後、純一少年と下丸子隊員は、海老名に住んでいる下丸子隊員の友人から、パク郞なる愛犬を借り受けると、その友人の車で本厚木に移動し、小山刑事から教わった狭い住宅街のパトロールを始めた。
因みに、その友人には、パク郞の散歩が終わり次第、迎えに来て貰うことで話が付いている。
純一少年は、犬のパク郎を下丸子隊員に任せ、辺りを伺いながら、何かが出現するのを待っていた……。
彼は、もしそれが現れたら、相手の服を破いてでも良いから、臭いのする遺留品をもぎ取る心算だった。そして、そうなれば、パク郞の鼻で、一気に犯人のアジトを特定することが出来るとも考えている。
果たして、その探しているものは、彼らのいる直ぐ近くに現れたのである。