迷子の宇宙人(4)
文字数 2,397文字
「要君、本当にいいの? 原当麻基地と『狐の抜け穴』で結んだりしても……」
「ああ頼む。地下の射撃練習場がいいな。この時間なら、鵜の木隊員をはじめ、誰もそこに来る筈がないし」
沼藺は「ふ~ん」と云う表情で、宇宙船の床を指さし黒い穴を開けた。しかし、その穴からは海水は流れ込んで来ない。そして、中を覗いても何も見えはしない……。
沼藺、純一少年、そして2人の宇宙人が、次々とその穴に入って行く。その後、狐の抜け穴は自然に消えて行った。
彼ら4人は、AIDS原当麻基地、地下の射撃練習場へと姿を現した。そこには誰もおらず、緊急の出口を示す緑の常夜灯以外、明かりは何も灯ってはいない。
「では、僕がお子さんをお連れします。それまで
純一少年はそう言うと、沼藺と2人で急いで矢口隊員の部屋のある、一階の居住スペースへと向かう……。
矢口隊員の部屋をノックし、純一少年が彼であることを告げると、矢口隊員は小さくドアを開けて、彼を確認した。
そして2人をさっと部屋に引き入れると、純一少年たちの首尾を尋ねる。
「どうだった? この子のお父さんとお母さんに会えた?」
「ええ、会えましたよ。今、地下の射撃練習場に待たせています」
「そうか、良かった……」
そして、沼藺に気付いた矢口隊員は、彼女にも声を掛けた。
「あ、白瀬さん。良かった。白瀬さんも生きていたんだね。そうか、純一君の友達だものね、白瀬さんも宇宙人なんだ……。心配しちゃったよ。あの時は本当にありがとう。
じゃ、白瀬さんも一緒に4人で行こうよ。
あたし、早く、この子のご両親に会ってみたいんだ……」
「うん、ナナさんも元気そうで何より。ナナさん、申し訳ないのだけど……、ちょっと、地球人には見せられない、宇宙人だけの秘密があるの。ナナさんは、暫くここで待っていてくれないかな……?」
「え~、残念……。でも、宇宙人の秘密じゃ仕方ないね……。いいよ……。白瀬さん、この子を宜しくね!」
そう言って矢口隊員は、河童の様な少年の身柄を沼藺に預ける。
純一少年は、それを確認すると、矢口隊員にソファに座る様にお願いした。
「矢口隊員……。済みませんが、少しの間、眠っていてくれませんか? 変なことはしませんから……」
彼はそう言って矢口隊員に近づいたが、沼藺がそれを制してパチンと指を鳴らす。それで矢口隊員は、催眠術に掛かった様に、ソファに座って寝てしまう。
「駄目よ、要君。変なことをしちゃ……。
理由は分からないけど、必要なのであれば、私が眠らせますから……」
純一少年は、かつての婚約者の少女に、キスを咎められ、ポリポリと頭を掻いた。
「じゃ、地下射撃場へ行きましょう。この子のご両親も心配して、首を長くして待っている筈だわ」
宇宙人の子の手を引いて、地下射撃場へ急ごうとする沼藺を、純一少年は後ろから声を掛けて制した。
「沼藺、地下射撃場じゃない。作戦室だ」
作戦室に、純一少年、沼藺、そして宇宙人の子供が駆け込むと、彼の両親は通信オペレータ席の付近で何か相談しながら作業していた。その宇宙人の2人も、純一少年たちに気付き、驚いて彼らの方に振り返る。
「お前たち……、どうして?」
「それはこっちの台詞ですね……」
「フフフ、確かにな……」
宇宙人の男は、冷静さを取り戻し、純一少年に向かって要求を突き付ける。
「おい、お前たち……。ジズの設計図は何処にあるんだ?」
「そんな所に、いかにもって風に置いておく訳ないじゃないですか……?
僕、言いましたよね。『くれぐれも妙な気を起こさないでください』って……」
「しかし、態々、敵を自分の基地に招き入れるとは愚かな奴だ。そんな迂闊な奴が働いているとなると、この基地も大したことはなさそうだな……。
さあ、怪我したくなかったら、我々の言うことを聞くんだ!」
それを聞いた宇宙人の子供が、父親に抗議の言葉を浴びせる。彼にとっても、この両親の行動は意外だったらしい。
「父上、どうして、そんなことをするのですか? この方たちは、僕を助けてくれた命の恩人なのですよ。母上まで、そんなスパイの様な真似をして……」
「子供には分からないことです! あなたは、お父様の言うことを聞いていれば良いのです!!」
「母上!」
純一少年は、寂しそうに彼の両親の正体を彼に伝える。
「君のご両親は特殊工作員なんだよ。2人は君を船外に使いに出し、敢えて追われる様に
そして、矢口隊員が通りかかるタイミングを見計らって、彼女の自動車に君が逃げ込む様に兵士を仕向けたのだ。君が基地へと入り込める様に……」
「少し違うな……。兵士に追われたのではない。変装した私に追われたのだ。我が国家では、常識とも言える戦略だよ。『反間苦肉』と言うんだ」
彼の父親の言葉を聞いた沼藺が、思いっきり怒りの叫びを上げる。
「どうして、そんなことするのです! 自分の子供なのでしょう?! もし敵に捕まって、殺されでもしたらどうするのです!! そうまでして、あなたたちが狙うモノって何なのですか?! それが、どれほど大事な物だと言うのですか?!」
「黙れ!」
そう言って宇宙人の男性は、沼藺に向けて彼の銃を発砲した。
彼の拳銃はスパイ用の物らしく、発射音は殆ど聞こえては来ない。しかし、意表を突かれたにも関わらず、彼の銃弾は
彼女のことを、宇宙人の子が、咄嗟に自らの身で庇ったのだ……。