鏡の国のカマタ(2)

文字数 1,119文字

 特に、どうしたら良いと云う案も浮かばない。取り敢えず、彼は、違和感を感じる前にしたかったこと、即ちシャワーを浴びて、汗だくの体をさっぱりさせることから手を付けることにした。

 左右が逆と云うだけであるが、それは初めての場所以上に、強烈な違和感として彼には感じられる。
 彼は、行き慣れたシャワー室に辿り着くのですら、色々と注意を払わなければならなかった。ドアのノブが思った場所になかったり、扉が左右逆に開いたり、男子の更衣室の方が通路の右側になっていたり……。

 彼がシャワー室に着くと、もう既に一人の少年が、シャワーを浴びようと服を脱いでいるところであった。
 シャワー室に来るのに余程時間が掛かったのか、いつの間にか、後ろを散歩していた純一少年にも追い抜かれていたらしい。少年はもうシャツを脱ぎ、上半身裸になって、ズボンのベルトを外そうとしている。

 少年と云っても、骨格と筋肉はもう十分大人の男と変わらない。
 彼はこの少年、純一の手首に、魔封環と呼ばれる金属製の腕輪が無い事に気付き、瞬間、彼の背中に向け、護身用に持っていた小型拳銃を発砲した。

 彼の放った銃弾は、純一少年の背中から心臓を経由し、左胸にかけて大穴を作った。純一少年は、その一撃を受け、更衣室にうつ伏せに倒れる。
 しかし、それも一瞬、純一少年は、そのままの状態で、彼に背を向け立ち上がった。
「どうして分かったんです?」

「いくら何でも、純一君がここに戻るのは早過ぎる。それに君のベルト、普通なんだよ。左右反対になっていないんだ。そして、君は魔封環を外している。もし本物の純一君だとしても、その状態の彼なら、間違いなく銃を防げる筈だからね……」
「成程ね……。失敗したなぁ……。当てずっぽうかぁ……」
 少年はそう言いながら、彼の方へと振り返った。彼は純一少年の姿をした相手に、隙を見せまいと、銃を構える両手に力を入れる。

「もう一発お見舞いされたくなかったら、この空間を元に戻すんだな」
「『そんな銃じゃ、僕を倒せませんよ……』って、彼なら言うんでしょ? 後であなたには、僕を倒せる武器をお渡しします」
「何を企んでいるんだ?」
「じゃ、ゲームのルールを説明しますね」
「ゲーム?」
「そうです、ゲームです。僕と仲間の2人は、あなたたちがエイリアンと呼んでいる生物です」
「この世界を侵略しようと云うのか?」
「侵略? 馬鹿馬鹿しい。勿論、僕たちなら1人でもこの星を制圧できますよ。でも、その後の維持管理はどうするのです? この星の生命全てを管理するなんて、僕たちはご免です。どれほどの労力とコストが掛かるか、僕たちですら想像できないですからね」
「だったら、なぜ……」
「それをこれからご説明します」
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

小山刑事、鈴木傳吉(鈴傳)刑事


刑事さんたち。小山刑事は警視庁捜査一課の刑事さん。鈴傳刑事は神奈川県警に所属している。

パク郎


下丸子隊員の知り合いの飼い犬。嗅覚は優れているが、誰にでも懐く、番犬としては役に立たない犬。

新田有希


新田純一と美菜の娘。

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