鏡の国のカマタ(6)

文字数 1,740文字

 純一少年を見送りながら、彼は考える。

「私などより、よっぽど頼もしいじゃないか。もう、純一君が、このまま隊長をやっても、十分務まるのではないか? まぁ、未来の女房に、思いっきり尻に敷かれている観はあるが……。
 こんな優柔不断な私など、もう現役を引退した方が良いのじゃなかろうか……?
 沼部も鵜の木も、もう立派に一人前だ。
 確か……、榛名基地の方で、総務系のポストの空きがあると云う話だった……。
 それをやらせて貰えるのなら、金銭的な問題もクリアされ、女房や子供たちにも負担を掛けることはない……」

 引き時……。
 そんなことも彼は時々考える。
 隊長なんて激務、何年もやるものではない。隊長職(ここ)で、ある程度のキャリアを積んだら、普通は司令部の方に移動になる。彼は新田参謀とのコネもある。司令部に移動したければ、何時でも出来たのだ。
 ただ、彼はその移動を拒否し続けていた。現場が好きだと云う理由だけで。

 しかし、その我儘も、もう限界なのかも知れない……と彼は思う。
「私が隊長に居座っているために、隊長になっても良い筈の沼部は、いつまでも副隊長扱いだ……。今が後進に席を譲る潮時なのかも知れない……」

「疲れたな……」
 彼は首を大きく横に振った。
「何を考えているんだ? 私はまだ隊長なんだぞ! 今、自分がこの問題を解決させなくてどうするのだ?
 純一君には協力して貰う! でも、この事件を解決させなければならないのは、現隊長の自分じゃないか?!」

 彼は立ち上がった。そして、少しでも情報を得られるように、基地内の多くの人間と接触を持つことにした。
 確かに、無闇にミラーマンを撃つべきではない。しかし、純一少年も調査をするなとは言っていない。何かすることがある以上、それをしないのは、怠業以外の何物でもない。
 彼の闘いは、まだ終わっていないのだ!

 それにしても基地の中には、航空迎撃部隊の隊員以外の人間がなんと多いことだろう。
 他部隊の隊長や隊員。経理や事務を担当している職員、門を警固している守衛係、食堂の担当隊員、清掃を担当している作業員。誰もが怪しく、誰もが怪しくない。
 ただ、会った人間全てが左右反転している。エイリアンが態々左右反転の服を着ていない限り、反転した服を着ている彼らは、エイリアンではなく、ミラーマンだ。

 彼は考えた。暫く考えた。
「そうなんだ……。奴ら、私を揶揄っているんだ。だとしたら、エイリアンであることが明白になっている筈だ。
 そして、恐らく、エイリアンは最初に化けた人間のまま変わらない。もし途中で変更したりすると、私がエイリアンを見つけ出すと云うゲームが成り立たなくなるからだ……。

 私を揶揄っている……。
 そう……。ゲームが終わった時、『何で今まで気付かなかったんですか? こんなに分かり易くしてあげたのに。あなたの観察力の無さのせいで、こんなに多くの人たちが死んだのですよ』と言う心算なんだ……。
 ならば、私が簡単に気付くことが出来、確信を持てる内容でなければならない。
 そして、その相手は探さなくても絶対会える……。恐らくもう、私が既に会っている人間で間違いない……。

 隊員、職員と言ってはいたが、私が毎日、確実に会う職員はいない。エイリアンは航空迎撃部隊の隊員だ……。
 そして今日、まだ部屋から出て来ていない矢口隊員はエイリアンではない。もし彼女がエイリアンであるならば、これ見よがしに私の前に現れて来る筈だ。
 今の純一君もエイリアンではないだろう。
 彼は、私が鏡像世界に入った時点、基地にはいなかった。彼がエイリアンだとすると、基地の外にいたことも、後からゲームに参加してきたこともルール違反と言っていい。
 エイリアンはゲームとして楽しんでいる。
 だから、負けたとしても、私に抗議の機会を与える様なルール違反は絶対しない筈だ。
 仮に、基地の外から戻って来たと見せていただけとしても、エイリアンが2人して純一君に化けると云うのは、あまりに不自然だ。2人が鉢合わせする可能性だって有る。だから、矢張り、彼はエイリアンでないと考えて良いだろう。
 そうすると、残ったのは……、沼部隊員、鵜の木隊員、下丸子隊員、新田美菜隊員。そうか……、そうか……、分かったぞ!」
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

小山刑事、鈴木傳吉(鈴傳)刑事


刑事さんたち。小山刑事は警視庁捜査一課の刑事さん。鈴傳刑事は神奈川県警に所属している。

パク郎


下丸子隊員の知り合いの飼い犬。嗅覚は優れているが、誰にでも懐く、番犬としては役に立たない犬。

新田有希


新田純一と美菜の娘。

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