新田家の惨劇(2)
文字数 1,060文字
怒涛の朝の数分が終わり、1日の中で一番彼女がほっと出来る時間がやってくる。しかし、今日は確か、近くのスーパーの特売日だ。ひと休みしたら、何を買うかチェックをしておかなければならない。場合によっては開店前に並ばなければ!
そう言えば、純一の靴下も、かなり痛んできている。食料品売り場を回ったら、娘の肌着を見るついでに、男物の靴下が安くなっていないかを確認せねば……。
「新田さんですか? お荷物です」
家に入ろうと、門扉に手をかけた美菜に、後ろから荷物を手に持った青年が声を掛けてきた。宅配便の配達だろう。近くに配送用のトラックも止まっている。
美菜は「少し早いけど、お中元かしら? ハムの詰め合わせだったら良いな、純一と有希の好物なんだもの……」などと思いながら、青年から両手で抱える位の小包を受け取った。
「あ、待ってね。印鑑持ってくるから……」
「いいですよ、サインだけで……」
青年はカバンの様な物から受領書とボールペンを取り出し、美菜に差し出す。
美菜は、一旦、荷物を傍にあった自転車の荷台に置き、受領書とボールペンを受け取る為、青年に近づこうと一歩前に出た、将にその時だった。青年が右手に隠し持っていた拳銃を構え、彼女の腹部に数発銃弾を発砲したのは……。
銃弾は全て、美菜の身体を捉え、何発かは背中へと貫通して行った。
消音機でも付いていたのだろう。拳銃の発射音はくぐもった様な音にしか聞こえず、近所の家からは、誰も助けに来てはくれなかった。しかし、誰かが助けに来てくれたとしても、これだけ至近距離から何発も撃たれると、内臓の多くは致命的なダメージを受けていて、もう彼女が助かる見込みはない。
美菜は、驚きながらも薄れていく意識の中で、その声を聞いていた。それは男の声ではなかった……。
「ほほほ、可哀想だけど諦めるのね。恨むんだったら、あなたの夫のボ◇◆〇、あら純一だったかしら、そいつと、そいつの生意気な妹を恨むのね!
女王の私を馬鹿にしやがって。あいつら自分が他人から能力を盗み取って強くなった癖に、偉そうにしやがって。ざまぁみろ!
自分の大切な女房が、こうやって殺されていくのを、歯ぎしりして悔しがるがいいさ! ほほほほほほほほほ……」
謎の女の笑い声は、少しずつ、少しずつ、小さくなっていった。
それは、音が小さくなっていったのか、美菜の意識が遠くなっていった為なのか、彼女には、もう判別することは出来なかった。