鏡の国のカマタ(3)

文字数 1,685文字

 原当麻基地を左右反転の世界に変え、純一少年に化けた謎の自称エイリアンは、彼に銃口を向けられていることも全く気にせず、楽し気に自分たちのことを説明し始めた。

「僕たちは、自分たちの命に保険を掛けています。ですから、もし死んでも、バックアップの記憶と、事前に培養してある臓器などの予備を移植することで、最低10回は蘇ることが出来るんです。
 でもねぇ、そうなると退屈なんですよ。スリルが無くて……。それに、保存している臓器も、そのまま置いておいても、古くなっちゃいますからね。
 で、僕たちは考えたんです、バックアップの臓器の更新をする(つい)でに、ゲームをしながら自殺をしようと……」
「自殺?」
「ええ。ですからこのゲーム、絶対勝つのはあなた、蒲田禄郎隊長で、僕たちは死ぬことになっているのです」

 純一少年の姿をしたエイリアンは、手品の様に、石鹸大の卵型をした物体を右手の掌に出して見せると、それを彼に手渡した。
 それにはボタン状の突起があり、それを押すと、何か、卵の先端から発射される仕組みになっている様であった。
「それが、僕たちを倒せる武器です。話が終わったら僕を撃ってみてください。でも、その前に、蒲田隊長、あなたにルールを説明しなければなりません。
 あなたがこのゲームに勝つには、僕たち2人を、その武器で射殺する必要があります。そうすれば、あなたは自動的に元の世界に戻ることが出来ます。
 ここの住民は、現実世界の鏡像です。あなたがいくら撃っても、あなたは罪に問われません。ただミラーマン、鏡像人間ですが、彼らを撃つと、現実世界の人間が傷つき、死ぬことになります。勿論、あなたが何人ミラーマンを撃とうとも、ゲームに負けることはありませんので安心してください。
 最終的に、僕たち2人を撃ち殺せば、蒲田隊長の勝ちです。範囲はこの基地の中だけです。外にはミラーマンしか存在していませんし、僕たちが基地の外に出ることもありません。どうです、面白いでしょう?」

「ふざけるな!」
「ふざけるなと言われても、これはゲームですからね。しかし、あなたは、この少年を信頼して、まず相談すると思ったんだけどな。いきなり撃つとは失敗したなぁ……。
 でも、仕方ないですね。最初にバレた奴がルールを説明し、銃を渡し、殺される。そう2人で決めていたのです。さぁ、ご納得頂けたら撃ってください」
「馬鹿げている……」
「あなた方もそうでしょうけど、人間余裕が出来ると、馬鹿げたことを始めるものなのですよ。後が(つか)えているんです。さっさと済ませてくださいね」
 彼は、もうどうしようもないと思い、その武器を使ってみた。すると、その卵から発射された光が、純一少年を包み込み、光の中の少年を消滅させたのである。
「どうせ生き返るんだ……」
 何か割り切れない宇宙人退治に、彼は吐き捨てる様に無意味な台詞を漏らした。

 とは言っても、これがゲームのルールであると云うのなら、それに従う以外の選択肢は、残念ながら彼には無さそうである……。

「本当にそうなのか……?」
 彼はこのゲームの裏を考えた。
「もしかすると、奴らは……、別の何かを企んで、自分に何かをさせようとしているのではないのか……?
 ミラーマンを撃たせて、ミラーマン経由で、私に誰かを殺させたいのか……? いや、それはない。それなら単純に奴らがそれをすれば良いだけだ……。
 そうやって私を揶揄う為? それは即ちこのゲームだ。このゲーム自身が私を揶揄う為の物だ。裏なんてもんじゃない……」

 結局、裏の有無は、答えが出なかった。

 それでも、エイリアンの言っていることが真実である可能性は、決して低くはないと彼は思う。
 そして、もし、エイリアンの言ったルールが真実なら、ミラーマンを撃つことなく、エイリアンを倒さなければならない。そうしなければ、隊員や職員、大切な仲間たちの命を、彼自身の手によって奪い去ることになってしまう……。
 兎に角、このゲームの根底にあるのは、彼を揶揄って遊ぼうと云う、悪意であることだけは間違いなさそうだった。

「くそ!」
 彼は思ったことを、そのまま口にした。
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

小山刑事、鈴木傳吉(鈴傳)刑事


刑事さんたち。小山刑事は警視庁捜査一課の刑事さん。鈴傳刑事は神奈川県警に所属している。

パク郎


下丸子隊員の知り合いの飼い犬。嗅覚は優れているが、誰にでも懐く、番犬としては役に立たない犬。

新田有希


新田純一と美菜の娘。

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