愛されない組織(2)

文字数 1,284文字

「AIDS航空迎撃部隊出撃!」
 蒲田隊長の出撃命令が作戦室に響き渡る。

 横一列に並んだAIDSクルーは、独自の敬礼を行い、各自与えられた任務へと急ぐ。
 今回も純一少年はガルラ組、美菜隊員と矢口隊員が待機組だ。
 ここ最近、人選は殆ど変わることがない。蒲田隊長も、万が一のことを考えると、つい、純一少年に頼ってしまうのである。

 しかし、このところ異常にスクランブル発進が多発している。この為、流石に、航空迎撃部隊メンバーの動きも鈍い。
 美菜隊員は全員の疲労を考え、悪者になる覚悟で蒲田隊長に詰め寄り、皆が作戦室を出る前に、今回は強引に出撃を志願した。

「隊長! 最近、あたしと矢口隊員は、地上での連絡係しかさせて貰ってませんけど、これって女性差別じゃありません?!」
「お、何だ? 昔みたいに純一と2人っきりになりたいか?」
 待機に不満をあげた美菜隊員に、鵜の木隊員がチャチャを入れる。
「鵜の木隊員、そんなんじゃありません!」
「じゃ、僕、矢口隊員の替わりに残りましょうか? 昔みたいに2人で地上勤務ってのも悪くないですしね……」
「純一!」
 純一少年の言葉は、例によって、美菜隊員の怒りの炎に油を注ぐ結果になった。

 蒲田隊長は一刻も早く出撃したいのだが、騒ぎが収まりそうにない。そこに助け船をだしたのは沼部隊員だった。
「分かった……。俺と純一君が残る。矢口と新田はガルラに乗れ。話は後で隊長としようじゃないか。それで良いですね、隊長」
 蒲田隊長が了解の意を示すと、一同はそれぞれの行動を開始した。

 ガルラ出撃から10分後、通信オペレータ席でだらけている純一少年が、会議テーブルで資料を調べている沼部隊員に声を掛けた。
「いいんですか? 沼部隊員?」
「ん、何がだ? 出撃しなかったことか?」
「ええ、そうです」
 沼部隊員は大した事でもないとばかりに、資料調べの手を休めもせず、表情も変えずに純一少年との会話を続ける。
「それなら大丈夫さ。どうせ、また大した戦闘にならないのだろう? 君がまず先に、新田に戦闘を譲ったのだからな……。大悪魔の純一君?」
「なんだ、分かってたんだ……」
 とは言うものの、純一少年は特に驚いた表情をする訳でもない。

「ああ、随分と長い付き合いだからな、純一君とも……。ところで、どうするんだ?」
「何がですか?」
「新田のことだよ。ああ、結婚するのは分かっている。あいつをこのまま、戦闘に参加させておくのかってことさ……」
「そうですね……。僕としては、彼女にはリタイアして貰って、家庭に入って貰いたいのですけどね。彼女に同意して貰えそうにないのですよ……。
 僕の安月給じゃ、とても暮らしていけないって……。そう言われたら、僕には返す言葉が無いですからね」
「そうだな。あの調子じゃ、AIDSを辞めさせるのは難しそうだしな……」
「でしょう?」

 純一少年はそう言うと、両手を頭の後ろに組んで、後ろに倒れそうなほど、通信オペレータ席の椅子に(もた)れかかった。そして天井に向かって独り言のような台詞を漏らす。
「もっと、給料の良いとこに転職したいんだけどなぁ……。僕の方としては……」
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

小山刑事、鈴木傳吉(鈴傳)刑事


刑事さんたち。小山刑事は警視庁捜査一課の刑事さん。鈴傳刑事は神奈川県警に所属している。

パク郎


下丸子隊員の知り合いの飼い犬。嗅覚は優れているが、誰にでも懐く、番犬としては役に立たない犬。

新田有希


新田純一と美菜の娘。

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