迷子の宇宙人(3)
文字数 2,124文字
「お望みの姿にされたわよ。で、どうする心算かしら?」
「勿論、美菜隊員の唇を奪うんですよ。決まっているじゃないですか」
純一少年はそう言うと、ゆっくりと美菜隊員の身体の上に、自分の身体を重ねる様に
「止めて純一! 許して、嫌よ!」
「あれ? 嫌ですか?」
美菜隊員の台詞に、純一少年は彼女に重なるのを止めて、ベッド脇に降り立った。
「何やってるの? 君の為に気分出してあげたんじゃない!」
「ややこしい人だなぁ……」
純一少年はそう言うと、ベッドの脇から、さっと美菜隊員の唇に口を付けて生気を吸い取った。そして彼は、意識を失って死んだ様に眠っている美菜隊員を見ながら、済まなそうに縛り上げた理由を説明する。
「ご免なさい、美菜隊員。こうしないと、美菜隊員まで僕らの共犯者になってしまいますからね……。あくまで美菜隊員は、僕に拘束されて、何も出来なかったことにしないと行けないんですよ……。
鍵は閉めておきますね。何かあると行けないから……。事が済んだら自由にしますから、それまで待っていてください……。
じゃ、僕は行きます……」
純一少年が水着に着替え、部屋から出ていった暫く後に、寝室のベッドから美菜隊員の寝言が聞こえてくる。
「馬鹿ぁぁぁぁ!」
純一少年は基地の駐車場で、自らの皮を伸縮させ、黒い三角の紙飛行機の様な姿へと変身した。これはステルスモードと云う、高速かつ隠密に飛ぶ為の飛行形体である。
このステルスモードでは、悪魔の翼で飛ぶのではなく、洋凧の様な姿となって上昇気流を受けて浮かび上がり、風に乗って大空を滑空するのだ。
彼は自らの質量を減らして行き、気流操作を使って一気に上昇して行った。
純一少年は、そのまま海に向かって吹く
出し風
に乗って、相模川を下流へとどんどん南下していく。そして、東海道線の脇に掛かる馬入橋付近にまで来ると、高度を下げ、河口数十メートルの辺りで、彼は海中へと跳び込んだ。純一少年は海中で人間形体に戻り、今度は水中で呼吸でき、自由に行動できる体質へと変化する。これも悪魔の能力の1つだ。
この能力を使って、彼は砂に埋もれた目的の宇宙船まで簡単に泳ぎつく。
彼は『危険察知』で、その宇宙船の正確な位置が分かる。そして、その中にいる宇宙人の数も……。
彼に分からないのは宇宙船の入り口と入り方だ。しかし、それは向こうの方で都合をつけてくれた。
宇宙船が砂の中から姿を現す。
出入り口だろうか? 上面中央に円筒形の突起が飛び出し、円筒の側面の一部分が扉となってすっと開く。その中に純一少年が入ると、扉は再び閉じて、円筒は船内へと納まっていった。
円筒の中では、溜まった海水が排出されて行く。排水しきると、今度は反対側、船内側の扉が開く。どうやら、二重ハッチの構造になっているらしい。
純一少年は、その開いた扉から、宇宙船の内部へと進んで行った。すると、そこに待っていたのは、あの迷子に似た、2人の宇宙人であった……。
「どうして僕を船内に入れたのです? ここの空軍に狙われている筈なのに……」
女性と思われる宇宙人の方が、純一少年の問いに答える。
「あなたは、私たちの宇宙船を見ても攻撃して来なかった。それに、あなたは闘う姿をしていない。だから、あなたは平和的な交渉にやってきた可能性が高いと判断した」
これについて、必ずしも正しいとは言えないと純一少年は思う。が、それについての指摘は控えた。
「僕は、あなた方と取引きする心算はありませんよ。幾つかお願い事があるだけです。
あなた方に、迷子になったお子さんがいらっしゃいませんか? もしいるなら、その子を連れ帰って、早くこの星から出ていって欲しいのです……」
「あの子がいるのですか?」
「ええ……。厄介なことに、僕たちの基地の中に彼はいます。
僕があなた方をワームホールで基地にお連れしますから、そのまま、その子を連れて宇宙へと旅立って欲しいのです。
僕は、この星があなた方を敵とした判断に口を挟むことは出来ません。ですから、この星にいると、この星の空軍から、あなた方は攻撃されることになります……」
宇宙人のもう片方、恐らく彼の父が承諾の意を示す。
「分かりました。この星で補給を行いたかったのですが、それは諦めましょう」
「済みません……。あなた方の要望に添うことは出来ません。それは諦めて頂いて、このまま静かに旅立ってください。僕はそれを強く望みます……」
それを聞いた父親らしい宇宙人は、黙って奥に行き、ワームホールのハンドセットと思われる器具を取って戻ってきた。
「私と家内で行きましょう!
これは、この宇宙船に、そのまま戻るワームホールを発生させる為の器具です。
でも……。あなたは、この器具をお持ちではない様ですね……。どうやって、あなたの基地に戻るのですか?」
純一少年は「こうやります」と言って、右手の小指を自分の額に押し当てた。
右手の小指の『思い出』。
正信や真久良では、何かと文句を言われそうだったので、純一少年は、心の優しい