新田家の惨劇(5)

文字数 1,079文字

 訪問者はモニタに姿を映し出されている。
 ドアチャイムを押したのは、誰あろう、先程家を出たばかりの純一であった……。

 忘れ物でもしたのだろうか?
 怒りの治まらない美菜は、このまま純一を無視し、居留守でも使ってやろうかとも思った。だが、矢張り、彼に直接文句を言わずにはいられない。
 美菜はドアを開いた……。

 それから、彼が吹き飛ぶまでは、一瞬の出来事だった……。
 純一は、ドアが開くなり美菜に襲い掛かろうとしたのだが、いつの間にか足元に立っていた有希が、押し(とど)める様に両手を前に出し、触ること無しに、自分の父親を突き飛ばしていたのである。

 不意を打たれ、尻もちをついた純一は、苦笑いを浮かべながら有希に話しかけてきた。
「どうしたんだい? パパじゃないか?」
「小母さん、クイーンって云うんだ……。駄目だよ、騙そうとしても……。
 小母さん大悪魔だよね。だったら、あたし、盈小母さんから許可貰っているんだ。魔力を使っても良いって……」
 美菜は、この展開に言葉も出ず、ただ口に手をあてている。

「フン、お前もイシュタ■▼×と同じで、私の正体が分かるのか!」
「小母さん、そうやって『幽霊だって』パパを騙してたんだ……。
 有希には、全部分かっちゃうんだよ。小母さんが実は実体のある悪魔で、昔パパと闘った悪魔とは別人だったってことも。
 自分の思い出を使って、小母さんを幽霊だと思わせ、それを退治させて、安心させておいて、パパが遠くに行くのを隠れて待っていたことも……」

 純一の姿をしたクイーンは、再び純一の家族2人に襲い掛かろうと立ち上がった。
 しかし、彼女は直ぐに(したた)か尻餅を搗き、その状態で立ち上がることも出来なくなってしまう。彼女の体重は、瞬間的に何倍にも増加させられたのである。
 有希は印を結び、目を閉じて、何やら口の中で、ぶつぶつと念仏の様なものを唱え始めた。そして、それが終わると、静かに目を開いて一言、その術の名前を示す。

「極光乱舞……」

 その言葉と同時に、純一の姿に身を変えていたクイーンは、苦しそうに見悶えながら、全身から、赤、青、黄色など、七色の光を放出させていく。
 しかし、その動きも、数秒後にはピタリと止まり、全身が白く変色してしまう。霜に覆い尽くされたのだ。
 有希はクイーンの体が硬く氷結したのを確認すると、今度は左手の掌を彼女に向け、強力な圧縮空気の弾丸を発射する。
 既にクイーンは、身体の弾性を完全に失っており、もう、その衝撃に耐えることなど出来はしなかった……。

 それで……、
 純一の姿をした悪魔は、ガラスが割れる様に、粉々に砕け散ったのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

小山刑事、鈴木傳吉(鈴傳)刑事


刑事さんたち。小山刑事は警視庁捜査一課の刑事さん。鈴傳刑事は神奈川県警に所属している。

パク郎


下丸子隊員の知り合いの飼い犬。嗅覚は優れているが、誰にでも懐く、番犬としては役に立たない犬。

新田有希


新田純一と美菜の娘。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み