第26話(第4章第8節)

文字数 6,277文字

 辻に立つと奥州の短い夏の熱気があふれていた。
 路の両脇に所狭しと立ち並ぶ商店や出店を冷やかしながら、滴はすたすたと先を歩いて行く。朱夏と透はすれ違う人の流れにぶつかりながら、それを追いかけた。
「おい、姉御。どうするんだ。」
 透が滴の背に向かって呼びかけた。
 左右を見回していた滴は瞳だけを後ろに向けた。
「どうするって。」
「入会に入っていた山が、横取りされようとしているんだろう。何か手を打った方がいいんじゃないのか。」
「言われなくてもそうするさ。でも、いまここで出来ることは何もないだろう。家に帰って、おっ父に相談しないと。」
(それはそうなんだが。)
 そうであるならば、さっさと浄法寺へ引き返した方がいいのではないのか。砂太は津軽からすぐに帰って来るわけではないだろうが、少なくとも落ち着いて考えを巡らせ、旗屋の様子を窺うなどの当面の対処は急いだ方がいい。滴が冷やかすように五日市を歩き回っているのが、朱夏には解せなかった。
「おや、昆布が出てるよ。朱夏、買って帰るかい。」
 腹の虫が、そんな思索を追いやって鳴った。
 下北の産だろうか。懐に入るだけの量を買い求め、さっそく一切れを口に入れてみる。久しぶりに塩気が身体を駆け巡り、血が熱くなるような感じがした。
「三陸のとはまた違うけど、おいしいね。」
「なんだよ、緊張感のないやつだ。」
 透が口をとがらせる。
「そうかっかしないで、あんたも食べなよ。」
 朱夏は一切れわけてやった。昨日の夜以来の気まずい雰囲気を、塩昆布を渡すことで少しは振るうことができただろうか。透は黙ってぱくつくと、辛そうに眉間にしわを寄せている。
「津軽のほうから来たのかい。」
「十和田だけどね。」
 滴は杖を置いて路の傍らに屈むと、蓆の上に塗物を広げている男に話しかけている。
「景気はどうだい。」
「さっぱりだな。」
「なんだか今日は、津軽の塗物が少ないようだねえ。」
「鉱山が開くってんで、人を集めてるからな。手っ取り早く銭になる方にみんな流れちまった。」
「どこもかしこも鉱山だね。」
「全くだ。得体のしれない連中がやってきて、山を荒らすからさ。」
「あんたらの山も、禿げちまったのかい。」
「まだしばらくは大丈夫だろうけど。湖が汚れるってみんな心配してるよ。」
「ああ、綺麗らしいね。十和田の湖は。」
「あれで魚でも取れれば、もう少し楽に暮らせるんだがな。」
「魚も漆林と同じように、苗木を植えて生えてくれればいいけどね。」
「面白いことをいう娘だな。稚鯉(ちごい)でも放ってみるか。」
 滴は如才なく世間話をしながらも、男の前に広げられている椀を手にとって吟味している。だまになった色漆を研いで斑にした唐塗りの重箱は、以前蒔たちが話をしていたが、いくつもの工程を経ていそうな逸物と見えた。
「この輪紋はどうやって出すんだ。」
 透が滴の肩から覗きこんで質問している。滴は透の指差した盆を手にとると、花弁を象った細かな輪紋をなぞった。
「菜種だね。」
「よく知ってるじゃないか。」
 男はにやりと笑みを浮かべた。漆の乾く前に菜種を表面に塗しておき、乾いてから払い落すとこうした輪紋が浮かびあがる。そこに色漆を塗り重ねて様々な文様を描くことが出来るという。
七々子(ななこ)塗りというんだ。」
「面白いな。それ、もらうよ。」
 透が懐に手をやる。
(あんたもなんだかんだ楽しんでるじゃないか。)
 すっかり塗り師然として他地域の技巧に関心を示す透をみて朱夏は苦笑した。
「毎度。」と言いながら梱包を始める男の手つきを眺めながら、
「今日は、どこの問屋が締めてるの。」と滴がさりげなく問う。
三光(さんこう)どのだったよ。あんたら素人じゃないねえ。挨拶にでも行くのかい。」
「いや、勉強になったよ。せいぜい湖を守ってやりなよ。」
 滴は顔に笑みを貼り付けて、それ以上深入りせずに立ち去ろうとする。どうやらこの男から買い物をするのは本来の目的ではなく、元締めのことを知りたかったらしい。三光と言うのが漆問屋の名で、五日市の中で漆の行商人たちの管理を輪番で預かっている問屋の一つなのだろう。
 滴はその名を聞くと、こつこつと杖を鳴らしながら勝手知ったる様子で福岡の町中を辻から辻へと進んでいく。
「あまり無理をしない方がいいんじゃないですか。」
 朱夏はその速度に思わず声をかけた。午前中に代官所で衝撃を受けてから、昼餉もそぞろに人いきれの中を歩き回る体力が妊婦に満ちているとは思えなかった。
「そうかもね。あとこれだけ終わったら、今日は大人しく宿に帰るか。」
 滴はふうと息を吐いて素直にうなずいている。見れば顔には玉の汗が浮いていた。暑さばかりが理由ではないだろう。
「どうするつもりなんだ。」
 透がさっきと同じ調子で問い立てた。
「元締めの問屋のまわりに、良い場所をとれなかった行商人たちが溜まってるんだよ。塗物が欲しい奴はそこに集まって来るからね。いつもわたしたちがやってる競りみたいな場所になるんだ。」
 滴がようやく詳しく説明するので、透も納得したようだった。
「なんだ。そんなところがあるなら、わざわざ暑苦しい辻を行ったり来たりしなくて良かったんじゃないのか。」
「いや、まあ行けば分かるよ。」
 滴は乾いた口をきいた。
 しばらく行くと、砂屋と同じような小屋の群が散在している一角に着いた。このあたりの路は市の喧騒を離れて、普段通りの街道沿いの宿場町といった風情だった。そうした町並みの一つに三光屋は構えられていた。広さをもった園庭には滴の言うとおり、(ひし)めくように(むしろ)を敷いた男たちが、与えられた場所に僅かばかりの品を揃えている。
「砂屋の、滴どのか。」
 三光屋の家人と思しき中年の男が声をかけてきた。
「わざわざこんなところまで。主人は、今日は市の方に出ていますが。」
「店の方は結構な賑わいでしたよ。ご挨拶をしようかと思いましたが諦めました。よろしくお伝えください。」
 滴は見てきたようなことを言った。三光屋はここにある工房だけでなく、街の中心の方にも小売り店舗を構えているのだろう。
(あの賑わいを見れば、まんざら嘘でもないのだろうけど。)
 番頭は少しばかり気を良くしたようだったが、訝しそうな眼の光は消えていない。
「今日は代官所に用があって、その帰りに寄らせてもらったまでですよ。」
 滴は何気ないように言い訳をした。
「そうですか。ゆっくりご覧下され。うちの品も少しばかりですが、出してありますので。」
 番頭はそういって大人しく引っ込んだ。
 その後ろ姿を見送りながら、滴は杖に体重を乗せて瞑目している。朱夏は気遣ったが、口を開くより前に滴の方が歩き出しながら二人の方を振り返って、小さな声で言った。
「浄法寺の椀を並べてる奴を探してくれ。」
「何だって。」
 透が思わず聞き返す。
「言った通りだよ。手分けした方がいいかもね。散ろうか。」
 滴は手短に指示した。
(どうやら買い物に来たわけじゃないようだな。)
 細く設けられた敷物の隙間を歩くうちに、滴の言う意味が分かり始めた。
 どうも、質が悪い塗物が多い。
 一見、上等の漆と同じように仕上げられてはいるが、手に持ち上げてみるとさわり心地がごつごつしていたり、所々剥離し始めているようなものもある。
 そう思ってあたりを見てみると、ぽつぽつと吟味している客側の層も、市の真ん中を肩で風を切って歩く商人の連中に比べればぎろりと眼をむいた柄の悪い連中が多いように見える。
 不審を募らせながら奥の一角に着く。総黒に塗られた椀は、浄法寺椀の特徴を備えているように朱夏には思われた。反対側の通路を通ってきた滴と透もそこに合流する。どうやら朱夏の見立ては間違っていなかったようだ。
「ここらの一角に、浄法寺の手の者が集められているみたいだな。」
 透がさきほどの滴の、隠しごとをするような雰囲気を読み取って、囁くように二人に声をかけた。
「だが粗悪なものが多いのではないか。」
「うん。わかるだろ。要するに、市に出すほどの質でないものを、元締めがここに囲っているんだよ。」
「なるほどな。下地が甘いんじゃないのか。」
 透はうんうんとうなずいている。
柿渋(かきしぶ)(にかわ)なんかを混ぜた液で下地を仕上げるんだ。漆同士と違ってお互いを吸い込まないから、そこから湯水が入りこんで剥がれるんだよ。」
(その分、作るのにかかる銭は少なくて済むってことか。)
 蒔が希少な材料をかき集め、綺羅星(きらぼし)のような加飾をすることで自分の椀に付加価値をつけるのと全く逆を向いた制作をしているということになる。
 すうっと、風が抜けたような気がした。
 朱夏はあたりを見回した。
 蓆の向こうに座り込んだ男たちが、一斉にこちらを見上げている。
(なんだ…。)
 朱夏は気圧されて、思わず滴の方を見た。
 杖に両手を乗せ、姉御は顎をくいと上げて、男たちを睥睨(へいげい)するように冷たく見下ろしている。鼻から深いため息を放つのを、そこに居た者たちのみなが耳にしただろう。
「お前ら、砂屋か。」
 一人の男が挑戦するような声を出した。
「……。」
 朱夏も透も、滴が応えるのを待っている。滴は緩やかに表情を変える。頬を上げ、笑みのような顔を作る。笑っているのに、鬼が乗り移ったような迫力があった。先程まで浮かべていた汗は今やすっかりと引いており、本当に人間であることをやめたような表情だった。
 男たちはその笑みに押し返されたようだった。
「何か文句があるのか。」
「だれが市に来ようが、勝手だろう。」
「大きい問屋だからって、おれらに指図するいわれはないはずだ。」
 口々に、非難の声をたてはじめる。ちらりと工房の方を見ると、先程の番頭が抜け目なくこちらの方を見つめている。騒ぎが大きくなるようなら、いつでも止めに来る、といった風情だ。
「そう、別に好きにすればいいさ。」
 滴が口を開くと、そうしたがやがやとした音が再び一斉に止んだ。
「でも、どうせ好きにするんなら、うちに持ってきたらどうだろうか、と思ってね。」
「砂屋で扱うということか。」
 透が座を代表するかのように問いを投げた。
「あんたら、街道の遠い道を歩いてやってきて、それで元締めの問屋に口銭を払って、それでやっとこんなはずれの地にやっと猫の額ほど場所をもらって。それじゃ生活がたたないんじゃないかい。」
「余計な御世話だ。」誰かが言った。
「ああ、余計な世話をしてやろうというんだ。浄法寺の椀を、いったん砂屋で預かる。それでまとめて福岡に持って来るんだ。そうすれば、あんたら一人一人で持ってくるよりも市の良い場所で捌けるようになる。ここで売るよりずっと高く売れるよ。」
(組合を組むということか。)
 初めて浄法寺に着いた晩に、滴が砂太と話していたことを少し思い出した。安比川のさらに上流に棲む連中が、自分たちで勝手気ままに福岡へ椀を持ちこむことで、価格の下落が起きることを滴たちは懸念していたということか。
 確かに滴が言うように、一産地の椀は誰かがまとめて市に持ち込むことで輸送費も節約できるし、価格決定力も温存することが出来る。もっと言えば、福岡の市に持ち込まなくても、浄法寺の里中の、まとめて保管された場に商人たちを集めて、そこを市のようにすることもできる。砂屋が開催している競りを、もっと大きい規模でやろうということだ。滴の狙いが、朱夏にもわかりかけてきた。
(じゃあ滴どのは、ここに個別に来ている連中を囲い込むために来たってこと。)
 それは福岡の三光屋のような問屋からすれば面白い話ではあるまい。わざわざ敵の懐に飛び込んでまでそんな営業のようなことをするのは、危険が大きいのではないか。よほど滴は焦っているのだろうか。
 朱夏の思索がここまで至ったあたりで、こつん、と何かがぶつかる音がした。
「お前ら。」
 透が庇うように身を乗り出す。滴の持つ杖の傍らに、黒椀がひとつ転がっている。誰かが投げたもののようだ。
 朱夏が拾い上げたその椀は、強固に塗装されたはずの漆面にひびが入ってしまっている。
「砂屋に任せてたら、おれらは飢え死にしちまう。」
「盛漆を待ってる余裕がないんだ。」
「すぐにでも銭に替えないと。」
 男たちは触発されたように再びがなり始める。滴は苦しそうに目頭を揉みながら、それでも言葉を繋ぐ。ぎりぎりと杖の先端が地面に食い込んでいく。
「苦しさに負けて、弱い立場に甘んじているだけじゃ道が開けないだろう。新しい時代になったんだ。徒党を組むと言うと聞こえは悪いが、団結することで周りのものを動かせるということに気付き始めるべきなんだ。」
 言いきるとつらそうに顔を伏せた。
「おためごかしだな。」
 男たちの中で、弁の立ちそうな一人が反駁した。
「あんたらがご大層に加飾された椀を試作しているのは噂になっているよ。要するに、技術のあるものだけを囲い込んで、技術を尽くした椀だけを売りたい、そのために、技術の無いおれたちの椀が売り買いされるのが、都合が悪いということだろう。」
「おれたちはそんなつもりで椀を作っているんじゃない。馬鹿にするな。」
 透が声を荒らげた。その糾弾の語は、塗りの奥深さに触れ始めた彼の誇りに障るものだっただろう。
「だが、結果的にそうなる。あんたら、おれたちの椀が買い叩かれると言ったな。あんたらに任せても、結局買い叩かれるのが見えている。その悲しさがわかるのか。」
 その叫びに呼応して、涙ぐむ者までいた。
(それは開き直りではないのか…だが、だからと言って誰もかれもに研鑽することを求めるのも、酷と言うものだな。)
 朱夏は、滴に反発する男たちの主張を聞きながら、どちらにも軍配を上げがたい難しさを感じていた。砂屋の人間としては滴や透に寄り添って思考すべきだが、もう一人の透徹した自分が現状を冷静に見据えていた。
 工房の方から、番頭が歩いてくるのが見える。騒ぎが大きくなって、浄法寺の一角以外の商人たちも、首を伸ばしてこちらの様子を窺っている。
「姉御!」
 透が叫んだ。ふらりと重心を失った滴に、肩を貸している。
「組合ってんだな、あんたらのいうのは。」
 先程の男が追い打ちするように声を張り上げた。
「旗屋に任せるというのでどうだ!」
 朱夏が目を見開くよりも早く、居並ぶ男たちが立ち上がった。
「旗屋なら、殺し掻きも上手くいって景気がいいようだしな。」
「おれたちのような腕の悪い椀でも、喜んで引き取ってくれるだろうよ。」
「組合がいいってんなら、旗屋に相談に行こうじゃないか!」
「砂屋どの! どうされたのだ!」
 三光屋の番頭が駆け寄って来る。
「姉御!」
 透の叫び声が、悲鳴のようにさらに大きくなる。滴の身体の力は完全に抜けきって、握っていたはずの杖がころりと地に転がる。透と番頭の二人に抱えられながら気を失った滴がその場から退がるのを、男たちが大声で喚きながら追いたてる。
(完全に裏目だ。)
 朱夏は威嚇するような眼をして後ずさりをしながらも、いまや砂屋は、浄法寺における権勢を大きく損なおうとしていることを澄明に意識していた。
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登場人物紹介

朱夏(シュカ)

主人公。1853(嘉永6)年8月生まれ

月顕寺(ガッケンジ)の和尚である嶺得に読み書きを習い、

嘉永の大一揆を率いて死んだ父親が遺した書物を読み耽って知識を蓄えた。

商家の旦那に囲われながら自分を育てた母親に対しては、同じ女として複雑な思いを抱く。

幼馴染みの春一を喪ったことで先行きの見えなくなった三陸の日々を精算し、鉄山へと旅立つ。

やがて紆余曲折を経てたどり着いた浄法寺の地で、漆の生育に関わりながら、

仏の世話をし、檀家たちに学問を授け、四季の移ろいを写し取ることに意義を見いだしていく。

塩昆布が好き。

春一(ハルイチ)

1852(嘉永5)年生まれ

すらりとしたかっこいい漁師の息子。

朱夏とは“いい仲”だったが、戊辰戦争で久保田攻めに加わり、鹿角で行方不明となる。

盛岡で再開した彼は「白檀(ビャクダン)」と名乗り、鹿角での過酷な戦闘で記憶を失っていた。

浄法寺に林業役として赴任し、天台寺に朱夏を訪ねるようになる。

透(トオル)

1853(嘉永6)年6月生まれ

遠野から鉄山へ来た色素の薄い青年。遠野では馬を育てていた。

朱夏と反目しながらも一目を置き合い、やがてあるきっかけで親しくなっていく。

朱夏とともに鉄山を抜け、浄法寺へと同行する。

浄法寺では、蒔から塗りを学びながら、鉄山で得た知識を生かした製作へと情熱を抱き、

砂屋の事業へと傾倒していくことになる。

慶二(ケイジ)

1854(嘉永7)年生まれ

心優しい春一の弟。幼い頃小さかった身体は、次第に大きくなる。

朱夏とともに橋野鉄鉱山へ向かう。

嶺得(レイトク)

朱夏が通う月顕寺の和尚。45~50歳くらい。

髭面で酒好き。朱夏に読み書きばかりでなく、仏の教えの要諦や、信仰の在り方を説く。

当時としては長老に近いががまだ壮健。朱夏の父親代わりの存在。

横山三池(サンチ)

労務管理担当役人。アラサー。

世間師を生業として藩内を歩くことで得た経験を生かし、口入屋まがいの手腕で、藩内から鉄山へと労働力を供給している。

飄々と軽薄な雰囲気ではあるが、男だと偽って鉄山に入った朱夏にとって、本当は女だと事情を知っている三池は頼れる兄貴分である。

田中集成(シュウセイ)

三池より少し歳上の銑鉄技術者。高炉技術の研究に情熱を注ぐが、政治には関心がない。

なまじの武家よりも話が合う朱夏のことを気に入り、三池とともに相談に乗る。

なお、名前の本来の読みは「カズナリ」である。

荒船富男(トミオ)

鉄山の棒頭(現場監督)で人夫たちを酷使する。容貌は狐に似て、神経質だが同時に荒っぽい。

もとは上州で世間師をしており、三池とも交流があったため、何かと張り合っている。


小松川喬任(コマツガワ)

橋野鉄山を差配する旧武家。40代前半。

長崎で蘭学を学び、南部藩内に近代的な洋式高炉を導入したその人。

見た目は厳しいが清濁を併せ吞み、朱夏と透を鉄山の中核となる、ある事業に登用する。

滴(シズク)

1850(嘉永3)年生まれ

木地師と名乗り、盛岡で朱夏と透を助けた頼もしい姉御。新聞を読むのが好き。

二人を浄法寺へと導き、商家「砂屋」の食客とする。

砂屋の経営を担い、漆の生育、競りの開催、天台寺との交渉、生産組合の結成など、

時代の流れに応じ、先を見据えた手を打っていこうと奮闘する。

蒔(マキ)

1854(嘉永7)年生まれ

座敷童のように福々しい見た目をした滴の妹。

圧倒的技術力で砂屋の塗り小屋を治める塗り師。

行商の男たちに強気に交渉するが、それは世間知らずの裏返しでもある。

透に塗りを教える中で、彼女自身も成長していく。

風陣(フウジン)

越前から浄法寺へやってきた越前衆の頭目。

大柄で髭面。ならず者のように見えるが、口調は柔らかく油断できない。

浄法寺に「殺し掻き」を導入し、越前の刃物を売って生産力を高める。

「旗屋」の食客として、砂屋に対抗する。

政(マサ)

天皇家の赦免状を持つ近江の木地師。風陣とともに旗屋の食客として活動する。

大柄な風陣とは対照的な小男で、ほとんど喋らないように見える。

やがて砂屋と旗屋の対立の中で、特殊な役回りを与えられるようになっていく。

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