朱の環(めぐ)り

作者 ktorachief

[歴史]

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<あらすじ>
【第1章】幕末の南部藩(岩手県)南東端の釜石郊外に育った朱夏(12~16歳女)は、戊辰戦争で幼馴染みの春一を亡くし、廃仏毀釈で出入りしていた月顕寺を焼かれ、橋野鉄鉱山へと旅立った。
【第2章】鉄鉱山というホモソーシャル空間へイケメンパラダイス然と乗り込んだ朱夏は、過酷な労働や事故死に直面しながらも読み書きの才を生かして奮闘する。遠野から来た透と親しくなるが、明治政府の方針転換と江差県庁による密銭の取締の手が迫る。(17~19歳)
【第3章】盛岡県庁の前で再会した春一は、過酷な戦闘で記憶を喪失していた。明るくも癖のある姉御・滴に導かれて朱夏は春一を追うように浄法寺へと向かう。
【第4章~】岩手県北西端の浄法寺で朱夏と透は、滴の妹で美しき塗り師・蒔と出会うとともに、漆の掻き取り、木地挽き、漆塗りと加飾までサプライチェーンが一体となったこの里の生産力に驚嘆する。
蒔に指南されて塗りに傾倒する透に対し、朱夏は安比川対岸の天台寺に潜り込み、一歩引いた形で事業に携わるようになる。しかしこの里にも、越前衆や近江木地師が暗躍し、近代合理主義の波が押し寄せる。彼らとの対決は、春一との再会は、そして朱夏が見つけた生きる道とは。(19~20歳)

<執筆動機>
鉄生産、漆の掻き取りや器製作といった産業が近代化によって変遷していく過程を、主人公の成長(12歳~20歳)とリンクさせてみました。
「少女漫画的」「お仕事恋愛小説」を、幕末~明治初年の日本へと適用する試みにもなっています。(その結果、朝ドラ風味になりました。)
以下、関心分野が似ている方は是非、コメントをいただければ幸いです。
・多様な漆工芸の技法(木地、塗り、加飾の各工程について)
・最近の漆生産業振興政策(日光東照宮への安定供給等)の応援
・「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録
・明治三陸沖地震(大海嘯、よだ)の描写による、防災史の視点
・瀬戸内寂聴さんが浄法寺に対して1980~90年代に行った「文筆業による観光振興」という取り組みの先取り
・東北地方を貧困の中の残酷物語然としてではなく、それでも弾ける青春を描きたい
・女性の働き方という点で、鉄山というメンバーシップ型ホモソーシャルの限界と、漆塗りのジョブの対比
・明治初年頃の風土・民俗への興味

目次

完結 全40話

2020年12月02日 22:42 更新

  1. 序章(明治二十九年)

  2. 第1話(序章第1節)2020年05月18日
  3. 第2話(序章第2節)2020年05月18日
  4. 第一章 三陸海岸(文久四年~明治二年)

  5. 第3話(第1章第1節)2020年05月18日
  6. 第4話(第1章第2節)2020年05月18日
  7. 第5話(第1章第3節)2020年05月14日
  8. 第6話(第1章第4節)2020年05月18日
  9. 第二章 橋野(明治二年~四年)

  10. 第7話(第2章第1節)2020年05月14日
  11. 第8話(第2章第2節)2020年05月29日
  12. 第9話(第2章第3節)2020年05月20日
  13. 第10話(第2章第4節)2020年05月14日
  14. 第11話(第2章第5節)2020年05月16日
  15. 第12話(第2章第6節)2020年05月14日
  16. 第13話(第2章第7節)2020年05月14日
  17. 第14話(第2章第8節)2020年12月02日
  18. 第三章 盛岡(明治四年・春)

  19. 第15話(第3章第1節)2020年05月24日
  20. 第16話(第3章第2節)2020年05月14日
  21. 第17話(第3章第3節)2020年05月24日
  22. 第18話(第3章第4節)2020年05月24日
  23. 第四章 浄法寺 一(明治四年・夏)

  24. 第19話(第4章第1節)2020年05月14日
  25. 第20話(第4章第2節)2020年05月24日
  26. 第21話(第4章第3節)2020年11月19日
  27. 第22話(第4章第4節)2020年05月14日
  28. 第23話(第4章第5節)2020年05月27日
  29. 第24話(第4章第6節)2020年05月14日
  30. 第25話(第4章第7節)2020年05月14日
  31. 第26話(第4章第8節)2020年05月14日
  32. 第五章 鹿角(明治四年・秋)

  33. 第27話(第5章第1節)2020年05月28日
  34. 第28話(第5章第2節)2020年05月14日
  35. 第29話(第5章第3節)2020年05月25日
  36. 第30話(第5章第4節)2020年11月16日
  37. 第31話(第5章第5節)2020年11月16日
  38. 第六章 浄法寺 二(明治四年~五年・冬)

  39. 第32話(第6章第1節)2020年05月24日
  40. 第33話(第6章第2節)2020年05月14日
  41. 第34話(第6章第3節)2020年05月14日
  42. 第35話(第6章第4節)2020年12月02日
  43. 第36話(第6章第5節)2020年05月14日
  44. 終章(明治二十九年)

  45. 第37話(終章第1節)2020年05月14日
  46. 第38話(終章第2節)2020年05月14日
  47. 第39話(終章第3節)2020年12月02日
  48. 主要参考文献

  49. 主要参考文献2020年05月10日

登場人物

朱夏(シュカ)

主人公。1853(嘉永6)年8月生まれ

月顕寺(ガッケンジ)の和尚である嶺得に読み書きを習い、

嘉永の大一揆を率いて死んだ父親が遺した書物を読み耽って知識を蓄えた。

商家の旦那に囲われながら自分を育てた母親に対しては、同じ女として複雑な思いを抱く。

幼馴染みの春一を喪ったことで先行きの見えなくなった三陸の日々を精算し、鉄山へと旅立つ。

やがて紆余曲折を経てたどり着いた浄法寺の地で、漆の生育に関わりながら、

仏の世話をし、檀家たちに学問を授け、四季の移ろいを写し取ることに意義を見いだしていく。

塩昆布が好き。

春一(ハルイチ)

1852(嘉永5)年生まれ

すらりとしたかっこいい漁師の息子。

朱夏とは“いい仲”だったが、戊辰戦争で久保田攻めに加わり、鹿角で行方不明となる。

盛岡で再開した彼は「白檀(ビャクダン)」と名乗り、鹿角での過酷な戦闘で記憶を失っていた。

浄法寺に林業役として赴任し、天台寺に朱夏を訪ねるようになる。

透(トオル)

1853(嘉永6)年6月生まれ

遠野から鉄山へ来た色素の薄い青年。遠野では馬を育てていた。

朱夏と反目しながらも一目を置き合い、やがてあるきっかけで親しくなっていく。

朱夏とともに鉄山を抜け、浄法寺へと同行する。

浄法寺では、蒔から塗りを学びながら、鉄山で得た知識を生かした製作へと情熱を抱き、

砂屋の事業へと傾倒していくことになる。

慶二(ケイジ)

1854(嘉永7)年生まれ

心優しい春一の弟。幼い頃小さかった身体は、次第に大きくなる。

朱夏とともに橋野鉄鉱山へ向かう。

嶺得(レイトク)

朱夏が通う月顕寺の和尚。45~50歳くらい。

髭面で酒好き。朱夏に読み書きばかりでなく、仏の教えの要諦や、信仰の在り方を説く。

当時としては長老に近いががまだ壮健。朱夏の父親代わりの存在。

横山三池(サンチ)

労務管理担当役人。アラサー。

世間師を生業として藩内を歩くことで得た経験を生かし、口入屋まがいの手腕で、藩内から鉄山へと労働力を供給している。

飄々と軽薄な雰囲気ではあるが、男だと偽って鉄山に入った朱夏にとって、本当は女だと事情を知っている三池は頼れる兄貴分である。

田中集成(シュウセイ)

三池より少し歳上の銑鉄技術者。高炉技術の研究に情熱を注ぐが、政治には関心がない。

なまじの武家よりも話が合う朱夏のことを気に入り、三池とともに相談に乗る。

なお、名前の本来の読みは「カズナリ」である。

荒船富男(トミオ)

鉄山の棒頭(現場監督)で人夫たちを酷使する。容貌は狐に似て、神経質だが同時に荒っぽい。

もとは上州で世間師をしており、三池とも交流があったため、何かと張り合っている。


小松川喬任(コマツガワ)

橋野鉄山を差配する旧武家。40代前半。

長崎で蘭学を学び、南部藩内に近代的な洋式高炉を導入したその人。

見た目は厳しいが清濁を併せ吞み、朱夏と透を鉄山の中核となる、ある事業に登用する。

滴(シズク)

1850(嘉永3)年生まれ

木地師と名乗り、盛岡で朱夏と透を助けた頼もしい姉御。新聞を読むのが好き。

二人を浄法寺へと導き、商家「砂屋」の食客とする。

砂屋の経営を担い、漆の生育、競りの開催、天台寺との交渉、生産組合の結成など、

時代の流れに応じ、先を見据えた手を打っていこうと奮闘する。

蒔(マキ)

1854(嘉永7)年生まれ

座敷童のように福々しい見た目をした滴の妹。

圧倒的技術力で砂屋の塗り小屋を治める塗り師。

行商の男たちに強気に交渉するが、それは世間知らずの裏返しでもある。

透に塗りを教える中で、彼女自身も成長していく。

風陣(フウジン)

越前から浄法寺へやってきた越前衆の頭目。

大柄で髭面。ならず者のように見えるが、口調は柔らかく油断できない。

浄法寺に「殺し掻き」を導入し、越前の刃物を売って生産力を高める。

「旗屋」の食客として、砂屋に対抗する。

政(マサ)

天皇家の赦免状を持つ近江の木地師。風陣とともに旗屋の食客として活動する。

大柄な風陣とは対照的な小男で、ほとんど喋らないように見える。

やがて砂屋と旗屋の対立の中で、特殊な役回りを与えられるようになっていく。

ファンレター

タイトルが秀逸です

作品の構成や時代考証、登場人物のキャラ立ちなど、ちょっとしたお笑いポイントなど、細部にこだわりが感じられて、長編ながら最後まで楽しく拝読しました。 自分の意志ではどうにもならない運命(時代や環境)を受け入れながら精一杯生きる「朱」夏と、そうやって生きていく中で運命的に繋がっていく「環」の話で、全体を通して読み切った後に「タイトル通りの話だったなぁ」と腑に落ちる感じがよかったです。 それと、ポイントポイントで事件やイベントが起こりますが、そうではない日常パートのような場面でも、風景の変化や ... 続きを見る

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処女作とお聞きして

軽い読み物を想像していましたが、お仕事の表現は自身の経験をふんだんに活かした硬派な描写もあり、そうかと思えば人間関係はドライな中に温かみを感じる、単純だけど複雑な人間の心理を違和感なく表現した描写もあって、読み応えのある作品でした。

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小説情報

朱の環(めぐ)り

ktorachief

執筆状況
完結
エピソード
40話
種類
一般小説
ジャンル
歴史
タグ
漆, 浄法寺, 鉄, 岩手, 明治, 世界遺産, お仕事恋愛小説, 【骨太小説】, 瀬戸内寂聴, 幕末
総文字数
345,138文字
公開日
2020年05月10日 21:04
最終更新日
2020年12月02日 22:42
ファンレター数
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