第14話(第2章第8節)

文字数 13,220文字

 だが、いつまでも誤魔化しきれるものではない。
 あの日なぜ全ての窯の火を消して視察に備えたはずの鋳銭小屋から、それも掛屋から一目瞭然の場所から煙が上がったのか、原因は知れなかった。
 朱夏たちは特定の人物のことを疑ったが、何か証拠があるわけではない。その男は視察の日には鉄山に寄りつかず、盛岡に居たことになっている。結局くすぶっていた火が何かの拍子に燃え上がったのだということになった。
(わたしも、透も、みんなしっかり確認して火を消した。抜かりなどあるはずがない。)
 朱夏は不満だったが、結果的に県庁に露見せずに済んだのだからと、みな真剣に追及しようとは考えていないようだった。
 江刺県の役人たちも、橋野の村の者の証言を集めたり、鉄山で働いた者たちから話を聞いたりして、鋳銭の決定的な現場を押さえようとうごめいているようだった。
 公式な視察では、小松川の顔を立てて細かな調査はできないことが分かった県庁の役人たちは、抜き打ちの視察に来るのではないかと予想された。
 そこで、橋野の村中や峠道、正門への追分などに見張りの人夫を立てることにした。その中には銭座のことを教えられていない人夫も交じっていた。
「おれも、明日、辻立ちを言いつけられたよ。一人で立ってるのは退屈だな。」
 ある晩、人足小屋で寝る準備をしていると、慶二がそうこぼした。
「山に登らなくてもいいから楽でいいんじゃないの。」と朱夏は慰めたが、
「それはそうなんだけど、県庁が来るとそんなにやばいのかな。」
「・・・・・・」
「人夫の中には、逃げる心構えをしてる者たちも居る。役人たちは何も教えてくれないから、自分の身は自分で守らないと、と思っているみたいだ。」
 人夫たちの間にも、動揺が走っているようだった。
 朱夏は、事態がここまで進展した以上、密銭を継続するのは現実的に困難になっているのでは無いかと思った。近く、県庁からのお目付役も赴任する予定になっている。いくら賄賂を渡して口止めをしたところで、どれほどの効果があるのかも分からない。人の口に戸は立てられないのだ。
 しかし、高炉の火は燃え続け、鋳銭小屋の煙は上がり続けている。まさに三池が指摘したとおり、この鉄山には、鉄山の中だけではなく外の村々にも様々な利害関係者が居て、その生活を守るために操業を継続せざるを得ないのだ。
「兄ぃは、なにか事情を知っているの。掛屋で書き方をしていたら、色々な話が耳に入るんじゃないの。」
 口調は軽いが、目は真剣だった。朱夏は詰め寄られているような感じがした。
 慶二とは本当の兄弟ではない。朱夏は、鉄山に入り込み、慶二の母親の加減がよくなるように、方便として春一になったに過ぎない。しかし春一として、男として鉄山で働くうちに、朱夏にとっても春一としての人格を持つことが心地よく感じることもあったし、透のように、春一として友情を深めることが出来た者もいる。そして慶二は、仲のよかった本当の兄の思い出に踏ん切りをつけて、今や朱夏のことを「兄」と呼んで頼りにしているのだ。
 朱夏も、慶二がいてくれたことで、この密閉された高炉場の小世界の中で日々を過ごすのに、どれだけ安らぎを得られたか計り知れない。
 それが今、役人たちの恣意によって、鉄山の秘密を知る者と知らぬ者に勝手に分断され、連帯感の共有を妨げられているのである。朱夏はそのことに苦しんでいた。
「ズクを作る・・・高炉を動かすことが、人々の生活を守ることに繋がると・・・そういう思惑でおられるのだと、思う。」
 精一杯の答えを返したが、
「人々の生活を守るため、人夫たちは口答えをせず言われたとおりに動け、ということか。」
 こうなると売り言葉に買い言葉のようである。ますます眉根をひそめた朱夏の顔を不満気に見つめ、慶二はごろりと横になってしまった。
 ふて寝をしたいのは朱夏も同じだったが、こうした場合に知っている側が知らぬ側の思いを受け止めて咀嚼してやるべきなのだと思った。兄は、弟の面倒を見てやるべきなのだ。
(だがそれは、わたしの本当の気持ちなのか。)
 いくら考えても分からなかった。

 慶二は、午過ぎから夕餉時までの間、峠道から黒門までの道の追分に立っていた。退屈だと思っていたが、行き交う牛方や近くの村の女たちの様子を見ていると、それほど飽きずに時間を過ごせていた。路面は、慶二たちが初めてこの鉄山に来たときよりも深く荷車の轍を掘りつけている。鉄山の賑わいの、その時間の蓄積を象徴しているようだった。
(県庁が来るんなら、遠野の方角からなんだろう。)と思って西方を向いて近くの手頃な石に腰掛けていた慶二は、後ろから来た男たちに気づかなかった。
「おい。」と声を掛けられて、振り返ると、せかせかと腕をこすっている富男が立っていた。
「あ、棒頭どの。」
 立ち上がって返事をした。富男は後ろに数人の男を連れている。海側へ下りていく峠道に立哨していた人夫たちだった。
「こちら側の者たちは引き上げだ。すぐに交替の者が来る。おまえも小屋に戻って良いぞ。」とまくし立てて来る。
「え、しかし、申し送りをするまで持ち場を離れてはならぬと・・・」
 慶二はとまどいの声を漏らしたが、
「だからそれまでの間、わたしがここに居てやると言っておるのだ。はやくゆけ。」
 富男に追い立てられ、他の人夫たちと一緒に首を傾げながら坂を下りた。
(早く終わったならそれでいいか。)
 夕餉の時間まではまだ少しいとまがあると思い、人足小屋に戻って一寝入りでもしようと思った。
(兄ぃ、何を知ってるんだ・・・)
 しばし微睡(まどろ)んだが、ややあって小屋の外でなにやら騒がしい声が上がり始めた。
「・・・はおるか! 案内せよ!」
「しばし、しばしこれにてお待ちを!」
 男たちの争う声が寝起きの頭にこだまする。
(侍たちが、もめてるのか・・・?)
 板戸を少し開けて外を覗くと、夕日を浴びて白づくめの男たちの影が並んでいるのが見えた。
「小松川殿に会わせよ! そのために参った!」
「支度をいたしますので、しばし、門にてお待ちください!」
 男たちが着ているのは、立哨する人夫たちに伝えられていた県庁の役人の制服そのものだった。
(これが兄ぃたちの言ってた雪だるまか・・・!)
 いつの間にか慶二の後ろに、小屋の中に居た他の人夫たちも集ってきて、
「ありゃ県庁だろ。こないだ視察の日にも見たぞ。」
「いよいよやばいか。」
「荷物まとめなきゃな。まとめるほどもないが。」などと言い合っている。
 白い男たちは鉄山の役人を押し退けて掛屋の方へ向かっていく。その後ろに、先ほど慶二たちを追い払った富男が追従しているのが見えた。
(富男? これは兄ぃに報せないと!)
 慶二は小屋の壁に掛けられた当番表を見て、兄と透の欄にともに「入会地」と書いてあるのを確認し、板戸を開けると一番高炉に向かって坂を駆け上がった。
 普段、人夫たちが勝手に入会地に入ることは禁じられ、所々に見張りの人夫も立っていたが、今はみな騒ぎに気をとられている。
(入会地で、いつも何をやっているんだ・・・。いや、いまはそんなことは。)
 慶二はここに来て初めて、高炉場の外の運搬路の茂みの中へと足を踏み入れていった。

 朱夏と透は入会地の鋳銭小屋で作業をしていた。森の奥深くに作られたこの鋳銭小屋は、煙が高炉場から見える心配も少なく、比較的気遣い少なく鋳銭が出来るので、多くの鍛冶人夫が配置されていた。朱夏も今日は掛屋ではなく、ここで秤量をする当番になっていた。
 透が打った鉄銭を、秤で量って重さを確認し、帳面に貫目を記録していく。単純作業だが、火を焚いて暑苦しい空間で一日続けているとさすがに疲れが来た。
「そろそろ、今日は終わりにするか。」
 棒頭役の人夫が声を掛けた頃、
「兄ぃ! 兄いい!」と小屋の外で大声を出して呼ばう声がする。小屋の中の人夫たちが顔を見合わせている。
「慶二?」
 朱夏は素早く反応した。
「慶二が何でここに来るんだ。あいつは銭座のことを知らんのだろう。」と透が首を傾げている。「それに何か様子がおかしいな。」
「知らぬ者にこの小屋を知られるわけにはいかんぞ。おぬしら、見て参れ。」
 棒頭に命じられ、朱夏と透は森に出た。
「慶二か! どこに居る!」
 朱夏は声を張り上げた。
「兄ぃ! どこだ!」
 木々の間から返事が聞こえた。
「いったん、森の外まで戻れ! おれたちも向かう!」
 透が彼方へと指示した。慶二がそれに従う声が聞こえて、朱夏たちも走った。
「まさか・・・」
「あいつは今日、見張りだったはずだが・・・」
 想像は、悪い方に膨らむばかりだった。
 森の外に着くと、慶二は息を切らせて座り込んでいる。
「わたしに、何か、用か。」
 落ち着かせようとわざとゆっくり話した。
「役人が・・・」
「県庁が来たのか。」
 透が身を乗り出した。
「掛屋に、荒船殿が案内を。」
 慶二ははぁはぁと息を切らせながら途切れ途切れに喋っている。
「見張りはどうした。」
「おれがしてたんだけど、富男が、交替が来るからもう良いって、追い払われて。」
「狐め!」
 朱夏は叫んで斜面の下に向かって走り出した。透も追いかけてくる。
 一番高炉のそばを抜け、二番高炉の脇も走り抜ける。正門から来る道と合流して右に曲がると、三番高炉と役所の掛屋が見えてくる。
 森の中の鋳銭小屋から出た煙が、木立よりも高く立ち上って、空を染めている。もうじき日が暮れる。その煙を背景にして、掛屋の前で洋服の男たちと鉄山の役人たちが争っている。
 手に持っているのは、ここで作った鉄銭や、書類の束である。
 刹那、朱夏は月顕寺が燃えた日のことを思い出した。
(また、私の大切なものが喪われる。)と直感した。
 しかし、この破局は、廃仏毀釈の時と違って、あらかじめある程度予測できたものだ。
(お触れを破ると決めたときから、覚悟はしていた。)
 思わず足を止めたところで、掛屋から三池が顔を出した。
「三池!」
「春っ! 小松川殿を頼む! 神社の奥だ!」
 三池は朱夏の姿を認めるとそう呼びかけて、再び掛屋の中に入っていった。中で県庁の役人たちの詮議を受ける必要があるのだろうか。透と顔を見合わせた。
「神社の奥、小松川さまが自ら、そちらの鋳銭小屋を案内させられているのか。」
 透が言う。おそらくそうなのだろう。森へ向かって走った。神社の脇を抜け、更に奥へ。木立の間に差し込む光が色を失い始め、後ろから夜の帳が降りてくるのを感じた。喉の奥がひりひりと痛んでも、小屋に向かってまっすぐと進む。
「しっ!」
 透が朱夏の肩を叩いた。小屋の灯りが見える距離まで近づいた。三池が頼むと言ったのは、県庁の視察に真正面から同席せよという意味では決してあるまい。密かに接近し、そこでのやりとりを漏れ聞くことが二人に与えられた使命であると分かっていた。ここからは足音を殺して距離を詰める。わざと遠回りをして、小屋の側面から近づいて木立の影から様子を伺った。
(やっぱり、外を見張ってる雪だるまがいる・・・)
 小屋の入り口には県庁の役人が立哨していた。それは取りも直さず、小屋の中で重要なやりとりが目下行われていることを示してもいる。二人は目で合図をし、さらに気配を殺して小屋の裏手へ回り込んだ。
 小屋の壁に外から耳を当てて中の声をうかがってみる。男たちのくぐもった声が聞こえるが、内容までは判然としない。だが張りと威厳のある小松川の声の響きがその中に混ざっているのは間違いないように思えた。
「どうする。」
 透が小声で相談してきた。
 朱夏は必死で耳を研ぎ澄ませ、頭を働かそうとした。無意識にふところから昆布の束を取り出して、量も見ずに口の中に詰め込んだ。(から)さに歯を食いしばった。
「ちょっとあぶないけど・・・覗いてみようか。」
 壁の上の方に設けられた煙抜きの窓から覗いてみようと思った。中から外は暗がりになってよく見えないだろう。「わかった。」と言って透がしゃがみ込んだ。朱夏を上にして肩車をすれば窓の高さまで届くだろう。腿に透の肩から熱が伝わり、すぐに持ち上げられて目線が上がる。ふぅと深呼吸をして窓の羽目板を僅かに滑らせた。建物の中の空気が、すぅっと外へ漏れ出してきて思わず身を縮めた。
(気づいた様子はないか・・・?)
 中ではやはり、県庁の役人たちと小松川が対面していた。小松川は入り口に向かって立っているので朱夏の場所からは表情をうかがい知ることは出来なかったが、奥に居座ることでこの建物のあるじであることを言外に主張しているようであった。
「いつごろからこれを?」
 窓を開けたので、男たちの声も明瞭に聞こえるようになった。
「最初からじゃな。」
「明治二年の禁止令は、当然ご存じだったわけですよね。」
「・・・・・・」
 ねちっこく詰問する雪だるまたちに対して、小松川は落ち着いた様子で振る舞っている。彼らはそれが気にくわないようで、
「藩政時代に多大な貢献をしたからといって、甘く見ないでいただきたい。すでに時代は変わり、盛岡や遠野では列強に倣った機構を備えた県庁が成立しているのです。山の中に居るとそうした情勢にもうとくなるのでしょうか。」と口を歪めて皮肉を言う。
「列強に倣うと申されたが。」と小松川は依然落ち着いて、
「我々は鉄を作っておる。列強に立ち向かう武器を作るのに大きく役立つ大切な産業だ。研究を深めて生産量も格段に向上した。我々がここで操業することで、貴殿たちにも大きな利益をもたらしていると思っていたが。」
 挑むように言った。男たちはややたじろいだようであったが気を取り直して、
「中央のお触れを無視して動くわけには行きません。それが新しい時代の、公儀の在り方なのです。とにかく、きっちりと牢屋に入って貰いますよ。」と言い渡した。
 小松川は黙って聞いていたが、「仕方あるまい。」と諦めたように言った。「鋳銭を継続すると決めたときから、覚悟は決めておったよ。事ここに及んで、逃げ隠れするわけにはいかんな。」
「分かっていただければ良いのです。」
 強気な口調だが、安堵した声だった。
(小松川さま・・・。私も覚悟はしておりましたが、やはり悔しいです・・・)
 朱夏は心の中で、小松川の思いに寄り添おうと努力した。
 思えば密銭を始めたときから、ずいぶん危ない綱渡りをしてここまで続けてきたものだ。三池が朱夏たちをこの場に遣わせたのは、終焉に際してのこうした小松川の在り方を見届けておけという意味だったのかも知れない。
「縄を打つ前に少しだけ、この者と二人で話をさせて貰えないか。」
 小松川が声音を変えて言った。
「え、ああ、お好きにどうぞ。では我々は掛屋でお待ちしておりますよ。」
 左右に分かれた雪だるまの影から、一人の男が顔を出した。
 富男だ。珍しく羽織を着ている。
(やっぱり居たか・・・)
 朱夏は歯ぎしりした。
「どうなってる?」
 県庁の役人たちが立ち去りかけた足音が聞こえたのか、透が下から訊いてきた。
 朱夏は下を向いて「しっ」とむき出しにしたままの歯の前で指を立てた。「まだだよ。」
「荒船よ、ひとりで大丈夫なのか。」と県庁の一人が声を掛けている。
「どうせ逃げ場はございませんよ。」
「そうか、ならば我々は待っておるぞ。」と言い残し、全員で森の外へと去って行った。
 朱夏は一度窓から顔を引いて、男たちが立ち去るまで息を殺した。
「さて。」と小松川が切り出した。
「捕まる前に、おぬしの本当のところだけ教えてくれまいか。」
「本当のところ?」
「わしを売って、いかほどの官職を得ることとなった。」
「・・・・・・」
「別に恨んでもおらんよ。だが今の政府にとってのわしの値打ちを、知っておきたいと思ってな。」
「恨んでないだと・・・」
 富男は憎しみのこもった目で小松川の方を見た。小松川の身体を通り抜けて、朱夏までもその視線に射貫かれてしまうようだった。
「おぬしが盛岡や遠野に行くと言ったときから、こうした結末になることはある程度予想しておったよ。人の口に戸は立てられん。ならばせめて少しでも、鉄山の中の事情を知る者が、鉄山の側に立って話を伝えてくれることを、わしは望んだのかも知れん。」
「そうやって、われわれの運命を司っているかのように振る舞うあなたがた侍が、わたしにはどうにも赦せませんでしたよ。」
 富男は冷めた声でそれに答えた。小松川は手を顎へやっている。こちらからは窺えないが、ぽかんとした顔をしているのだろうか。
 朱夏は慶二から聞いた話を思い出していた。慶二が語る彼らの棒頭の悪口の中に、富男が関東で居場所を喪い、奥州に逃れてきたという話があったはずだ。
(侍の都合で、自分の運命を狂わされることへの憤りか。)
 それは春一をいくさにとられた朱夏にも分からない感情ではなかった。だが、小松川がその叫びを本当に理解することはないのだろうという諦めもあった。
 昨日の晩、銭座を知る者と知らない者との断絶を慶二に対して感じたのと同じように、百姓の生き方を知らない小松川たち侍との断絶も感じざるを得なかった。同じ鉄山で何年も働き、苦楽を倶にしたつもりになっても、先天的、あるいは後天的に与えられた違いによって、本質的に人と人とはわかり合えないようにできているのかもしれない。
「私からもお話がござります。」
 朱夏の思索を遮るように、富男が酷薄な顔で言った。
「切腹なされてはいかがか。小松川殿。」
「ばかな。密銭は露見したが、高炉技術は今後のわが国の発展に不可欠だ。わしはしばらくは獄に繋がれるだろうが、いずれまた培った技術を国のために役立てる機会が来るだろう。それを待つ。」
 小松川はそれを一笑に付した。
「あなたが責任を一手に引き受けることで、他の者は罪に問われなくなるのではないですか。苛烈な吟味に、みずからの手の者をさらすのはおつらいでしょう。」
「お家騒動のときのように、勝った者が敗れた者を一方的に拷問するような吟味は、もう起こらんわい。しっかりと証言をとって、必要充分な罪に問えばそれでよい。死んで責任をとるなどと言うのは、それこそが武士の誇りに悖ることだ。」
「いいから切腹しろ! 介錯はおれがしてやる!」
 富男は突如として激した。弁舌では侍に叶わないと悟ったのだろうか。
「無礼者が。もう、このくらいでよいわ。わしは捕まりにいくこととしよう。」
 小松川は白けたように富男の脇を通り過ぎて、小屋から出ようとした。
(終わったか。追いかけないと。)
 朱夏が窓から目を離したその一瞬、
「ぐわっ!」と小屋の中から声がした。
 慌てて再び窓の中に視線を戻すと、富男が後ろから小松川を突き刺している!
「この山の鉄を使って、作られた刀だよ。自分の鍛えた鉄に、貫かれて死ぬなら、あんたも本望だろ。」
 肩で息をしながら富男がささやいている。
「貴様・・・っ」と言い残して小松川は倒れ伏した。富男が刀を抜き取ると、鮮血がびしゃっと吹き出した。そのまま首を落とそうというのか。
(な、なんてことを!!)
 鋳銭小屋の壁や床が赤く染まっていくのを見て、そのあまりの惨劇に朱夏はおののいた。のけぞった拍子に身体の平衡を失った。
「お、おい! なんだよ。どうなったんだ。」
 透がそれにつられて体勢を後ろへ崩し、そのまま二人で茂みに倒れ込んでしまった。
「あ、痛てて。」
 二人で声を上げると同時に、小屋の中から「誰だ!」と富男の声が響いた。
 朱夏は我に返り、「透、やばい。掛屋に戻るよ。」とまだ腰のあたりをさすっている透を追い立てるように起こして、森の更に奥へと逃げ出した。まっすぐ掛屋に戻ると、小屋から出た富男と鉢合わせてしまう。森の中を迂回して高炉場へ戻るのだ。
 だが富男は目敏く走り去る影を認めたようだった。県庁の白い影ではなく、明らかに鉄山の人夫である。目を血走らせて追いかけてくるのが朱夏からも見えた。これではまっすぐ掛屋に戻るわけにはいかない。
「上へ!」
 朱夏は透をいざなって斜面を駆け上った。
「一体なにがあった!」
 透が叫びながら説明を求めた。
「小松川さまが・・・斬られた。はやく、掛屋に報せて、手当てをしないと・・・」
 透は絶句している。
「待て! 待ちやがれ!」
 後ろからいきり立った富男の叫び声が聞こえてきた。
「富男、小松川さまに、切腹しろと・・・迫って、他の者の罪が軽くなるからと。でもわたしには、侍への、恨みを晴らそうと、しているようにしか、見えなかった・・・」
 息を切らしながら状況を説明しようとする。
「切腹と斬られたのでは、意味が全く違う。だったら、下手人が富男だと、しっかり伝えなければならない。」
 さすがに透の頭の回転は速かった。
 斜面を駆け上がるうちに、見覚えのある森に出た。いつの間にか尾根を越えて、運搬路に近い入会地の中までたどり着いていた。
(しめた、これなら一番高炉から回り込んで掛屋まで戻れる。)
 密銭のため鋳銭小屋まで通った日々が、二人に入会地の土地勘を与えていた。
 富男は声を立てるのをやめて、ただじっと二つの影の行方を追いかけて後ろから忍び寄っているようだったが、抑えきれない殺気が森の中から漂ってくる。
 朱夏たちも闇雲に走るのではなく、姿を忍ばせながら進み、運搬路へ出た。
 牛の蹄の跡が固めた土の上に残っている。待ち伏せをされていないか警戒したが、富男は自分たちが運搬路の近くに居ることを把握していないのだろう、まだ森の中で殺気を放っているようだった。
(森の中で足踏みしててくれっ)
 朱夏は祈るようにして気配を殺して踏みしめられた道の上を走る。透も心得てその隣へ付き従った。
「兄ぃ!」
「慶二!」
 不意に声を掛けられて、思わず返事をしてしまった。
「おい!」と透が焦って朱夏の肩に手をかける。
(しまった、居場所を知られた。)
「どうしたんだよ! 掛屋の方にいったんじゃないのか。なんで上から出てくるんだ。」
 慶二が駆け寄ってくる。
「なんでこんなところにいるんだよ!」
 朱夏は思わず声を荒らげた。
「なんでって。人足小屋に戻ろうと思って・・・」
 朱夏は自分を殴りたい気持ちになった。慶二はさっき入会地まで朱夏たちを呼びに来て、息を整えてから下に戻っているだけだ。鋳銭小屋の惨劇でずいぶん時間が経った気がしたが、さっきからまだ半刻も経っていない。
「わ、なんだよ。」
 慶二が後ろを見て目を見開いた。振り返ると羽織の裾をぐしゃぐしゃに乱して刀を抜いた富男の姿が見えた。
(見つかった!)
「やっぱり、おまえら兄弟か。気に入らねぇ。いつもいつも。」
「慶二は関係ない! おまえのやったことを知っているのは、おれと春一だ!」
 透がかばうように手を広げた。
「ふざけやがって、じゃまばかりしやがって。」
「慶二・・・下へ逃げろ。」
 朱夏は慶二を逃がした。慶二は何か問いたげな顔をしたが、踵を返して下へと駆けだした。
「こっちだ!」
 透も身を翻して駆けだした。一番高炉の周りを囲む櫓から、瓦斯灯が闇を吸い込むように赤銅の光を放っている。その明かりに導かれるように、二人は櫓の階段を登った。
 富男は慶二を追うことなく、櫓の階段へと向きを変えた。もう走っては居ない。櫓の上に逃げ場はない。
 窯口には初めて登った。板張りの作業場の両隅に採鉱場で採った鉄石と、慶二たちが焼いた木炭が並べられ、その中央で窯の赤い口が開いている。一日の操業を終えても、高炉の火は絶えることはない。
 朱夏はもの問いたげな目で透の方を見た。
「慶二を逃がすには、別れるしかないだろ。」と透が息を整えながら言った。
 かつ、かつ、かつ、と。
「何であんなところにいた。」
 富男が階下から姿を現した。
「いや、訊かなくても分かってる。三池の野郎だな。おまえらみんな、おれが土方で泥にまみれている間、屋根ん下でつるんで仲良くしやがって。侍のまねごとで。」
 わき上がってくる怒りを抑え込むような声だった。
「銭座がズクを捌く大事なしごとだって、あんたも知ってるんだろ。」
 透が応じた。
「そんなことは関係ない。」
 富男は小松川の血に濡れた刀をぬらりと光らせた。
「斬るのか。おれらも。こんなとこで人夫が二人も、刀傷で死んでたら、さすがに誤魔化しようがないぞ。」
「それも関係ないね。おれはもうここを去る人間だ。この鉄山じたい、もう無くなるだろう。人夫の一人や二人死んだところで、誰も気にしないさ。」
「嘘でも、人夫のことを考えるといいなよ。」
 朱夏は絞り出すように言った。
「密銭を決めるとき、あのとき、あなたは人夫のことを考えないといけないと言ったでしょう。」
「何のことだ。」
「棒頭なら、嘘でも、人夫を大事にするのが仕事でしょう。自分の中のやりきれない思い、侍への憎しみ、分からないではないよ。だけど鉄山で働くなら、そういう気持ちを押さえて、立場に応じたふるまいをすべきだ。」
 炭づくりのときから、こいつにこき使われた。直接使役される側にいたときにも、みすみす土砂崩れに人夫を巻き込み、懲罰的な配置をしたことが憎かったし、銭座に移ってからも慶二たちが疲弊していることに義憤を感じた。しかしいま、こいつがただ感情に駆られて斬った小松川という侍は、自分の持つ矛盾に苦しみながらも、時代の中での自分の役割を意識して、もがきながら前に進もうとする立派な男だ。それを、こいつは。罵倒する言葉がつぎつぎに喉の奥から湧いて出た。
「気持ちのままに動くなら動物と一緒だ。狐野郎。」
「うるさいぞ女が!」
 富男が激して言った。その言葉に朱夏は愕然とした。
「気づいていないとでも思ったのか? おまえ盗賊宿で会った女だろう。三池の野郎にたぶらかされて山なんぞに来て、いい気になりやがって。」
 透も眼を見開いて驚いていたが、
「春一が、男でも女でも関係ないだろう! いまはおまえの悪辣さについての話だ!」
「悪辣! どっちがだ!」
 富男は今度は透に向かって吠えた。
「おれだって最初は密造に協力しようと本気で思っていたさ。だが、しばらく経つ内に、こんなことは長続きしないと気づいた。時代が変わったことに気づかず、山の奥でお触れを破り続けるおまえらの方が悪辣だ! だったらおれは、こうやって、県庁に職を得てのし上がるしかないだろうさ。」
「そんなことをして得る職にどれほどの意味がある。」
 透も負けずに言い返す。
「流れ者として歩くうちに、秩序の中に、役割を見いだしたくなる気持ちが分かるか? 新政府になって、藩というものが無くなった。これは好機だ。おれのようなよそ者でも、県というものの中なら役割を与えられ、のし上がっていける。侍を殺して、それでのし上がれる、こんな痛快なことがあるか!」
 どこかに所属し、居場所を見つける喜びは、朱夏にも分からないではなかった。だがこいつの言っている役割とは、権力をふりかざすことでしかない。権力を持つものには、それなりの責任と苦しみが付随するはずなのだ。
「県庁は、本当に小松川さまを亡き者にしたかったの。あなたは、小松川さまを殺すことで、のし上がっていけると、本当に考えているの。」
 なぜ、小松川を斬ったのだ。朱夏はそれを尋ねた。
「・・・」富男は答えない。
「ばかな。県庁から見れば密銭の首魁といっても、だから殺そうだなんて単純すぎるだろう。」
 透が追い打ちをかけるように嘲笑した。
「視察の日に、鋳銭小屋で火を焚いたのはあんただね。」
「・・・・・・忘れたね。」
「あんたの言う秩序とは、あんたの気に入るようにみなを動かすことでしかない。みなが認め、守りたくなるような秩序を作り、保って、それで一つのものを作り上げると言うことができないの?」
「結局は侍のてのひらの上さ。自分が権力に近づかなくて何とする?」
「・・・・・・」
 これ以上話しても無駄だと、お互いに悟ったような沈黙だった。
 女の朱夏はともかく、透は若くて身軽な男である。富男は刀をきらつかせながら警戒して二人との距離をじりじりと詰める。
 朱夏は思わず後ろの、窯の中を見た。
 高炉の火が、燃えている。こんな日も、変わらずに燃えている。
 精錬中は、火を絶やさない。それが、小松川が西洋の精錬を学び、この国にもたらした技術である。
 富男が朱夏の方に狙いを定めて近づいてくる。朱夏もじりじりと後退する。
(逃げ場がない。)
 斬られるのか。小松川のように。
 外で水車がうなり、高炉の中からふいごの送った熱風が吹き出した。
 富男がひるむ。
 透が、富男に向かって、何かを投げた。
 棟梁が、鉄石と木炭を交互に入れる、合図を出す拍子木を投げたのだ。
 富男が、透の方に狙いを替える。
 また、じりじりと距離を詰める。
 朱夏の足元に、鉄石を窯に放り込むための、鉄製の鋤が転がっている。
 手に取ってみようとしたが、重くて持ち上がらない。
(春一、力を貸して・・・)
 鋤を引きずりながら、富男の後を追う。
 富男が、透を追い詰めて、振り上げた刀を一息に下ろした。
 かんっと刃こぼれの音がして、身をかわした透の後ろの煉瓦に、刀が弾かれる。
 富男が一瞬、見当を失う。
 朱夏は鋤を思いっきり持ち上げて、富男の後頭部に振り下ろした。
 ぐぇっっと声がして、富男がふらつく。
 支えを求めて、中空に手を伸ばす。そこには何もない。
「危ない!」
 朱夏は思わず叫んだ。
 先ほど熱風を吹き出した窯の口に、今度は建屋側から吹き返しの風が流れ込む。
 富男は突風に吸い込まれ、窯の中に落ちていった。
 遥か足元の方で、「ああああぁぁ!」という断末魔が聞こえる。
 下は灼熱の炎である。
 朱夏はへなへなと座り込んだ。
(落ちてしまった。富男が。)
 あの狐のような顔をした棒頭が。朱夏たちをこき使い、土砂崩れで駒をみすみす生き埋めにし、人夫たちをもののかずとも思わなかった棒頭が。世間師として生きていく道を断たれ、侍の世界での栄達を野望した男が。
 透が身を起こし、朱夏の方に近寄ってきた。
「小松川さまのことを、報告せねば。荒船が下手人であると。」
 朱夏はしかし、腰が抜けて立てなかった。
「なんだ。情けないな。」
 急にぽろぽろと涙が出てきた。あどけない少女の表情に戻っていた。
「分かったよ。」
 透が抱きしめてくれる。透の胸の中でしゃくりあげた。
 息を整えて、「ありがとう。行こう。」と言った。
 二人で櫓の階段を下りていった。
(――田舎なれども南部の国は、西も東も金の山)
 透の歌う声が頭の中に鳴り響くようだ。
「兄ぃ!」
 慶二が寄ってくる。
「こいつを頼む。」
 朱夏に肩を貸していた透が、その身体を慶二に渡した。
「女なのか、こいつは。」と慶二に問うた。
 慶二は目を見開いて「い、いや・・・」と否定するが、
「いいよ、もう。」と背中から朱夏が言った。
(――つらいものだよ牛方の旅は、七日七夜の長の旅)
 唄の続きは何だったか、朱夏には考える力が残っていなかった。
(――牛よつらかろいまひと辛抱、辛抱する木に金がなる)
 掛屋は混乱していた。
 いつまで経っても、小松川も富男も、朱夏も透も帰ってこないことに不審を抱いて県庁の白い男たちは集成に案内されて鋳銭小屋に向かい、既に事切れている小松川の亡骸を発見した。
 朱夏たちは県庁に聴かれないよう、三池に起きたことを全て話した。
「おまえら二人は、逃げろ。」と言われた。
「密銭の関係者は、厳しい吟味を受けるだろう。おまえらは状況から見て、富男だけでなく小松川さまも殺した下手人にさせられる危険がある。」
「兄ぃ!」
 慶二が目を潤ませて叫んだ。
「もう兄なんて呼ばなくて良いよ。あんたにも迷惑をかけちまう。わたしも死んだことにしてくれていい。」
 朱夏は朦朧とした頭で、しかし最後まで兄としてあろうと諭した。
「そんなことはいやだ!」
 慶二にとって、一度ならず二度までも兄を喪うことになる。
「どこに行けば良い。」
 透が助言を求めるように三池に訊いた。
「山は、炭をとりに登りに行っただろう。おまえらの庭みたいなもんだ。山づたいに逃げて、早池峰山にでも逃げ込め。山伏たちが、いいようにしてくれるさ。」
「早池峰か・・・遠野は。」
「遠野には近づくな。江刺県庁の本拠だ。」
 三池の忠告に、透は苦々しい顔で頷いた。
「これだけ持って行け。」といって三池が鉄銭の束を握らせてくれた。
「この山で作った最後の銭だ。無いよりはあった方がましだ。少しは役に立つだろう。」
 およそ三年を過ごした鉄山だったが、名残を惜しむいとまもなく、朱夏と透は立ち去らざるを得なかった。
 富男もまた、県庁に利用され、都合の良い妄想に浸っていただけだ。朱夏にはもう怒る気力は無かった。
 夜の闇に閉ざされた南部の深い山を、目に涙を浮かべながら二人で一目散に走って逃げた。
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登場人物紹介

朱夏(シュカ)

主人公。1853(嘉永6)年8月生まれ

月顕寺(ガッケンジ)の和尚である嶺得に読み書きを習い、

嘉永の大一揆を率いて死んだ父親が遺した書物を読み耽って知識を蓄えた。

商家の旦那に囲われながら自分を育てた母親に対しては、同じ女として複雑な思いを抱く。

幼馴染みの春一を喪ったことで先行きの見えなくなった三陸の日々を精算し、鉄山へと旅立つ。

やがて紆余曲折を経てたどり着いた浄法寺の地で、漆の生育に関わりながら、

仏の世話をし、檀家たちに学問を授け、四季の移ろいを写し取ることに意義を見いだしていく。

塩昆布が好き。

春一(ハルイチ)

1852(嘉永5)年生まれ

すらりとしたかっこいい漁師の息子。

朱夏とは“いい仲”だったが、戊辰戦争で久保田攻めに加わり、鹿角で行方不明となる。

盛岡で再開した彼は「白檀(ビャクダン)」と名乗り、鹿角での過酷な戦闘で記憶を失っていた。

浄法寺に林業役として赴任し、天台寺に朱夏を訪ねるようになる。

透(トオル)

1853(嘉永6)年6月生まれ

遠野から鉄山へ来た色素の薄い青年。遠野では馬を育てていた。

朱夏と反目しながらも一目を置き合い、やがてあるきっかけで親しくなっていく。

朱夏とともに鉄山を抜け、浄法寺へと同行する。

浄法寺では、蒔から塗りを学びながら、鉄山で得た知識を生かした製作へと情熱を抱き、

砂屋の事業へと傾倒していくことになる。

慶二(ケイジ)

1854(嘉永7)年生まれ

心優しい春一の弟。幼い頃小さかった身体は、次第に大きくなる。

朱夏とともに橋野鉄鉱山へ向かう。

嶺得(レイトク)

朱夏が通う月顕寺の和尚。45~50歳くらい。

髭面で酒好き。朱夏に読み書きばかりでなく、仏の教えの要諦や、信仰の在り方を説く。

当時としては長老に近いががまだ壮健。朱夏の父親代わりの存在。

横山三池(サンチ)

労務管理担当役人。アラサー。

世間師を生業として藩内を歩くことで得た経験を生かし、口入屋まがいの手腕で、藩内から鉄山へと労働力を供給している。

飄々と軽薄な雰囲気ではあるが、男だと偽って鉄山に入った朱夏にとって、本当は女だと事情を知っている三池は頼れる兄貴分である。

田中集成(シュウセイ)

三池より少し歳上の銑鉄技術者。高炉技術の研究に情熱を注ぐが、政治には関心がない。

なまじの武家よりも話が合う朱夏のことを気に入り、三池とともに相談に乗る。

なお、名前の本来の読みは「カズナリ」である。

荒船富男(トミオ)

鉄山の棒頭(現場監督)で人夫たちを酷使する。容貌は狐に似て、神経質だが同時に荒っぽい。

もとは上州で世間師をしており、三池とも交流があったため、何かと張り合っている。


小松川喬任(コマツガワ)

橋野鉄山を差配する旧武家。40代前半。

長崎で蘭学を学び、南部藩内に近代的な洋式高炉を導入したその人。

見た目は厳しいが清濁を併せ吞み、朱夏と透を鉄山の中核となる、ある事業に登用する。

滴(シズク)

1850(嘉永3)年生まれ

木地師と名乗り、盛岡で朱夏と透を助けた頼もしい姉御。新聞を読むのが好き。

二人を浄法寺へと導き、商家「砂屋」の食客とする。

砂屋の経営を担い、漆の生育、競りの開催、天台寺との交渉、生産組合の結成など、

時代の流れに応じ、先を見据えた手を打っていこうと奮闘する。

蒔(マキ)

1854(嘉永7)年生まれ

座敷童のように福々しい見た目をした滴の妹。

圧倒的技術力で砂屋の塗り小屋を治める塗り師。

行商の男たちに強気に交渉するが、それは世間知らずの裏返しでもある。

透に塗りを教える中で、彼女自身も成長していく。

風陣(フウジン)

越前から浄法寺へやってきた越前衆の頭目。

大柄で髭面。ならず者のように見えるが、口調は柔らかく油断できない。

浄法寺に「殺し掻き」を導入し、越前の刃物を売って生産力を高める。

「旗屋」の食客として、砂屋に対抗する。

政(マサ)

天皇家の赦免状を持つ近江の木地師。風陣とともに旗屋の食客として活動する。

大柄な風陣とは対照的な小男で、ほとんど喋らないように見える。

やがて砂屋と旗屋の対立の中で、特殊な役回りを与えられるようになっていく。

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