第20話『中田 その二』

文字数 639文字

コンコンと文芸部室のドアがノックされ、ハンサムが顔を出した。
「こんにちは。尾崎さん」
「中田君だったよね」と読書を中断して尾崎が言った。
「そうだよ。藤井は今、俺の数学のノートをコピーしに行ってる。あいつ、数学の授業を寝ブッチしたんだ。悪いけどここで少し藤井を待たせてくれない? 」
「それは構わないけど」と尾崎が言った。
「ありがとう」
「でもね、中田君。あんまり藤井君を甘やかしちゃダメだよ。本人のためにならないから」
「そうだね」そう言うと中田は少しニヤリとした。
「何? 」と尾崎が訊ねる。
「いや、尾崎さん、やっぱり藤井のことを思ってるんだなって思って」
「思ってるっていうか、友達として当然っていうか」
「大丈夫だよ。オレは他のヤツみたいに変な噂を流したりしないから」と中田は言った。
「うん」
「藤井のヤツ、最近は俺と話していても君の話題ばかりだよ。尾崎さんがこんなことを言ったとか、あんなことをしたとか」
「そうなんだ」
「尾崎さんは生きる理由を知っているとか、すごいことを言ってたよ」
「ふーん」
尾崎は視線を宙に浮かせながらそう答えた。
「だけど、尾崎さん。女の子なんだし、鼻から牛乳を飲むはやめたほうがいいんじゃないかな」と中田が言った。
「何、それ? 」と尾崎が中田の顔を見て怪訝な顔をする。
「藤井が言ってたよ。尾崎さんは鼻からストローで牛乳を飲むのが得意で、暇になるとやってみせて笑わせてくれるって」
尾崎は言った。「あの野郎、ここへ来たらお仕置きだ。鼻から牛乳を飲んでもらおうじゃないか」

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