第15話『三沢先輩 その二』

文字数 587文字

ガラッと文芸部室のドアを開けると藤井が姿を見せた。尾崎はさっそく藤井に声をかけた。
「昨日、三沢先輩がここに来たよ。君が野球部に戻るように説得してくれって頼まれた」
「ここにも来たのかよ、あの人。悪い人じゃないんだけど、思い込むと一直線だからなあ」と藤井がドアを閉めながら言った。
「ここにもって? 」
「今日、昼休みに俺の教室に来たんだ。それでクラスのみんなの前でお説教だよ。昔のお前はどこへ行った、最近のお前はたるんでるってな」
「大変だったね」
「全くだよ」とパイプ椅子に座りながら藤井は言った。
「戻ったらいいじゃん」と尾崎が言った。
「どこに? 」
「野球部にだよ」
「今さら戻れるかよ」
「何? 誰かと喧嘩でもしたの? 」
「そんなわけないだろ。俺は温厚な人間だぞ」
「ここに来たって私と話してるだけでしょう。貴重な時間を浪費しているって思わないの? 」
「お前はここで俺と話していて貴重な時間を浪費しているって思っているのかよ」と藤井が言った。
「いや、そんなことはないけど」と尾崎が答える。
「じゃあ、いいじゃん」
「よくねえよ。ガキの喧嘩じゃないんだから論点をすりかえるなよ。今、話しているのはアンタが野球部に戻らない理由についてだよ」
藤井は顔を横へプイと向けると言った。「今は話したくない」
「ガキっぽいな」と尾崎が呆れた顔をして言った。
「いつか話すよ。話してもいいって思える時がきたらな」
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