第9話『時任 その二』

文字数 621文字

藤井が時任の急襲を受けてから五分ほどした後、尾崎が文芸部室にやってきた。藤井はぶつける先に困っていた憤懣を尾崎にぶつけることにした。
「さっき、時任ってヤツが部室に来たぞ。俺に突っかかってくる感じで嫌な女だったな」
「あぁ、薫のことね」と尾崎がパイプ椅子に座りながら言った。
「お前のカノジョだって言ってた。おかしいよな、女なのにカノジョだってよ」
「あぁ。一度キスしたことがあるからね」と尾崎が鞄から本を取り出しながら言った。
「何? 」と藤井が訊き返す。
「一度キスした。っていうか、されたんだけどね」
尾崎はそう言うと、ページをめくって本を読み始めた。
「キスって、女同士でか? 」と藤井が言った。
「そうだよ」と尾崎が本から視線を上げずに答える。
「それって、アニメとかでよく見る女同士で胸を触りあうみたいなもんか? 」
「そういうのってアニメの世界の中だけだから。現実にはそんなことはしないから」
「じゃあ、なによ、その……」
そこまで言って藤井が言い淀んだ。尾崎が読んでいた本から目を上げて藤井を見て言った。
「一週間くらい前、薫が私の部屋に遊びに来たことがあってね。隙を見せた私も悪かったけど、薫にベッドの上に押し倒されて、キスされた」
「ベッドに押し倒されたって、お前……」
「大丈夫。薫が調子にのって私のパンツに手を突っ込もうとしたんだけど、それ以上したら絶交するって言ったらあきらめたから」
藤井が思わず嘆息を吐いた。「お前って、つくづく災厄を招く女だな」
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