第21話『中田 その三』

文字数 643文字

コンコンというノックの後に、文芸部室にハンサムが現れた。
「なんだ、今日は尾崎さんはいないのか」と中田が言った。
「中田。これからサッカー部の練習じゃないのか」と藤井が読んでいたスポーツ新聞から顔をのぞかせると言った。
「そうだよ。練習へ行く前にちょっと尾崎さんにあいさつしとこうかと思ったんだけど」
「何、お前たち友達なの? 俺の知らない間に」
「まあね。実はお前のいない間にこうして顔を出してしゃべっているんだ」
「尾崎に興味を持つような奇特な男子がこの世にいるとは思わなかった」
「自分を忘れているぞ、藤井」
「お前、人気者で女子からがキャーキャー言われているくせに、なにも尾崎に手を出すことはないんじゃないか」と藤井が言った。
「人気者というのはその実、誰からも愛されないものなんだ」と中田は言った。
 藤井はスポーツ新聞をたたんでテーブルの上に置くと、テーブルに頬をついて言った。
「尾崎のどこらへんがお前を惹きつけるの? 」
「変なことを聞くやつだな。尾崎さん、可愛いし、面白いじゃん」
「そうかねえ」
「安心しろよ。尾崎さんの中のランキングじゃ、お前がダントツだ。俺がどんなにがんばっても追いつけそうにない」
「尾崎のポイントを稼いでどうするんだ。でも尾崎もいろいろなことを言われてるぞ。俺も人のことは言えないが」と藤井が言った。
「他人が何と言おうと俺の友達は俺が選ぶ。人の噂で友達を選んじゃだめだよ、藤井。だから、俺はお前とも友達でいられるんだ」と中田が言った。
「お前って本当にいいやつだよな、中田」

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