第42話 捕獲作戦終了
文字数 3,127文字
イレーヌが後ろ手に手錠をかけられ、手をすっぽり袋で包まれると上着のベストを切って取られボディチェックを受ける。
「なによ、もう何も持ってないってば!」
セカンドは、決められた手順で足を縛り、目、口を塞ぎにかかり、例の大音響のヘッドホンを持ってくる。
「ちょっとミサトの兄!何よこれ!こんな…人権…!…ううーーうううーーー」
「悪いな、捕虜に例外は無い。女は脱がせるとうるさいからなー。
俺はきっちりやらないと気が済まねえ性格なんだ。ほんとめんどくせえ。」
耳にロックを聞かされ、上からすっぽり電波遮断で作られた袋に入れられた。
「ううー!ううー!(人権侵害よ!!この悪魔!!)」
ジタバタしても、動けないように更に上からベルトで拘束される。
そして担がれ、トラックに放り込まれた。
「あー、言い忘れたけど、俺達本来殲滅部隊だから。お前生きて掴まるの運がいいぜー」
「サトミー、もうあの女いませんぜ?」
振り向くと、トレバーがため息付いている。
役立たずのギルティは、トラックの助手席から回収班に合流地点の確認の連絡していた。
「あれ、もうちょっと簡略化考えないとな。これからは死体袋より生きて捕まえること増えるだろ。」
「まあ、俺達が捕まえる奴は、一般兵と違って特殊な事情が多いですからねえ。
何ですかアレ、あの女スカウト、マジなんで?」
「もったいねえよ、あんな動きのいい奴、隣は持ち腐れしてやがる。
あの女、愛国心だだ下がりだろ。戦時中、ろくな使い方されてねえぞ。」
「まあ、サトミも似たようなものじゃ無いですか。この隊、死ななきゃ出られねえって、みんな思ってますぜ?」
サトミが頭をバリバリかく。
ずれたヘッドホンをはめ直し、靴をトントン言わせた。
「そうだなあ……でもよう、俺の休職認めてくれたし…、なあ、トレバー、新人寄こしたのお前だろ?」
ギクリとトレバーが身を引いて、ヤバいと歯をむいて笑う。
「俺は無駄に殺すなと言ったはずだよな。
役に立たねえ奴は殺した方がいいと思うそのお前の弱さは、ちっとも変わらねえよなー」
サトミが暗い顔で見上げる。
ギリギリと笑いながらトレバーが歯を
「ふ、フフ、チビ野郎、知った風な口を利くな」
「俺が下界に降りて丸くなったと思ったら大間違いだ」
その瞬間、トレバーの顔にサトミが手を広げた。
愕然とした顔でその手の平を見つめる。ザッと血が下がり、気がつくと手がブルブルと震えていた。
「く……く……」
トレバーが、銃を握ったままの手をそっと上に上げる。
「顔、潰すの、遠慮します」
「だったらポンポン勝手に殺そうとするな。てめえの顔なんざ目と口が付いてりゃ俺にはどうでもいいんだ」
ゴクンと息を呑む。
サトミの子供の手から、ピリピリとした波動を感じて鼻が裂けそうにジンジンする。
何か言い知れない力で、こいつは手からもの凄い力を飛ばす。
あのデッドも、鼻を一度潰されたことがある。
ひしゃげた鼻の骨を戻す時の痛みは、病院中聞こえるほどの悲鳴を上げたと言っていた。
「ヒヒ……あんただって、全然変わってねえじゃないっすか」
引きつった笑いで誤魔化そうとすると、サトミがニッと笑った。
「人はそう簡単に変わらねえってこった。
ただ俺は、人ってものが生きてるか死んでるかだけじゃ無くて、一人一人何かの可能性があることに気がついた。
いまは役立たずでも、磨けば光る奴もいる。
タナトスは光る奴ばかりの集団だった。戦後の今は原石が入ることは悪いことばかりじゃねえよ。
少なくともあいつらは、スカウトが使えると思ったんだ」
「なるほど、わかりました」
「脳みそ使えよ、お前はセカンドの事実上のトップだ」
ようやく手を下ろしてくれて、ホッとする。
それでも、いつか殺してやるとは思えないから、隊長がこんな可愛いガキってのも悪くはないんだろう。
「ギルティ、時々殺したくなるんですがねえ」
「アレは盾だ。なんかあったら全部押しつけろ。その為にいるようなもんだ」
トレバーが、呆気にとられてヒヒッと笑う。
そして、サトミに敬礼した。
「承知しました、総隊長殿」
ヒュウウウウンン、キイィィーーーッ!!
独特の音を響かせて、二人の前に電気軍用車が音も無く走ってきてタイヤを軋ませ止まった。
運転席で、デッドが二人を見て悲しそうに顔を歪める。
「終わってた、くっそーーーー!!終わってた!!!」
「お前何しに来たんだよ」サトミが横を向いてため息付く。
デッドが悔しそうにハンドルをバンと殴り、車を降りてきた。
「ファースト、目標の確保終了しました!」
ボサボサ頭で、ワラにまみれた姿で敬礼する。
サトミが見るなり、ブッと笑った。
「お前、馬と寝てたの?!」
「まあ、腹いせというか〜、散々町中粗探しさせやがって、この!俺達が!ファーストがですよ?!!
ガッデム!!」
まあ、そう言うことで嫌がらせしたんだろう。だいたい想像は付く。
「で?何です?さっきのスカウトは?!!」
そんなことより大事なことに、デッドが血相変えてサトミにズカズカ詰め寄ってきた。
「あーーあーーー、うるせえ奴が来た。
デッド、あっさり断られたからもういいだろ。」
「はあ??!!あれまだ現在進行形じゃ無いっすか!
なーーーーーにが、また会おう!ですか!!つか、また会う気満々じゃ無いっすか!!
は?それともなんすか?年上趣味ッすか?え?女はべらせて副官変えるんですか?え?彼女に抱っこして貰って、甘ーい声で新聞読んで貰うんすか?え?え?マジ?俺には飽きたんすか?!!」
「やーめろ、他の隊員に誤解される。
俺とお前の間に変な関係はねえだろ。俺はノーマル……」
「変?へんなかんけい?俺との関係はそんなもんなんですか?」
ぶわっとデッドの目に変な汗が出た。
ゲェッとサトミが絶望的な顔になる。
今一体俺はどう言う状況なんだ?なんでこうなってんだ?デッドは何言ってんだ?
サトミが焦って彼に背中を向けてその場をぐるぐる歩き始めた。
「俺を……俺を捨てるんすか?俺に飽きたんですね?!サトミ!!」
追ってくるデッドの発言が、だんだん怪しくなってきた。
他の隊員が、見ないようにして気を使っている。
サトミが両耳押さえて、いきなり走り出した。
「あっ!逃げた!」
「ベン!ビッグベン!!来い!」
ヒマでボーッとしていたベンが、耳をピンと立てて納屋を出ると声の方へ走り出す。
表通りに出ると、サトミがデッドに追いかけられている。
向こうへ行けと指さされて、そっちにテキトーに小走りする。
あっという間にサトミは追いついて、鮮やかに飛び乗った。
「サトミーーー!!俺は認めませんからねーーー!!」
「なにをっ?一体何がどうなってんだ?」
ブヒヒヒヒヒ
困ってるサトミに、ベンがヒヒヒと笑っている。
二人はとりあえずまたキャンプの方角へと走り出した。
呆然とそれを見送ったセカンドの面々が、撤収を始めながらため息をつく。
新入りの一人が、この隊で見たこと無い状況に呆然とつぶやいた。
「総隊長って、色々大変ですねえ……」
「まあな、総隊長に近いほど惚れる奴が出るんだ。ガキと思えないほど言う事もカッコいいし、メチャクチャ強えだろ?
一人追いかけてって死んだ奴もいるし。」
「えっ?!総隊長にやられたんですか?」
「ファーストの事はファーストでケリをつけるがファーストの掟だから、ジンだろうよ。
お前らも惑わされんなよ。」
「はあ……ただのガキじゃないんですねえ。」
「長生きしたけりゃ総隊のことで軽口利くな。
今の聞かなかったことにするから、早くトラックに乗れ。
余計なことを言うと、明日は死体袋の中だぞ」
「ひえ!」
慌ててトラックの荷台に乗り込む。
捕虜を乗せたトラックは、町を抜けると郊外の道で師団の回収班と落ち合い、ヘリを待って捕虜を積み替え、無事に捕獲作戦は終了した。