第45話 交換交渉

文字数 2,567文字

アルケーとの、再度の捕虜交換の日がやって来た。
まあいつものように、お互い自国に有利になるようにと、上はかなり調整に時間がかかったらしい。

こっちもガレットがどれほど悪事叩いてきたか、それに加担して逮捕した人員、ガレットが懸賞金かけて一般の郵便局員襲わせた事、その画像の証拠、ガンガン押しまくって、一部公表し圧力かけたようだ。
アルケー国内でも逮捕された奴の親家族が声を上げて同情を買い、アルケーも動かざるをえない状況となってきた。

アルケー側は、とにかくガレットとイレーヌを先に帰せと言ってきた。
二人はアルケーでもメレテの要人を殺した英雄として扱われている。
とは表向きのことで、ガレットは大臣の息子なので無事に取り戻したいと言う訳だ。
こちら側の要求は、情報部エアーと彼の死んだ部下の遺体の返還を主体に、多く捕らえられたままの捕虜の解放を要求していた。
エアーの部下の遺体はすでに処分したという、埋葬では無く処分したと非人道的なことを言うので、ならば遺骨を返せと言う事になった。
戻ってきた遺骨は、本人か調べねばならないだろう。

ガレットの父親である国防大臣は、ガレットの功績もあってその地位を上げている。
次期大統領の覚えも高い人物で、ガレットにはイレーヌと共に自分の後継者と考えているらしい。

今回の取引は、ロンドからは離れた国境の「交流の家」と呼ばれる象徴的な戦時中建てられた建築物で行われることになっている。
お互い前に出るのは最少人員で、短時間で交換して終わる予定だ。
これも非公式なことなので、国境はその日午後から閉鎖されて、一帯は一般人立ち入り禁止になっている。

交流の家までの荒野の一本道、前回の事を踏まえ、ガレットとイレーヌはヘリで移動になった。
交流の家は、メレテ側、アルケー側にそれぞれが建てた控えの別棟がある。
ヘリを降りてすぐに別棟に入ると、目隠しされ口も塞がれた二人は手錠につながれたまま半地下の部屋に連れて行かれ椅子に拘束された。
今回排泄は、パッドを使用してトラブル対応してある。
イレーヌも派手な服では無く、ガレットと同じグレーのズボンに白いシャツ姿。
通常ただの捕虜ならここまでしないが、彼らは多数の殺人を犯した犯罪者だった。



時間が近づくと、次第に空気が変わる。
外にも第一師団から警備に来ているので、今回は手抜かり無く無事に済んで欲しいと願う。
前回、指定の場所にエアーの姿が無かったことはわかっている。
メレテ側の交渉担当補佐官は、交流の家を窓からのぞき込みながら同じスーツ姿のデッドにけわしい顔でたずねた。
今日は、タナトスからファーストの5人、セカンド5人が選抜して一般兵に紛れ護衛に来ている。
ファーストはスーツ着て補佐官の護衛、セカンドは外で警備。
彼らはエアーの保護、帰還奪還がミッションなのだ。
つまり、まだ彼らのミッションは続いていた。

周囲で銃を持ち警備するのは第一師団からの兵たちだ。
ここへはアルケー側を刺激しないために、家周辺を前方班が、少し離れて後方班が守りに入っている。
有事のために、更に少し離れた場所にキャンプを張って、2隊が控えていた。
ここまでするのは、核情報が絡んでいるためだ。
すでに漏れていると知らない彼らは引き渡し後のエアーを殺すために、何を仕掛けてくるかが懸念された

「本当に、エアーは来ているのだろうか。
エアーの無事を大統領は大変案じられ、私はくれぐれもとお言葉を頂いている。
それに応えなければならない。」

ため息を付きつつ、30歳代後半の補佐官は落ち着いてソファーに座る。
デッドは、口元の小さなマイクに、ボソボソと何かを言っては片耳につけたヘッドホンに耳を傾ける。
元々笑ってる男だが、サトミにもっと爽やかに笑えと言われて練習しただけある、自然な微笑みを浮かべてうなずいた。

「向こうの別棟にも到着したようです。
さすがですね、顔を確認しやすいように空を見上げたそうですよ。」

「フフ……彼は2度目なんだ。前回は戦時中で拷問受けて酷い物だった。
それでもあの仕事を続ける。
その原動力は、彼の家族にある。あの国ヘの憎しみと言うより、あの国を動かす者達への憎しみといった方が正解かもしれない……
おっと、余計なことを話してしまった。忘れてくれ。」

補佐官が、苦笑して目を閉じため息をつく。
デッドが、隣で彼にひっそり言葉を漏らした。

「忘れませんよ、骨のある奴は生きて貰わねば困る。
そう、隊長の言葉ですので。」

「隊長……そうか、君の所は辞めたと聞いて少々気落ちしていたが、戻ってきたとか?
若いのにたいした物だな。今日は…来てるのだろう?」

「ええ、でも彼は目立つので、目立たないよう指示役ですよ。」

「昔、クソ野郎と悪態突かれたんだがね。」

補佐官が苦笑する。
デッドが、ああ…とにっこり笑った。

「隊長の『クソ野郎』は、『やあ、天気がいいですね』と言ってるような物ですから。
お気になさらず。」

「ははは……」

まあ、クソ野郎はクソ野郎だ。
今、タナトス組の通信はオープン状態なので、これもサトミは聞いている。
あとで殴られたらと思うと、なんだかゾクゾクしてニヤける。

「お時間です。まずは双方の高官が交流の家へと。」

外交の大使が声をかけ、補佐官の部下が、先に家に入った他の部下からの連絡を受けてうなずいた。
補佐官が立ち上がり、部下と共に家に入って行く。

デッドもイエローと、SPたちと共に入って行く。
ヘッドホンにサトミのささやく声が飛び交った。

『セカンド、家の周囲を警戒しろ。
敵の動きに変化を感じる、1人が向かって左、急な動きを見せた。』

『イエス、確認します』

『まさかそこまで馬鹿野郎と考えにくいが、爆発物と思われる時は報告しろ。
退避、一旦交渉を中止する』

『中止の判断はこちらで?』

『あっちもこっちもねえ、死にたくなければ退避だ馬鹿野郎。
何かあってもお前たちは手を出すな。不審物報告後、デッドはすぐに補佐官退避させろ。
一般兵に目を見開いて国境ラインを凝視しとけと言え!瞬きするヒマ何かねえ。
ジョーク、周囲の兵の動きはチェックしろよ。みんな、気合い入れろ!』

『『 イエス!  』』

デッドとイエローも心でイエスとつぶやく。
ここにジンは来ていない。今回の件は、ボスが全指揮をサトミに指定した。
おかげで郵便局は休みだ。
それだけ繊細に頭を使わねばならなかった。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。

・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。


・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。


・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。


・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。


・ミサト・ブラッドリー

サトミの一つ下の妹。

・エアー

デビッド・ロスは偽名。情報部員としては他国にも知られている。数々の功績を挙げているため、苦々しく思ったアルケーに家族を殺されている。

・ガレット・E・イングラム

隣国アルケーの国防大臣の息子。

金と親の権力で軍幹部にいながら、独立した暗殺部隊を編成してメレテ国内に侵入し、暗躍していた。

タナトスに狩られた時に印象に残った背中に棒を背負った少年兵を探している。

・ギルティ

30代。タナトスのセカンド隊長。ツンツン茶髪。口が軽くあまり物事を深く考えない。

死なない男、強運で生き残っている。仲間からは密かに無能とささやかれる。

隊、唯一の妻帯者。ボスに従順。自分で何も考えない。サトミ入隊の頃、監視役をしていた。


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