第44話 妹と二人暮らし
文字数 2,382文字
その一言だけで、心が軽くなるサトミだ。
本部に行って翌日一番近くの師団まで来るヘリに同乗して、車で送って貰い家に帰ると、たったこの2日で驚くほど家に物が増えていた。
恐るべきは女の買い物パワーだ。
ロンドは物が少なく気に入ったものが無かったので、デリーまでシロに乗って買いに行ったらしい。
おいおいおいおい、マジで騒ぎ起こすのは止めてくれよ。
ケチャップとマヨネーズとココアと塩砂糖しか無かった台所には、何に使うのか良くわからない小瓶やボトルが並んでいる。
翌日は何か知らないが、いつ買ったのか洋服が箱3つ届いて服屋でも開くのかと思ったが、全部自分の服らしい。
ミサトの部屋であるサトミの部屋の向かいの両親が使っていた部屋は、部屋中にいつ着るのかわからない派手な服がずらりとぶら下がっていた。
これはあとで、クローゼットっぽく出来ないかという希望があったので、仕事休みに二人でDIYの予定だ。
食器棚にはなんだかカラフルで可愛い食器が並んで、俺が今まで使ってた貧相なアルミのボールとボコボコにへこんだカップは、お払い箱にされてしまっていた。
ココア飲むのにコップを探すと、俺用はなんだか可愛いブルーのチェックにニンジンくわえたウサギの絵が入った大きいカップを差し出された。
有無を言わさず俺はそれを使うしか無い。
俺のアイデンティティは、色々ちょっぴり崩れそうで、これから付き合わされる可愛いらしい世界に溶け込むしかないと腹を決めた。
ミサトはベンとは意外と馬が合うのか、ベンは変わらない様子で居間のクッションででラジオを聞いていて、ミサトは自分の部屋でパッドを前にリモートの学校って奴に参加している。
黙って聞いてると、学校の授業はなんとも俺にはヒマで馴染めそうに無い。
とは言え興味もあって、ベッドに座り妹の授業を1時間ほど聞いていた。
意外とこれは、教会の学校よりいいのかもしれない。
まあ、教会には文字を習いに行ってるのだけれど。
これからは妹に習うのもいいかもしんないとか思う。
妹に新聞を読んで欲しいと言ってみたが、やはり子供には難しい言葉が多くて、あっという間に飽きてしまった。
とりあえずは、見出しだけは読んで貰えるようになったのは助かる。
「兄ちゃん何で難しい言葉知ってんのに、読めないのよ?」
とは、まあ、わかる。
俺は新聞は読んで貰ってたし、難しい言葉、わからない言葉はいちいち教えて貰っていた。
自分にも、相手にも根気のいることだが、隊の奴らは日替わりで付き合ってくれたし、退屈そうな奴らには苦にならないかと問うと、それほど真剣に新聞読んだ事無かったので面白いと言ってくれた。
俺は彼奴らの隊長だけど、彼奴らは俺の先生だった。
仕事上メディアの情報を知るのは必要なことだったんだけど、俺とあの隊の奴らとの関係は、新聞が取り持ってくれたんだ。
授業が終わって、ミサトがおやつにホットケーキ焼き始めた。
俺の分は更に砂糖多めだ。
ミサトは料理が好きで、俺の食環境はがらりと変わった。
お母ちゃん直伝の味はとても懐かしくて、初日俺は思わず泣いてしまった。
あの親だし、一人でも生きていけるようにとたたき込まれたらしいが、俺にも助かる。
肉や激甘が好きなのも同じだし、ニンジン嫌いも同じなので安心出来る。
趣味はケーキ作りという事で、楽しみが増えた。
鳴神は思った以上に良く手入れされている。
ガキとは言え、互いに自立しているので、
緊急時以外、互いの武器には触れない。
襲われても先に手は出さない。
ヤバイ時以外殺さない。
殺したらまず俺に必ず相談する。
腕が鈍らないようにしたいという事で、時々子供の時のようにコロシアイごっこに付き合ってくれればそれでオッケーと、ミサトの希望を聞いて承諾する。
電話は衛星電話を一つ持たせたけど、持つといきなり爺ちゃんにかけるとか言い出した。
が、残念ながらメレテの衛星電話は国内限定だ。
海外にかけたければイリジウム使うしか無い。
ミサトによれば、オヤジは何故かイリジウムの携帯持っているらしい。
どうも何してんのか正体不明なオヤジだ。
アルケーのスパイじゃないことを祈る。
翌週から、ミサトは授業のない日は郵便局の荷受け係にアルバイトに行くことになった。
荷受け係は力が必要で、その上、男手が不足していて頻繁にサトミが呼ばれるのだが、ミサトはサトミと変わらない馬鹿力の持ち主だ。
まあ、ドアノブ引きちぎるほどじゃないが、相当助かっているらしい、
「ミサトちゃーん、これ、このおっもいの持てる?無理しなくてもいいんだけど…」
「軽い軽い、まかせて〜」
「助かるうう!!ミサト様ー!ねえねえ、バイトじゃ無くて本雇いお願いしよっか?」
「んーん、あたし勉強あるし、週3日で十分よ。」
「あたしたちが十分じゃ無いのよぉ〜〜」
出勤日を増やして欲しいと懇願されるほど、貴重な人材になっている。
ミサトも平和的な力の使い方で、満足はしているようだ。
「サトミー、休みあさってから2日でいいの?」
デリーから帰ってココア作ってると、キャミーが日程表を持って聞いてきた。
「うーん、明日の夕方から用があるから、午後で上がるかな。3日になる時は連絡する。
すまねえ、また迷惑かける。これでしばらくは休まないと思うよ。」
「あら、いいのよ。ちゃんと予定取って休んでくれるし、代わった分は代わって返してくれるし。
サトミは仕事で休むんだから、実質休みじゃ無いのよねえ。
それに何より、サトミが出向扱いになってから、あたしたち少し給料が上がったのよ。
局長から、その分融通してあげてねって言われてるし、私たちに特に不満は無いわ。」
キャミーがはっきりにっこり言ってくれる。
局長も、きちんとボスとは契約内容固めて向こうの返事待ちという事なので、これからはあまり軍に呼び出されることも無いかなーと楽観視はしている。
楽観は、楽観なんだけど。