第52話 郵便局、通常業務

文字数 2,671文字

「こんちわー、速達でーす!料金5ドルになりまーす!」

「ハーイ!あら、坊やかい?毎日えらいねえ。
5ドル?はいはい、ほら2ドル多めにあげるから、キャンディーでも買いな。」

「うん!おばちゃんありがとう!」

テヘヘと、可愛くお礼を言う。
今日もチップがかなり貯まった。今夜は肉だな、デカいかたまり買って帰ろう。
ミサトが喜ぶ。


食生活はダンクがひどく心配してくれたが、妹のおかげで大きく改善した。
俺も家に帰るのが毎日楽しみになった。
いい傾向だ。軍なんかクソ食らえだ。

ミサトはロンドに来てからは良く、買い物へとデリーに行っていたのだが、いろいろ買ってきて良く金が続くなーと思っていたら、俺の金がどんどん減っていた。
思い返せば、通帳見られたのがまずかった。
あまりに物が無いので心配した妹に金はあるから大丈夫と言ったんだが、いくらあるのかを異様に興味示してきて、バッグを粗探しされてしまった。

通帳持って、不在中に俺に頼まれたと言っては勝手に降ろし、シャワー浴びてる間とかに上着から現金を抜かれていた。
なんか減るの早いなーとは思っていたが、俺もそろそろプリペイド使うしか無さそうだ。
部屋にはバッグや洋服が山のように増えて、俺の貯金は8万ドルくらい消えていた。

8万ドルだぞ?why?この田舎で何に使えばそんなに金が消えるんだ??
スティンガーミサイルか?高性能ドローンか?

調査を頼んだリッターによると、デリーの商店街では『お嬢様』と呼ばれ、何かワケのわからない高い服やバッグ売りつけられていいカモで有名になってたらしい。
どーりであいつが買い物に行った翌日は、服が3箱くらい大量に届いて俺は少しパニックになっていた。

あの派手な服、近所の古着屋してるジイナ婆ちゃんの店で引き取ってくれないだろうか。
ロンドのババア達が変にオシャレになっても仕方ねえだろーけど。もう置き場所がねえ。

一体何なんだ?お前何しに帰ってきたんだ?

   ……まあ、   いいんだけどよ。けじめはきっちりしねえとな。


で、小遣いは、自分で稼いだ分で足りない時は、ちゃんと俺に下さいと言う!と決めた。
いや、それにしても、(ふところ)から抜いちゃ駄目だろ。泥棒だろ。

俺も金に関してはどうでもいいスタンスだったが、女の買い物パワーには全敗だ。
外ではイイ子のクセに家族には容赦がない。

休日、コロシアイごっこの時に駄目じゃんと怒ったら兄ちゃんはケチ野郎と言うので、お仕置きだーっっと思い切り山に投げ飛ばしてやった。
前日の雨で上手い具合に窪地の泥だまりに落ちたらしく、泣きながら泥だらけで夜中に帰ってきて、もうしませんと言うので、まあいいだろとあれでチャラだ。
窓口にはミサトに金を渡さないように頼んでおいた。

まあ色々あるけど、妹との生活は新鮮でとても楽しい。
ベンもミサトとは馬だけに馬が合って、家では良く喋るようになってきた。
今はベンとテレビを見ると言って、テレビ資金を貯め始めたようだ。
俺はテレビには一切金を出さないと決めている。
だが、今度はもの凄いケチなケチケチ女になってきた。
俺はこれからも振り回されそうだ。



サトミが戸別配達で回っていると、別の家から出てきた近所のおっちゃんが手を上げた。

「よう!なんだ郵便屋に戻ったのか。軍人やめたのかい?」

「ああ、おっちゃん。軍人はな〜、ホントは辞めたいんだけどなー、今休んでんの」

「まあ若い奴がそう言うな。なんだか国境の小競り合いは、えらい騒ぎじゃないか。
おかげで毎日ニュースにかじりつかなきゃなんねえ」

「だよねえ、俺も戦争になると困るんだよなあ」

ぼやくと、おっちゃんが豪快に笑う。

「大丈夫だ。軍はなかなか頑張ってるじゃねえか。
隣の高官捕まえたのはデカかったよなあ、おかげで隣も関与を認めるしか無かったようじゃないか。
グズグズ言いやがって、いろいろ暴露されて他国の締めつけも来てるようだし、少しは静かになるだろうよ。」

おっちゃんが手を上げて家に戻っていく。
まあジンのことだから殺すか心配だったけど、事前に決めた作戦通りにやってくれて助かった。
先に国境越えて配置していたのは、単なる保険だったんだけど、まさかマジで爆破までやるとは思わなかった。
いくつかの条件に対応して複数作戦立てたけど、一番重い奴使うことになるなんてなあ。

とは言え、使えるメンバーが増えたのはラッキーだ。
なんだかイレーヌが来てあいつは妙に落ち着いたらしい。
殺した母ちゃんに似てるとか言ってたけど、イレーヌは化粧すると別人で、

「俺はマジちょっとガッカリした」

って、ジンが電話でぼやいていた。
まあ、あのババアならジンに殺られることもないだろう、気が合わないとサシで殺し合いになるかもしれんけど。
俺は比較的どうでもいい。


プルルルルル

プルルルルル

あー、また鳴りだした。
あれだ、持たされてる電話だ。
現状の微妙な状況に、いつでも連絡つけられるようにとなってるのだが。

だが!

ピッ

『サ〜〜〜ト〜〜〜ミ〜〜〜!!!』

ピッ「あ」

つい、デッドの声に反射的に切った。

プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル

俺はノイローゼになりそうだ。
誰かあいつから電話を取り上げろ。

ピッ

『サトミ!なんで切るんですか!
ミサトちゃんとまた来て下さいよ!寂しい!さびしい!俺寂しくて死ぬ!』

「しね」

『ひでえ!まだ俺、めまいしてて、車の長時間運転には遠いんですよお!
頭ガンガンして、めまいですよ?めまいって知ってますか?!世の中がグラグラ揺れるんですよ!
カワイソウでしょ?でしょ?俺ってカワイソウ〜〜!!』

「切るぞ、俺仕事中!」

『えーーー!!また夜電話しますよ!夜!ミサトちゃんの声聞きたい!ミサトちゃんの声聞きたい!
ちゃんと取ってくだ…』ピッ

「はあぁ〜〜〜〜……」

ああーーーまた夜もかかるのか……

骨折無かったけど、頭蓋骨にヒビ入ったとかでちょっと同情して、ボスがヘリ使っていいって言うし、ミサトもヘリに乗ってみたいって言うんで一緒に一度見舞いに行ったんだが……

『サトミがダブルでいるとか夢ですよ!夢のようですよ!』

って、頭以外元気なんで、めっちゃはしゃいでた。
なんだよ、俺がダブルって。
まあ元気と言っても全身打撲でベッド上安静だったけど。

いや、頭打って、あいつ性格変わりすぎだろ。
ミサトちゃん、サトミそっくりで可愛い!とかめっちゃ押して来やがるし、なんだよあれは。
まあ、心配してた症状も今んとこ無さそうだが、頭だし復帰しないと何とも言えねえな。
前に出られなきゃ、後ろで使えばいいし、タナトス的には損害は少なくて良かった。

は〜……良かったんだろうなあ。わかんねえや俺的に。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。

・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。


・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。


・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。


・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。


・ミサト・ブラッドリー

サトミの一つ下の妹。

・エアー

デビッド・ロスは偽名。情報部員としては他国にも知られている。数々の功績を挙げているため、苦々しく思ったアルケーに家族を殺されている。

・ガレット・E・イングラム

隣国アルケーの国防大臣の息子。

金と親の権力で軍幹部にいながら、独立した暗殺部隊を編成してメレテ国内に侵入し、暗躍していた。

タナトスに狩られた時に印象に残った背中に棒を背負った少年兵を探している。

・ギルティ

30代。タナトスのセカンド隊長。ツンツン茶髪。口が軽くあまり物事を深く考えない。

死なない男、強運で生き残っている。仲間からは密かに無能とささやかれる。

隊、唯一の妻帯者。ボスに従順。自分で何も考えない。サトミ入隊の頃、監視役をしていた。


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