第48話 現場混乱
文字数 2,619文字
退路の確保は万全だ。
動けないエアーとガレットを隊員が抱えて脱出し、デッドが補佐官を庇うように外へ急ぐ。
サトミが無線をオープンに切り替え、外の隊員に叫んだ。
「トレバー!退避!至急退避!」
『えっ?退避?!了解!』
『どういう事だ?!』
「おっさん、とりあえずさっさと逃げろ!」
ウィリアム隊長に返答して、バタバタと別棟を突っ切ろうとしたサトミが、部屋の片隅ですくんで動けない補佐官の部下の一人を見つけて駆け寄り、腰のベルトを掴んだ。
「ひい」
「凍ってんじゃねえよ!死にたいのか!」
「隊長!!」デッドが補佐官を庇いながら振り返って叫ぶ。
「早く離れろ!」
叫ぶサトミが片手でゴーグルを付けてドアを出ようとした、その時。
ドーーーーンッ!!
家からの爆風が、別棟のドアを吹き飛ばしサトミが吹き飛ばされる。
「くっ!」
とっさに補佐官の部下を、近くの木の上に投げ飛ばす。
はずみで軌道が変わり、コートにくるまれながら地面を転がり窪地に落ちて、更に転がった。
「いってええええええ!!!痛え!痛え!痛え!痛え!痛え!!!」
ボールみたいにゴロゴロ転がって、ドスンと木にぶつかりやっと停まった。
「いってえよっ!ああーーーっ!クソ!クソ野郎!」
ぐるぐる絡まったコートをかき分けて身を起こし、周りを見回す。
かなり遠くまで飛ばされた。
「あっつ!やべえ!」バラバラ沢山の瓦礫が落ちてきて、再度コートをかぶったまま破片を避ける。
「くそっ!!なんかアルケーに守られてるみたいで不快だ!!」
しかし、そのおかげで打撲だけですんだようだ。
立つ前に身体中をバンバン叩くが異常はない。
「よし!折れてねえ!」
耳は無線の耳栓のおかげで無事だ。
ずれて斜めになっているゴーグルを真っ直ぐ付け直し、汚れをゴシゴシ手袋の甲で拭いて身体を起こした時だった。
タタタタンッ!!
タタンッ!!
銃声が聞こえて、バッと窪地から飛び出した。
爆発は、思った以上の破壊力で家は半壊してメレテの別棟は吹き飛んでいる。
「マジか!こっち側の家が無くなってる!」
アルケー側からフル武装した数人の兵が国境を越えてきているのが見えた。
メレテ側は爆風に翻弄され、盾にした車がひっくり返って何人も下敷きになり、もがいている。
死傷者が何人出たかなんて、考えたくも無い惨状で、まだ体勢が取れていない。
「デッド!!」
無線に声を上げるがデッドの気配が無い。
補佐官に付いていたはずだが、意識を飛ばしたのか、死んだのか、瓦礫の残骸の中から見つけるのは至難の業だ。
だが、少し離れた場所で補佐官の気配を感じて視線を向ける。
彼は何かを叫んで、動かない誰かを必死で揺り動かしていた。
「イエロー!イエロ!聞こえるか?!補佐官がお前の右70フィート先にいる!安全な場所へ退避させろ!」
ザザザザ……ザーザーザー……
ケツのベルトに付けた小型無線の送受信機が調子悪い。
「くそっ!肝心の時に役に立たねえ!」
リセットボタンを押して走る。
瓦礫の中で、補佐官は動かないデッドに声を上げている。
無事の師団の隊員が、急いで彼の前に立って銃で庇った。
「イエロー!」
イエローとようやく目が合ったので、指で補佐官を指して手で退避の合図を送る。
手を上げたイエローは頭を切ったのか顔を血だらけにして、補佐官をデッドから引き離し、抱えるように近くの車ヘと向かった。
エアーは別の隊員が抱えて窓が吹き飛んだ車の影に逃げている。
「後方班はまだか?!何寝ぼけてやがる!前方の隊長は死んだのか?!
ウィリアムのおっさん!!」
声を上げても意識が無いのか気配が無い。
「隊長ッ!隊長!」
遠くに聞こえる声の方を見ると、前方の隊長ウィリアムは、爆風を受けて他の兵に引きずられ後退していた。
息を呑む。つまり、ここで指揮を執る奴が今自分しかいない。
起動音が鳴って無線の音がクリアーになり、サトミが一般回線に切り替え叫ぶ。
「ブラッド隊隊長だ!動ける奴は車を回せ!対象者の確保を優先しろ!
後方班はさっさと前に出てアルケーが出てくるの抑えろ!撃て!撃ちまくれ!」
アルケーの兵は、ガレット強奪が目的なのか威嚇するように銃を撃つと、ガレットを探している。
こちら側の動ける兵も、ひっくり返った車の影から応戦を始めた。
後ろを振り返るが、増援の姿が見えない。無線を切り替えジョークに叫んだ。
「ジョーク!ジョーク!聞こえるか!!キャンプのヘリを回せ!アルケーが家を爆破しやがった!
こちらの応戦体勢は不十分だ。ヘリにさらなる増援を許すなと指示しろ!」
『サトミ!生きてるか?!ヘリを緊急発進させる。
キャンプから2隊出た、……ヤバい!速報出た!マスコミが騒ぎ出す。どうする?』
「本部に言え!報道管制の判断は任せる!
アルケーが家を爆破した。こちら側は全壊、死傷者多数。
エアーに毒入りカプセル飲ませやがった。
補佐官が交換交渉は破棄した!二人ともメレテ側にいる!いるが、奪還される懸念あり!
マッスル!聞こえるか?マッスル!」
『……エス……いちょう…ザザッ……!』
「補佐官とエアーの安全確保は確認出来たか?!エアーだ!エアーは確実に安全圏まで退避させろ!
イエローはケガしてる、補佐して確実に退避!」
『………ス!ガ…ットの姿……見…ません!』
走ってくるサトミに、マッスルが手を振る。
がっしりした体躯に、異常は無さそうだ。
「わかった、お前は対象の安全確保を急げ!」
無線をオープンに切り替える。メチャクチャ忙しい!
「全員聞け!敵は
アルケー兵制圧だ!ボサッとするな、泣いてる暇はねえぞ!増援の2隊が来るまで踏ん張れ!」
サトミが家の方角を指さす。
サトミに気がついた者が、力強く手を上げる。
その時、飛んできたヘリのローターの音があたりに響きはじめた。
ダダダダダダダダ!!
キャンプの軍用ヘリが飛んできて、更に家から出てくるアルケーの兵を威嚇射撃して止めた。
ヘリが少し高度を上げて、旋回して戻ってくると、再度威嚇射撃を繰り返し上空で待機する。
「踏ん張るぞ!みんな頑張れ!」
前方隊副官が声を上げ、動ける兵が威嚇して撃ち始めた。
敵兵も応戦して、撃ち合いの様相に変化する。
アルケー兵は、しかしガレットを探すのに躍起で引く様子が無い。
遅れて高台から、キャンプから来た2隊の増援の車が全速でこちらへ向かってくるのが見えた。