第28話 ガレット隊の決意

文字数 2,930文字

サトミが郵便局に戻る途中、住宅街を出るところで女性アタッカーが盗賊に襲われたと連絡が入った。
アタッカーにケガはない、護衛ポイントのセカンドが対応したとの報告だ。
アントがキャンプに寄りますか?とサトミにひっそり聞くと、必要ないと言った。

「護衛は任せている。予想されたから護衛を配置したんだ。
4人の奴ら何か吐いたか?」

「駄目っすねえ、奴ら来たばかりでサトミ殺せと、えー」

「キシシ、どうせ反吐が出そうなやり方で殺れって言われたんだろうよ。
いまだ戦争引きずってる奴ぁ不幸だなあ。

昨夜はリッターとダンクが飲み屋で襲われたって言ってたし、潮時かな……」

ぼんやりサトミが空を見上げる。

「デリーのアジトに突っ込むので?」

「ハハッ!」

並んで馬を歩かせながら、馬上でサトミが馬のたてがみを撫でる。
ベンが答えるように、ブルブルッと鼻を鳴らした。

「随分小さい馬ですね、本部から馬回しますか?手配しますけど。」

「いらねえよ、こいつは俺に丁度いい。
何しろチビだからな。」

「ハハ……冗談きついっすよ……」

滅多に聞かないサトミの冗談に、アントが苦笑いで後に続く。

「目標はもうデリーにいるわけねえよ。その為の攪乱(かくらん)だ。
ジョークはなんと言ってる?」

「確認します。
まさか、すでにこの町にいると?」

「いるかもな。
俺を殺すなら一人になる瞬間を狙うだろ。」

「家……ですか?」

神妙な声に、サトミがニヤリと笑う。

「何だ、お前俺に言わせたいのか?ん、んっー、あー

兵隊さん!怖い!死にたくないんです!守って下さい、兵隊さん!」

喉の調子まで整えて、裏声のなんだか奇妙なほど可愛い声で言われ、アントがゾッとする。

「うっひゃーー、冗談やめてください。俺、デッドほど耐性無いんすよ。」

サトミがからかって、ゲラゲラ笑いながら先を行く。
やがて走り出すと、郵便局へと向かっていった。



近くの家の影で、二人の男が壁際からサトミ達を見送り車に戻る。
一人が集音器を耳から外し、ニヤニヤと笑った。

「なんて言ってた?」

「んー、ボソボソ喋ってて、よく聞こえなかったけど、ガキが悲壮な声で……
兵隊さん怖い!死にたくない!守って下さい!って言ってたのは聞こえた。
まあ、その後笑ってたけどな。まだ護衛付いてるし、余裕有る感じだな。」

「なんだよ、強いのか弱いのかさっぱりわからねえガキ。」

「ハハハ、まあ今日どっちかわかるさ。
増援も音沙汰無くなったからヘマしたんだろうし、これ以上護衛増えたら手が出せなくなる。
さっさと済ませて、こんな国おさらばだ。」

「まさか増援たった4人とは思わなかったけど、なんであっという間にやられてんだ?
それともどっか行っちまった?」

「逃げる…ってのは考えにくいから、やっぱやられたんだろうなあ。何しに来たのかわかんねえ奴らだぜ。」

「町の奴らに聞くと家はあの橋の周辺らしいし、どうも一人で帰ってるようだから、姐さんならあっという間に終っちまうだろ。
軍人のキャンプ地は郊外で少し離れてるけど、夜どのくらい町に出てくるかが問題だな。
あとはガレット総隊長逃がすまで、俺達で陽動かな。
ああ……無事に帰れればいいな。」

「ああ、なんだか変なガキの多い国だぜ。モーテルに戻るか?」

「そうだな、軍人も郵便局に集中してるようだし、仕事中は護衛がべったりで手が出せねえ。
あまりうろうろして肝心の総隊長が見つかったら元の木阿弥だ。
買い出ししてるアンソニー拾っていくか。」

車を走らせ、アンソニー拾って町を出る。
モーテルに戻ると、あとからもう1台でガレットとイレーヌが戻ってきた。

「あれ?出てらしたんで?」

「見てきたんだよ、町で配達してただろ?途中で見かけた。
確かにあいつだ。背格好もそのままだな。ヒヒッ!全然成長してねえぇ〜クソガキ。
アンソニーどうだった?」

アンソニーが、買ってきた食料を並べ、パンに一つ食らいつく。
ちょっと目を閉じ、うなずいた。

「ああ、ちょっと距離有るけど町が一望出来るところはある。
川沿いの斜めになったビル。
町の周辺は戦闘激しかったからまだほぼ高い建物がないからな。
あのビルで行けると思う。
あのガキ、カンがいいけど、あの距離ならバレないだろう。」

なんだか自信なさげなアンソニーに、イレーヌがハッと笑った。

「あんた、そのコート着てて、それでも自信ないの?笑っちゃう。」

「笑えよ、これ着てても、なんだかあいつは怖いんだよ。
怖いものなしのあんたにはわからないだろうけどな。」

「ふうん…そうねえ。まあ見た感じは普通の子だったけど。」

なんだか子供の本を貰って随分喜んでいたけど、そう言うの見るとほんとにあいつ?って疑いたくなる。しかしガレットはあいつを見ている間、爪を噛んで目が血走っていた。

「いや、でもそうだな……俺の銃口はなぜ奴を追えなかったんだろう。
俺は記憶が曖昧で、あいつ思い出すと時々頭が混乱する。
イレーヌ、早く…早くあいつを消してくれよ。」

「アンソニー……」

そこで、イレーヌの部下2人は顔を見合わせ口を開く。
そこまで恐ろしい子供には見えなかった。

「まあ、退役してからはわかりませんぜ。
護衛の兵隊に怖い、死にたくないって泣きついてやしたから。」

「そんな……ガキの芝居に踊らされてんじゃねえよ。俺は、見たんだ。
1000フィート(300m)は離れてる俺を、あいつが真っ直ぐ指さすのを。
あいつは、きっと……どんなに離れても、俺が見えるにちがいない。」

パンッ!

アンソニーの頬を、イレーヌがいきなり叩いた。

「いっつ……」

「ガキ一人に怖じ気づいてんじゃないわよ。
あんたは補助してくれればそれでいいわ。目標に対しては、あたしが出るから。
お前たちはできるだけ他の奴らを引きつけてサポート。目標をできるだけ一人にするのよ。
ダーリンは車お願い。」

「おう」「了解」「わかった」

「さっきオヤジに帰る条件でサポート受ける事になった。
あとはイレーヌがあのガキ捕まえるだけだ。頼むぜ」

「任せて、ダーリンはアルケーの英雄よ、無事に帰ってくれなきゃ困るわ」

イレーヌがガレットの頬にキスをする。

「イレーヌ、あんたも英雄なんだ、国民が待ってる。俺は愛し合うあんたらが希望に見える。
俺は2人をこの銃で守ってみせるよ」

「おう!その意気だアンソニー」ガレットが立ち上がってアンソニーの肩を叩く。

「アンソニー、 イレーヌのサポート頼むぜ。お前の腕は一流だ。
あの時は異常な状況で俺もみんな、み〜んな失っちまった。
なあ、アンソニー、みんなの(かたき)を取ってくれ。
その為に生き残ったんだ、だろ?俺達はよぉ。」

「ああ、わかった、そうだったな。大丈夫だ、任せてくれ。」

バンと背を叩いて、ガレットが大きく手を広げる。
やっとだ、やっと、その日が来たのだ。

「よーーーーしっ!!やっとこの日だ野郎ども!
ガキを殺して、アルケーに戻るぞ!!
そして部隊の建て直しだ!やることいっぱい待ってらあ!!」

「ははは!まだやる気かよ!懲りない奴だなあんた!」

ようやくアンソニーが笑う。
彼と肩組んで、おう!と手を上げる。
イレーヌがガレットの頬にキスして、パンと手を叩いた。

「よし!装備点検開始、食事したら出るよ。」

「了解しました!」

もうすぐ、彼らの最後の戦いが始まる。
強い相手に期待して、イレーヌは一人心が躍っていた。
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登場人物紹介

・サトミ・ブラッドリー

日系クォーター、15才。黒髪、ブラウンの瞳。短髪だがボサボサ。中肉低身長、禁句はちっこい、チビ。

使用武器、主に背の日本刀、鰐切(わにきり)雪雷(せつらい)

11才まで全盲。周囲にいる者を感知できる。

小柄でよくチビと言われるが、生まれつきか日本刀を振り回す為か人間離れした筋力を持つ。

入隊を条件に目の手術を受けたため、家族の顔を知らない。両親と妹がいた。

・ビッグベン

サトミの愛馬。栗毛くりげの馬。

ロバと間違えられるほど小型の馬だが、未知数の脚力を持つ。

盗賊の頭が乗っていたが、サトミに出会って彼を選ぶ。

なぜか人語をしゃべり、子供くらいの知恵がある。数字は100まで。


・ダンク・アンダーソン

18才、アタッカーの先輩。元少年兵。黒髪碧眼、一人暮らしも長く料理上手。

使用武器、ハンドガン2丁。馬の名はエリザベス。


・ガイド・レーン

30才。黒髪、無精ヒゲの最年長。妻子あり。

戦時中から最前線でポストアタッカーを続けた。

ロンド郵便局のポストアタッカー、リーダー。

使用武器、アサルトライフルM27。他国海兵隊仕様を横流しで手に入れて外観をカスタムしている。


・リッター・メイル

22才。金髪碧眼の白人。ポストアタッカー。

母親似で良く女に間違えられるのが悩み。

美麗な容姿と大きくかけ離れた粗野な性格で、大酒飲みでケンカっ早い。そして強い。

使用武器、ショットガンM590M ショックウェーブ。多様な弾を入れ換えて使用する。


・ミサト・ブラッドリー

サトミの一つ下の妹。

・エアー

デビッド・ロスは偽名。情報部員としては他国にも知られている。数々の功績を挙げているため、苦々しく思ったアルケーに家族を殺されている。

・ガレット・E・イングラム

隣国アルケーの国防大臣の息子。

金と親の権力で軍幹部にいながら、独立した暗殺部隊を編成してメレテ国内に侵入し、暗躍していた。

タナトスに狩られた時に印象に残った背中に棒を背負った少年兵を探している。

・ギルティ

30代。タナトスのセカンド隊長。ツンツン茶髪。口が軽くあまり物事を深く考えない。

死なない男、強運で生き残っている。仲間からは密かに無能とささやかれる。

隊、唯一の妻帯者。ボスに従順。自分で何も考えない。サトミ入隊の頃、監視役をしていた。


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