王冠に屈す <コロナ・フィクション:『ああ日常』その6リンク作品>

文字数 1,191文字

おやっ? 何だか急に、苦しいぞ。
おいおい、これって、あれか? 急変? 俺が?
センセイ、カンゴシさん、慌ててるな。俺の為に?
うーん、眠いぞ。息がしにくいな。
ああ、そうだ。家族。みんな一緒にいるんだよな。
うん? ああ、貴子か。雄介と貞介もいるな。手を握っているのか。
なんか、それも分からなくなってきた。



あれは二週間くらい前のことか。
職場の飲み会があったんだよな。このご時世に。
世間的にやばいだろう、とは思ったけど、自分が感染するとは思ってなかったな。
上司がマスクしてないのに、俺ができる訳ない。
若いやつはそもそも飲み会に来なくなってたけど、俺は行かざるを得ないよ。
貴子は怒っていたよね。ホント、ごめん。

それで四日後に咳が出始めて、同僚が陽性者になったと知った。
あの時飲み会にいた連中は、当然濃厚接触者だ。
保健所から電話があって、俺も鼻に棒を突っ込まれた。
待ってる間は緊張するね。
あの、連絡がなければ陰性です、っていうのは良くないよなあ。

陽性の知らせを受けたときは、あまりショックじゃなかった。
家族のことが心配にはなったけど。
それでその日の夜から、ホテルで暮らすことになった。
ちょっと咳が出るくらいだし、大袈裟な、と思ったけど、まあ仕方がない。
どうせ、仕事もできないしな。

二日たって、貴子と長男の雄介。その次の日には貞介。陽性だって。
あいつらは咳もない。でも陽性者にしちゃったんだな。俺のせいで。
貞介なんか小学校の一例目だったかな。
そのころから俺の体温は三十七度後半ですこし怠さがでていたか、今思えば。

四人家族が一緒になって、病院へ行くことになった。
一番重いのは俺。咳が続く。
これで重いの?
まあでも、俺のせいで入院。
四人部屋を家族で使えるんだって。
みんな陽性で、むしろよかったのかな。
なんて呑気に考える余裕もあったよ、あの時は。

それで三日くらいは何ともなかった。
病院食の味が薄いこと以外は、文句はなかった。
貴子と俺は、血をサラサラにする薬を使われた。
まあ、予防的らしい。
そしたらあれは昨日、昨日だよな。俺は酸素を付けるようになった。
全然苦しくもないんだけど、エスピーオーツーっていうの?
その数字が下がり始めたらしい。
機械がおかしいんじゃねえか、と思ったけど素直に従った。
それで、デキサなんとかとレムデシビルという薬も追加で入れられた。
なんか、信じていいのかね?
どうも俺は、ワクチンも打ちたくないんだよなあ。
そういえば、貴子は打ったのかな?




それで、今日だ。
何かおかしい。貴子、雄介、貞介。なんで泣いている?
センセイが防護服を着て、何か言ってるみたいだな。



ああ、苦しい気がする。胸が痛い?
俺、もしかして死ぬのか?
俺が、あの飲み会のせいで……。


みんな、ごめん。
急すぎて、サヨナラも言えないね。




あ、楽になってきた。治るのか? 

眩しい?

あれっ、おじいちゃんとおばあちゃんじゃないか? 久しぶり――。
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