椅子

文字数 337文字

雨の音に揺れる世界
流れていく束になった花は
蘇る、塵の中を静かに、
通過していく
一度は消え去った亡霊に
身を任せて、消失する
あの日、見ていた線路が
先まで続いていた
電車は揺れながら、先へと向かう
光が瞬き始めて、
喧騒の中の淡い感覚が
じりじりと心を埋め尽くす
帰る道のない、
疲弊した残像は、
消え去った亡霊を集め始めた
奇妙に揺れている
無感覚に歪む
嫌いだったのは、
ごく普通の針金で、
それが、音もなく彷徨っているから
そっと煙をかける
何も知らないままに、
それは消滅していこうとする
奇妙に入り組んだ現実が
渡す橋は、残像の行きつく先を知らない
風景が浮かんでは、
それが刺し続けていく
悲しみの理由を知らないまま
夜が明けようとして、
その中を草臥れた椅子が
静かに歩き始める
それは一度やってきては
また消えていく
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