第15話「運命の再会②」

文字数 2,093文字

 ここは迷宮の8階、ショッピングモール内、カフェ『女神(デア)』……

 俺達は、会話を聞かれないよう、周囲に他人が居ない、一番隅っこの席へ座る……
 そして運ばれて来た紅茶を、ひと口だけ飲み、ふたりで話に熱中していた。
 
 改めて話すと、俺達は『全く同じ目に合っていた事』が分かったのだ。

 ふたりとも、次回のデートを楽しみにして、寝入ったら……
 ……全く見覚えのない部屋で、目が覚めたのである。

 とても驚いた。
 俺だけじゃなく、リンちゃんも、全く同じ経験をしていたなんて。
  
 寝て起きたら、異世界転生なんて……「勘弁」と笑い合った。
 起きた直後は、絶望感しかなかったのも同じ。

 残して来た家族は?
 友人は?
 と思えば、気になってたまらなかった。

 その上、リンちゃんは優しいから……
 自分が担当していた、患者さんの事も気になったって……

 だけど……
 この異世界の、他人格に憑依して……
 やはり、これは夢じゃない。
 どんなに嘆いていても、状況は変わらない。
 悩んだ末、そう、切り替えたという。
 
 そんな決意も、まさに俺と同じだ。
 
 だから、元の人格の家族や身内、友人は居ても……
 この異世界で俺は、全くの天涯孤独だと思っていた。
 
 それが、違っていた。
 リンちゃんが、居てくれた。
 俺はとても嬉しかったし、リンちゃんも、晴れやかな笑顔で応えてくれた。

 そんなこんなで、感動のあまり……
 ふたりで、話していて、妙に盛り上がってしまう。

 初めてのデートもそうだったけど、またふたりの距離が、極端に縮まったのを感じる。
 多分、リンちゃんも同じ思いを持っているだろう。

 ああ、俺が好きになった相坂リンちゃんが……間違いなく、目の前に居る。
 某大病院に勤める看護師。
 年齢は、俺よりひとつ下の24歳。
  
 そしてリンちゃんが、いきなり異世界転生し、新たな人格となったのはフルール・ボードレール24歳。
 冒険者ギルド総務部バジル部長の姪で、何と創世神様の巫女。
 創世神教会勤務で、職業は治癒士だそうだ。

 リンちゃんが、目をきらきらさせて言う。 

「でも良かった! また会えて! 貴方との約束を、守る事が出来たわ」

「ああ! 俺もさ!」

 異世界で別人格。
 という、とんでもない環境だけど……
 俺達は約束した通り、再び会う事が出来た。
 こうして、2回目のデートだってしている。
 
 そして幸いな事に、異世界のクリス、フルール……
 ふたりとも、恋人は居なかった。
 最近のこの異世界の風潮なら、身分の差も関係ない。
 ……これで、堂々と付き合う事が出来るってものだ。

 よっし、ここは俺が男らしく(死語?)申し込もう。

「リンちゃん、俺と付き合ってくれないか?」

「喜んで!」

 やったぁ!
 俺にも遂に彼女が出来た。
 
 それもこんなに可愛く、優しい彼女が。
 ああ、リンちゃんも、嬉しそうに笑ってる。
 君のたれ目に、俺は秒殺だ。

 そしてまたも、衝撃の事実が……
 この後の予定って……
 ふたりとも同じ飲み会に参加する事になっていたのだ。
 俺の参加する2次会とは、何と!
 リンちゃん達、巫女さん軍団との合コンだったのである。

 うわ、危ない!
 もう少し、後で出会っていたら……
 俺達はもう、お互いに恋人が出来て、永遠に結ばれなかったかもしれない。
 
 否、下手をすれば、会う事も、出来なかっただろう。
 そう、思うと……ぞっとする。

「俺、王都騎士隊のジャンさんに誘って貰って……」

「私は……巫女の先輩のシュザンヌさんが、彼氏が居ないなら、来なさいって……」

 でも、ひとつ心配があった。
 ジャンさんの素振りでは、目をつけている女子が居る感じだった。
 
 万が一、ジャンさんの標的が、リンちゃんだったら……
 気合を入れて、絶対に守らなくてはならない。

 何せ、相手は『赤い流星』である。
 常人の10倍のスピードで、女子を落とすという、評判のモテ男なのだ。
 
 しかし、幸運は続いていた。
 まず、リンちゃんは、ジャンさんを知らなかった。
 そして巫女仲間で、ひとつ年下の後輩女子が、ジャンさんの意中の人らしいと言うのだ。

「多分それって……ジョルジェットだと思う。最近、カッコイイ騎士様と知り合ったって言っていたから」

 ああ、良かった!
 これで邪魔者は居ない!
 
 だが、待てよ。
 リンちゃんはこんなに可愛い。
 
 「勝って兜の緒を締めよ!」という言葉もある。
 ジャンさんは安全でも、ジェロームさんやリュカの『攻撃』は十分に考えられる。

「飲み会って、多分合コンだから、誰かから口説かれるかも……俺、君を必ず守るからね、リンちゃん!」

「うん! ありがとう! でも大丈夫……私はトオルさんの『彼女』だから」

 ああ、嬉しい事を言ってくれる。
 俺は感動に打ち震え、リンちゃんの癒し笑顔を、熱く見つめていたのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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