第10話「異世界異業種交流会」

文字数 2,265文字

 俺とリュカが入った、レストラン『探索(クエスト)』の店内は、ほぼ満員だった。
 ざっくり見て……
 男女200名以上は、居るかもしれない。

 立食形式と聞いていた通り椅子は無い。
 会場の数か所に大きなテーブルがあり、これまた大皿に盛られた、美味そうな料理がいくつも置かれていた。
 バーコーナーもあり、エールとワインは飲み放題らしい。

 そして、何と!
 片隅に楽隊が居て、(おごそ)かな音楽を流している。
 地球のクラシックに似た音楽だ。

 この異業種交流会は、やはり凄い。
 観察すると様々な身分、そして職業を持つ人々が混在している。
 
 え?
 皆、普段着じゃなく、ドレスアップしているのに何故分かるのかって?
 それは、バッチリおめかしはしていても、衣服に身分と職業が何気なく反映されているから分かるのだ。
 加えて魔法使いは、相手の波動を読み取る感覚に優れている。
 俺とリュカのような、魔法鑑定士であれば尚更だ。

 ジャンさん達のような騎士は勿論、貴族、商人、職人という堅気な人達、冒険者らしい戦士や俺達のような魔法使いも大勢居る。

 更に言えば、商人でも商家の裕福な者から、行商に近い人と千差万別。
 魔法使いだって、真っ当な雰囲気の者から、インチキ錬金術や死霊術でもやっているんじゃないかという、怪しげな奴も居た。

 使用人っぽい人も結構居て、これは完全に転職希望か、就活だろう。
 執事やメイドっぽい人は、見れば、はっきり分かるもの。

 パトロン探しらしき者も多い。
 画家や吟遊詩人などの芸術系から、愛人系らしき美女まで様々であった。

 うわ!
 まさに、混沌(カオス)

 リュカは、独特な雰囲気に圧倒され、呆然としている。
 俺は、リラックスしろというように、奴の肩をポンと叩く。

「じゃあ、リュカ……俺達もここで、一旦解散だな」

「え? 僕、クリス先輩を、フォローしなくて良いんですか?」

 俺の物言いを聞き、リュカは更にポカンとした。
 口を大きく開けて、締まりがない。
 
 ほら、これから可愛い女子を口説くのなら、そのだらけ顔、もう少し何とかしろって。

 先程までは鞭でビシバシ、リュカを叩いていたから……
 ここからは、少しだけ飴をやろう。
 俺は優しく諭しながら、しっかりと約束させる。

「折角だから、別行動にしよう……お前もがっつりチャンスを掴め」

「チャ、チャンスをっすか!」

「ああ、良い出会いがあるといいな。但し宝剣の間では、俺と一緒にジェロームさんをしっかりフォローしろよ」

「は、はいっ! 先輩、恩に着ます」

 俺がそう言うと、リュカの表情が一変した。
 きらきらと目を輝かせている。
 前向きな、健康男子の顔だ。

「ははは、お互いに頑張ろう……あと、時間は厳守だぞ。良いか? 7時少し前に宝剣の間だからな」

「はいっ!」

 最後に時間を念押しすると、リュカは直立不動で「びしっ!」と敬礼し、人混みへ突入したのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 リュカと別れた俺は……
 人混みの中を縫うように歩いて行く。
 
 とりあえず……
 小腹を満たし、喉を潤そう。
 
 取り皿に料理を適当に盛って、ひと口、ふた口食べ、ワインを「きゅっ!」と飲んだ。

 ジャンさんから聞いている通りなら……
 そろそろ主催者である、『閣下』と呼ばれる王族が、開催宣言を行う筈である。

 そんな事を考えていたら、いきなり音楽が変わった。
 
 俺が注目していると……
 会場の一番奥に設けられている演壇に、30歳くらいの王族男性が、「のしのし」歩いて登場する。
 王族男性の挨拶は、簡潔なものであった。
 長い挨拶が、顰蹙を買うと知っているらしい。

 挨拶の内容といえば、
「良い出会いをして、親睦を深め、ヴァレンタイン王国の発展に寄与するように」
という話であり、終了直後に、乾杯の音頭が入った。
 
 俺もワイングラスで乾杯を行い、終わった後で、皆と一緒に拍手をした。
 
 「王家のお陰でこのような素晴らしい会が催されるのだぞ!」
 というアピール&デモンストレーションなのだろう。

 ジャンさんによれば、この『イベント』が終了後、『帰る』のは自由らしい。
 この後、2次会もあるし、当然俺は帰ったりせず、『活動』を本格化させる。

 こんな会合の場合、コツがある。
 まず、自分の友人か、知人を探すのだ。
 親しければベストだが、最悪、顔見知りでもOK。
 
 何故ならば、友人の友人は何とやら……
 俺の、プロフ説明が簡略化出来る。
 それに知人の紹介ならではの、メリットがある。
 初対面の人にも、身元がはっきりしていると、安心して貰えるのだ。

 だが今夜の会合は、王家主催の特別版だし、俺は初参加である。
 簡単に、知り合いなど、会えるわけがない。

 暫く歩いて周囲をきょろきょろ見たが……
 当然、知らない人ばかりだ。
 
 しかし!
 ふと見た先に、見覚えのある人が目に入った。
 思わず声が出る。

「ええっ? 何故ここに?」

「あ?」

 声を掛けられた相手も、吃驚して俺を見ている。
 同じ若い奴なら、俺もこんなに驚かない。
 
 周囲が若者だらけの会で、浮きまくる50歳過ぎの中年男が、目を丸くしているから。

 そこに居たのは……
 俺の勤務先、冒険者ギルド総務部長、バジル・ケーリオ氏であったのだ。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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