第7話 「今夜はスペッシャルイベント!②」

文字数 2,092文字

 後輩のリュカと、今夜、待ち合わせした場所は……
 王都セントヘレナでは、最もポピュラーな、中央広場大魔導時計下である。
 今日もいつも通り、大勢の待ち合わせらしき人々で、ごったがえしているだろう。 
 
 そもそもこの街は、前世地球における、中世西洋の街で良く見られた構造をしている。
 中心に大きな広場が造られ、そこから放射線状に延びた道に、各街区が区切られていたのだ。
 
 但し、通常の街と違うのは、中央広場がとてつもなく広い事。
 その上、通常は街の奥、高台に造られる筈の王宮が、中央広場に造られている事である。
 
 だから、他の街と比べても、中央広場の活気が半端ない。
 何か、特別な催しがない限り、様々な市場や露店も立ってにぎやかだ。
 あちこちに立っている、王宮警護の屈強な騎士達が、睨みをきかすお陰で、悪さをする奴も滅多に居ない。
 
 だから、治安もバッチリで、自然と人も集まる。
 裏通りに入ると、結構、治安の悪い王都なのだが……
 中央広場だけは、安心して女の子とデートが出来る場所なのだ。

 そんなこんなで、時間は、もうまもなく午後5時!
 待ち合わせの時間ジャストである。

 予想通り、大魔導時計下は凄い人だ。
 
 やっべ~!
 さすがに、遅刻はまずい!

 俺が焦って、辺りを見渡すと、

「あ~っ、先輩こっち~~っす!」

 人混みの中で、リュカが大声で叫び、手を「ぶんぶん!」振っていた。
 俺は、速攻で駆けつける。

 時間は丁度、午後5時。
 魔導時計の鐘が、趣きのある音を鳴り響かせた。

 何とか、セーフというところだ。

 まずは、ぎりぎりの到着を、リュカへ謝罪。
 こんな時、待たせた相手が後輩だからといって、全く気配りせず、さも当然とか……
 「俺は全然悪くないのだ!」なんていう、傲慢光線バリバリ発射みたいな、登場をする人は……嫌われる。

「おお! 悪い! 待たせたな」

「いや、僕もさっき来たっす。それにまだ、ジャンさんが来ていませんから」

 リュカの言う、ジャンさんとは、今夜のイベントの紹介者である。
 ちなみに、ジャンさんは、騎士。
 ヴァレンタイン王都騎士隊勤務、隊士のジャン・アズナヴールさんという。
 
 愛用の、赤い革鎧が似合う、粋な伊達男。
 数々の魔物討伐で名を馳せた、『赤い流星』という、カッコイイふたつ名を持つ超有名人なのだ。

 ジャンさんと、俺とはどのような関係かって?
 実は、知り合いの知り合いなんだ。
 何回か、偶然、飲み会が一緒になって、意気投合。
 同じ騎士爵家の、次男坊というのも大きかった。
 以来、たまにこうやって、つるんだりしている。

「ジャンさん、大丈夫っすかね?」

 リュカが、盛んに時間を気にする。
 対して、俺は、あまり心配していない。

「まあ、あの人は要領が良いから、大丈夫だと思うよ」
 
 俺とリュカは、暫し待ったが……
 ジャンさんは、中々来ない。
 
 交流会は5時30分開始。
 だから、もうあまり時間がない。
 さすがに、少しだけ、焦って来た。

 だが、ひと安心。
 俺が到着し、更に10分ほど経って……
 ようやく、ジャンさんがやって来た。
 それも、彼と同じくらい、逞しい偉丈夫を引き連れて。

 俺は思う。
 ジャンさんは、いつ見ても爽やかな笑顔を見せているって。
 日焼けした顔の中で……
 少しだけ開いた口に見える歯が、やたら白いのが目立つ。

「おお、済まん! ちょっと遅刻かな? クリス君、待ったかい?」

 そして、ジャンさんも俺と同じだった。
 遅れて来たら、しっかり謝る。
 まあ、悪い事をしたら謝るって、人間としては当然なんだよね。

 俺も、笑顔で返し、大魔導時計を指さす。
 5時30分まで、あと10分少ししかない。
 
「いえ、それよりも、急ぎましょう」

「了解! その前に、今日参加する、僕の先輩を紹介する」

 ジャンさんは、隣の逞しい青年を紹介してくれた。
 ええっと、こちらはジャンさんとは違うタイプのイケメン。
 少々濃い顔であり、クラシックな二枚目と言って良いだろう。

「ええっと、彼はジェロームさん、ジェローム・カルパンティエさんだ」

「え?」

 おいおい!
 カルパンティエって……
 そうだよ、絶対にカルパンティエ公爵家だ。
 この国の騎士隊、いや! 王国軍全てを取りまとめる家柄じゃないか。
 
 彼……ジェロームさんって、確か長男で、跡取り息子だ!

 そう言えば……
 彼の顔に、何となく見覚えもある。
 王宮で開かれた、晩さん会の、輪の中心に居たような……

 驚いた俺の表情を見て、ジャンさんは、笑顔でフォローしてくれる。

「ああ、お察しの通り、カルパンティエ公爵家、嫡男のジェロームさんさ。ジェロームさん、こちらは魔法鑑定士のクリス君、あのレーヌ騎士爵家の次男坊です」

「……宜しく」

 短く、挨拶したジェローム・カルパンティエさんは、武骨な手を俺に差し出したのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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