第8話 「迷宮は、ワンダーランド」

文字数 2,832文字

 この世界の合コン……
 クリスこと俺がやっている自由お見合いは、お店を貸し切る事が殆どだ。
 
 いつも店を貸し切るなんて、確かにお金はかかる。
 だが、はっきりとした理由がある。
 
 誰彼構わず、強気なナンパが当たり前のこの異世界。
 他の客から、メンバーの女の子へちょっかいを出されて、折角の雰囲気を壊されたくないからだ。
 
 人の幸福を、他人は羨むもの。
 それが、『女絡み』だと尚更である。

 だが今日の店は、いつもとは違う。
 何せ王国主催のイベントだ。
 
 王国の国費使用で、使う金は一切なし。
 貸し切る店の規模も、桁が違う。
 場所だって、王家の企画立案者が流行を考慮している。

 俺とリュカは、ジャンさん達、騎士ふたりの後を着いて行く。
 やがて……
 店が、見えて来た。
 
 実をいうと、今日の店はとても特殊である。
 何と!
 地下迷宮を改造した、現在大人気な、レジャー施設内のレストランなのだ。

 何故、迷宮が王都にあるのか?
 理由というか、話はこうだ。
 
 ……今から数百年ほど前、王国に歯向かう、ひとりの魔法使いが居た。
 彼は、嫌がらせも兼ね、王都の至近距離に迷宮を作り上げた。
 
 地下10階まである、そこそこの規模のものであり……
 魔法使い自身は最下層に引きこもる。
 
 だが、迷宮のある場所は、王都の近くとはいえ、とんでもなかった。
 何と!
 入り口が、正門の真ん前だったのだ。
 
 さすがに、王国も放ってはおけず、何度か迷宮の封鎖と退去を命じた。
 だが、件の魔法使いは完全無視。

 こうなると、もう強制撤去しかない!
 という事で、王国は騎士隊を派遣した。
 しかし、なかなかうまくは行かなかった。
 
 魔法使いが、ダンジョンコアと共に存在する最下層までには……
 彼が召喚した、様々な魔物が徘徊していたからである。

 魔法使い討伐に向かった、多くの騎士達が迷宮において命を落とした。

 業を煮やした王国は、冒険者達に迷宮探索を開放。
 憎き魔法使いに、莫大な懸賞金をかけて討伐を命じた。
 
 数多の冒険者達が迷宮攻略を目指したが、結構大変だったらしい。
 件の魔法使いが、いつまで生きていたのか、分からないが……
 魔法使いが籠って、約100年後、迷宮は遂に攻略され、ダンジョンコアは破壊されたのである。

 多くの騎士や冒険者が亡くなり……
 とても不吉な場所とされた迷宮は、攻略後、あっさり埋められてしまった。
 そして、ず~うっと、そのままになっていた……
 
 そんな迷宮が、注目を浴びたのは、王都の拡張工事が発生した偶然からであった。

 元々、迷宮がある場所の、街壁が老朽化した為……
 ついでに街を拡張しようという話が持ち上がった。
 
 そして人々に忘れ去られていた迷宮が、暫くぶりに発見されたのが、約50年ほど前……
 迷宮は扉に魔法で封印がされ、入り口付近を埋められただけであったので、殆ど無傷だったらしい。
 王国は自国の損害を避ける為に、またもや報償金を出して迷宮の探索を命じた。

 度胸試しも兼ね、報奨金目当てに多くの冒険者が参加した。

 幸い迷宮内には、人間に致命的な脅威を与える敵は居なかった。
 嫌らしい罠も老朽化の為か役に立たなくなっていたし、物理的な攻撃手段しか持たぬ旧式のゴーレムに小型の昆虫系の魔物のみ……
 冒険者達は、実入りの良い仕事をこなし、うはうはで莫大な金を得たという。

 こうして安全になった迷宮は……
 暫く騎士隊や冒険者ギルドの模擬戦闘の訓練用に使われていた。
 だが、5年ほど前に民間へ払い下げられた。
 
 迷宮を取得したのは某商会であり、彼らはこの迷宮を大幅に補修した。
 センスの良い装飾を施し、レストランをメインにした地下商店街を造り上げてしまう。
 更に、客足が多いのを見越し、増築工事を行った。
 疑似迷宮探索体験や魔法射的場が出来る遊園地などを備えた、一大レジャーランドにしてしまったのだ。

 その『レジャーランド』が、リニューアルオープンしたのが去年である。

 前置きが長くなってしまったが……
 今夜の会場は、そのレジャーランド内のレストラン、その名も『探索(クエスト)』である。

 ここで、ジャンさんが「そっ」と俺へ耳打ちした。

「クリス君、悪い。今日はジェローム先輩をしっかりとサポートして欲しいんだ」

 こんな時、絶対に嫌がらず、「打てば響く!」のがクリスこと俺の真骨頂である。
 理由も聞かずに、即座に快諾するのがお約束だ。
 こういう迅速な対応が、次の合コンへ呼ばれる事に繋がるからね。

「了解! 任せて下さい」

 俺の気合の入った返事を聞いてジャンさんは満足そうだ。

「おお、悪い。それと2次会なんだが……今夜の仕切りと最初の挨拶は僕がやるけど、後の司会進行を君に頼みたい」

「2次会は、挨拶以降の司会を? 俺にですか?」

「うん……2次会は個室を予約してあるから」

「成る程ですね」

「ああ、つまり最初に1次会、立食形式の交流会に参加して貰い、その後に、2次会として、別途食事会を行う。なので、時間になったら指定された個室へ来て欲しいんだ」

 ふ~ん、成る程。
 自分で仕切っておいて、2次会の司会をやらないって事は……
 ジャンさんはもう、相手のグループに、『目当ての子』が居るという事か。

 まあ、良い……
 今夜、ここへ俺達を連れて来てくれたのは……ジャンさんなんだから。
 情けは、人の為ならず……
 ジェロームさんだけではなく、機会があればジャンさんの方も、しっかりフォローしてあげよう。

 俺は念の為、聞いておく。

「確認しておきたいのですが……ジェロームさんのサポートは、2次会の、開始以降で良いのですか?」

「ああ、7時少し前まで、僕とジェロームさんは別件がある。だからクリス君と後輩君は、2次会が始まるまで、自由行動でOKさ」

「ありがとうございます! 了解しました」

 いやいや、本当にありがたい!
 ジャンさんの、優しい気遣いを感じる。
 
 俺は今回の交流会ってやつを楽しんでみたいし、個人的に知り合いを作って、人脈も広げたい。
 まあジャンさんも、俺を使って、今後合コンを頼んでくるかもしれない。
 世の中は、持ちつ持たれつである。

 今回は、ビッグチャンスかもしれない...
 だが、直近の結果だけ求めるようでは、次には繋がらない。
 出来れば彼女を作りたいと思うけれど、上手く行くとは限らない。
 いや、彼女が出来ない可能性の方が、却って高い。
 
 最初から、そんな後ろ向きじゃあ、いけないのだけれど。
 世の中は、そう甘くない。

 まあ、全力を尽くすのみ!

 俺は気合を入れ直して、再び店を眺めたのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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