第11話「若くない総務部長の悩み①」

文字数 2,439文字

「クリス君! ど、どうして!?」

 俺を見て「どうして!?」と、驚いたバジル部長。
 目を丸くして、ポカンと口を開けていた。

 そりゃ、そうだ。
 ここは一応、エリート連中のパーティだからね。

 俺なんか……
 元々うだつの上がらない、騎士爵家次男。
 そんな下級貴族から、更にドロップアウトした庶民だもの。
 部長が驚くのも、無理はない。

「あはは、知人の紹介です」

 俺は、部長の質問に対し、笑顔で曖昧に答えた。

 ここに居る理由など、正直に言えない。
 合コン仲間の騎士、「赤い流星様の紹介なんです」とは言えない。
 
 俺の微妙な笑いを見て、バジル部長も釣られて微笑む。

「そうか……でも、知り合いに会えてホッとしたよ」

「ホッと……ですか?」

「ああ、この雰囲気。ジェネレーションギャップというか、アウエー感が半端ない……」

「アウエー感ですか? ……分かる気もします」

「うん、この交流会は身内の紹介で来た。けれど、周囲が君みたいな若者ばかりだろう? 50過ぎの、おじさんには……きついよ」

 確かに周囲は、一番上でも30代前半。
 「おじさんにはきつい」という、部長の気持ちはよ~く分かります。

 しかしというか……
 やっぱり性格、良いなぁ……この人。
 話がとてもしやすい。
 
 男女の相性だけじゃない。
 同性同士の相性もある。
 心からそう思う。
 
 ここで俺には、この世界の、騎士爵家次男クリスの記憶が甦る。

 俺の父親なんて、いまいちぴったり来ない。
 騎士として、くそが付く真面目な気性。
 躾や訓練には、めちゃ厳しかったから……
 
 もしもこんな優しい父親だったら……
 俺も騎士になれていたかもしれない。
 って、ふと思った。

 だけど……やっぱり無理か、馬にも碌に乗れない、このヘタレっぷりじゃあ。

 つらつら考える俺に、部長はまた苦笑い。

「少しは、気晴らしになるかと思ってやって来たが……結構、疲れるね」

 気晴らしって……
 こんなに真面目で温厚な部長でも、悩みがあるのかな?

 と、考えていたらいきなり聞かれた。

「クリス君は、ここへ、勉強の為に来たの?」

 勉強?
 ああ、異世界異業種交流会だものね。
 部長的には、自身の学習の場……でもあるのか……

 いやいやいや!
 な、わけないです。
 俺は、はっきり言って、ナンパです。

「いえ、違います……新たな良い出会いを求めて来ました」

「新たな良い出会い? ああ、恋人探しかい、分かるよ」

 一瞬きょとんとしたが、一転悪戯っぽく笑う部長。

 やっぱり!
 バジル部長は物分かりが良い、『兄貴タイプ』の父親だ。
 変な意味じゃなく、俺はこの部長が、ますます好きになった。
 
 「明日から、また仕事を頑張ろう!」という気になるもの。
 ここで、俺はさりげなく話題を変える。

「ここ、凄い会ですね。可愛い子いっぱい居ますから」

「出会いか……はぁぁ、君は若いからな……」

 バジル部長ったら、また深いため息をついちゃって。
 こうなると……
 俺の本能と言うか、つい相談に乗りたくなってしまう。
 
「あの……」

「ん?」

「差し出がましいようですが、部長は、何か悩みがおありですか?」

「おお! さすが魔法使いだね、君に隠し事は出来ないようだ」

 いやいや、誰にでも分かりますって!
 そんなに深い、ため息をついていたらね。

 でも、愚痴ぐらいは言って下さい。
 それで、少しは心が軽くなるのであれば。

「部長……宜しかったら……悩み、聞かせて貰えます? 俺へ話すだけでも楽になるかも、ですよ」

「うむ、君は口が堅そうだよね……」

 確かに「ぺらぺら」言いふらしません。
 バジル部長の秘密なら、特にですよ!

 さすがにこうは言えないが、俺は黙って、バジル部長を見つめていた。
 部長は、俺の真剣な顔を見て、話す気になったらしい。

「分かった。詳しい事は言えないが……君になら言おう」

「はい! お聞きします」

「うむ、私には……5年付き合っている女性が居るのだ」

「ええっ!?」

 はい~っ!?
 いきなりですが、しょ、衝撃発言来た~っ!

「そ、それって……ど、ど、どなたですか?」

「いや、さすがに言えない」

 そうだろうなぁ……
 でも、5年付き合うって、凄い。

「念の為、部長って……独身ですよね?」

「ああ、私は人生51年、ず~っと独身だ」

 実は、我がヴァレンタイン王国って……
 一夫多妻制を認めている、男にとって夢のような王国だ。
 
 しかし『嫁』をたくさん持つということは、経済力に直結する。
 だから貴族ならいざ知らず、庶民クラスなら、頑張る人でもせいぜい3人くらいなのである。

 反面、不倫はご法度。
 厳しい刑罰がある。
 
 俺は気になったので、一応聞く。

「で、相手はまさか! ど、どこかの奥様とかじゃあ? それで悩んでいらっしゃる……とか?」

「まさか! 相手も独身だよ! 私は不倫など大嫌いだし、汚らわしい!」

「ああ、良かった」

「当然だよ! ただなぁ……」

「ただ……何ですか? 部長」

「うん、私と相手とは、結構な年齢差があるのだよ……」

「結構な年齢差?」

「そう、私と彼女とは15歳ほども違う……それに……こんな冴えない私には、勿体ないくらい美人だ」

 15歳くらい違う?
 じゃあ35歳くらい?
 そして独身……美人って。
 
 何か……どこかで見たような、聞いたような覚えがあるような。
 
 そういえば……
 今日、帰る時に個人的な相談があるって、ドミニク課長は言っていたっけ……
 い、いや、馬鹿な!
 そんな事、ありえない!

 俺の頭の中には、「もやもや」した黒雲が、いっぱい湧き起こって来たのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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