第2話 「運命の出会い?」

文字数 3,075文字

 だが!
 『愛の伝道師』と呼ばれる俺も、いい加減に目が覚めた(自虐笑い)。

 いくら「人の世話が嫌いではない」といっても限度がある。
 
 ちゃんとした『彼女』は、高校2年の春振られて以来……
 もう8年以上居ないんだ。
 それも……
 たった3か月しか付き合わなかった、悲惨さなのである。
 
 気が付けば……
 『周囲から取り残された感』が半端ない。

 そう!
 俺は彼女が欲しい! 絶対に欲しい! と思っている。
 恋愛が、メンドイなんて考えてない。

 だから、毎晩、神様にお願いする。
 
 願いを叶えてくれるなら、どんな神様でも良い!
 そろそろ、愛する彼女が欲しい。
 真剣に、結婚を前提にした、お付き合いが出来る彼女が欲しいと。
 
 だが、人間は、現状のまま流されやすい。
 
 俺だって、そう。
 加えて、自己啓発本に書いてあるみたいに、いきなりは変わったりも出来ないし。

 相変わらず……
 合コンでは、人のお世話ばかりなのである。
 
 周りの奴等も、俺の利用価値を良く知っている。
 
 俺を参加させれば、座持ちが良くて盛り上がるし、結果的に縁起も良い。
 だから、「ここぞ!」とばかりに頼んで来る。
 その上、しっかり……割り勘だ。

 ああ、やめてくれ!
 もう、他人の世話はNGと言いたい。
 俺だって、そろそろ幸せになりたい。
 
 一見、にこやかな俺だが、陰では……
 大いに悩む日々が続いていたのである。

 そんな、ある日の事……
 学生時代から始まった、それは節目といえる、俺の人生100回目の合コン。
 
 いつものように人の世話ばっかり焼いている、そんな俺を見かねたのか……
 ひとりの女の子が声を掛けてくれた。
 優しく、声を掛けてくれたのだ。
 彼女の、鈴を転がすような美声にハッとした。

 声に釣られてつい彼女を見れば、素敵な笑顔に引き込まれてしまった。
 可愛い!
 
 笑うと目が細くなり、垂れ目になる。
 心がじんわりする、いわゆる癒し系女子だ。
  
 肩まで伸ばした、綺麗なサラサラ黒髪が目立つ。
 そして……
 俺は極度のおっぱい星人なので、「ふわん」と大きい胸にもつい目が行ってしまった。
 そう、名前は敢えて言わないが、某人気アイドルにそっくり。

 合コンの際って、最初に名前だけは告げるが、俺達は改めて、自己紹介をした。
 彼女の名は……相坂リン。
 
 更に詳しいプロフを彼女は教えてくれた。
 3つ先の駅前にある大きな病院で、看護師をしているそうだ。
 勤務が普段、不規則なので、滅多に合コンには参加しない。
 だが、今日は珍しくスケジュール調整が出来たんだって。

 リンちゃんは、以前から俺の事を、友達の噂で聞いていたという。
 他人の縁結びばかりしている、超が付く『お人よし』が居ると。
 
 そんな理由を聞けば、話しかけてくれたのは、興味本位なのに間違いはないだろう。
 だが、リンちゃんは俺の話をいろいろ聞いてくれた。
 
 病人をケアする、看護師という職業柄かもしれない。
 でも、聞き上手と言うか、いつも聞き役が多い俺には新鮮だった。
 話す言葉の端々に気配りは勿論、優しさと落ち着きが感じられる。

 自然と、話が弾んだ。
 話が途切れても、見つめ合うだけで、お互い、つい微笑んでしまう。
 
 もう駄目だ。 
 俺は、すっかりリンちゃんが気に入った。
 いつもより、断然気合を入れた。
 このチャンスを逃してなるものかと
 
 だから、頑張った。
 自分で言うのも何だが、頑張った。
 
 そして、一生懸命口説いた結果が出た!
 幸運にも、合コンの翌日に会う約束を、取り付ける事が出来たのだ。
 
 俺は、ついていた。
 普段は、超が付く忙しいリンちゃんなのに、たまたま代休を取っていたという。
 いわゆる即デートである。
 
 本当は、激務に疲れた身体をゆっくり休めたいだろうに……
 俺の為に、わざわざ時間を割いてくれるなんて、大感謝だ。
 
 この子は違う!
 いつもとは違う!
 確かな手ごたえがある!

 これは運命の出会い、そんな予感がする。

 俺の世界が、一気に薔薇色に染まった。
 はやる気持ちを抑え、神様へ、
 「素敵な出会いをありがとう」と言って、その日は素直に寝たのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 
 翌日……

 俺は、都心にある素敵なカフェで、リンちゃんと待ち合わせをした。
 
 選んだ服は、上がギンガムチェックシャツ、下が渋いグレーのパンツ。
 それにリネン製のネイビージャケット。
 無難な、身だしなみだ。
 基本はこざっぱりした、清潔感を重視。

 リンちゃんが着て来たのは、可愛いチェックのロングワンピース。
 洒落た帽子も被っている。
 
 ああ、素敵だ。
 「この子が、俺の彼女です」なんて言えたら、どんなに幸せだろうか。

 そして、店に入ってみて、驚いた。
 このカフェは、全く初めてなんだけど……ああ、凄い。

 客は、80%がカップルだった。
 後の20%は、女子のふたり組。
 男ひとりなんか、皆無だ。

 こういうカフェは、お洒落なテーブルと椅子はお約束。
 場所も一等地だから、維持費って凄いだろう。
 
 おお、メニューを見れば……
 案の定、値段も比例して高い。
 俺が普段、良く行く店の、約3倍だよ。
 でも、金を惜しんでなんか、いられない。

 今日は……
 一生に一度のチャンスかもしれないのだから。

 暫し経って、出て来た、コーヒーはとても美味い。
 片や、リンちゃんは、紅茶を頼んだ。
 ダージリンが大好きみたいだ。

 聞けば、カフェでは、いつも頼むんだって。
 茶葉の香りを楽しんでいる。
 俺も今度、紅茶にしてみようかな。

 そんなこんなで、ふたりはまた話し込む。
 
 昨夜は、プロフを伝え合う初期レベルだったが……
 今日はもう少し、突っ込んだ話。
 
 とはいえ、ここで俺が喋り過ぎるのは、御法度。
 デート相手の女子の様子を見て、話したがっていたら、聞き役に徹するのが吉。
 今日はリンちゃん、自分の事をいろいろ話したいみたい。
 
 リンちゃんは看護師だもの。
 仕事は大変だろう。
 ストレスが、相当たまると思う。

 何故、分かるのか?
 俺は以前、入院した事があり、看護師さんにはとてもお世話になったから。
 何から何まで……

 その時、凄く思った。
 あくまで私見だけど、看護師さんって、単に働いてお金を貰うって気持ちだけでは務まらない。
 誰にでも尽くす、大きな慈愛の心がないと、絶対に無理だと思う。

 さあて……
 話は尽きないけど、そろそろ時間。
 次の場所へ移動だ。
  
 俺とリンちゃんはカフェを出た。
 
 初めてのデートの際って、過剰なスキンシップはNG。
 これも基本。
 
 だが……
 あくまでも相手を良く見て、
 それまでの状況、及び反応次第だけど……
 さりげなく手をつなぐのはギリギリ、セーフって、経験上分かる。
 
 昨夜から意気投合したし……許してくれるかな?
 
 凄い勇気を奮って、俺が手を差し出したら……
 リンちゃんは、にっこり笑った。
 
 「手をつなぐのなんて、遠慮します」って、お断りの『作り笑い』ではない。
 「喜んで!」って、感じで、俺の手を「きゅっ」と握ってくれたのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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