第6話 「今夜はスペッシャルイベント!①」

文字数 2,993文字

 魔法鑑定士の仕事は、とても楽しい。
 食う為、生きる為の糧を得る仕事で……
 今迄想像の産物だった、ファンタジー映画やラノベに出てくるようなレアなお宝を、思う存分見て、触れるなんて……
 中二病の俺には、願ったり叶ったりだ。

 さてさて、仕事が終われば、今夜……
 後輩のリュカが言っていた通り、待ちに待ったスペッシャルなイベントがある。
 前世でも、この異世界でも、トオルでも、クリストフでも、スペッシャルなイベントとは合コン……
 これって、何の因果の転生だろうか?
 とほほと言うか、素晴らしい人生と言うか、全く分からない。
 
 まあ、良い。
 話を戻すと、俺が憑依した? 魔法使いのクリスは、この世界で、何度も合コンを行っているらしい。 
 だが、この世界のビギナー、大道寺トオルとしては初体験のイベントだ。
 
 今の俺は何故か、クリスより、トオルの記憶が前面に出ている。
 なので、仕切り直しという事で体験すれば……
 全く違う、新鮮さが味わえそうな気がする。
 当たり前だが、この世界の合コンは、前世のそれとは、メンツも雰囲気も違うだろうし。
 
 ……その上、今夜はもっと『凄い冠』が付いている。
 まさに、スペッシャルなイベントと呼ぶに相応しい。

 先にも、言ったが……
 国王の弟フィリップ殿下のお陰で、この世界の、身分の壁が取り払われた。
 今夜、行われるのは、その名も『ヴァレンタイン王国異業種交流会』である。
 ねぇ、凄いでしょ?
 
 趣旨としては……
 身分を超えた情報交換をして、王国の発展に寄与する会。
 ……なのだが、実態は王国公認の合コンだ。
 すなわち、自由お見合いの会と化している。

 この異業種交流会は、半年に1回のペースで開かれているらしい。
 とても人気があるのは勿論、加えて参加経験者からの紹介制度がある為、一見さんの参加は極めて困難といえる。
 
 それを俺が……というか、クリスが……
 持てる人脈をフルに使い、手間と時間をかけ、苦労して……
 やっと記名入りの、チケットを手に入れたのである。
 
 楽しみだ!
 ワクワクする!
 
 今夜の俺は、使命感に萌えて!
 いや!
 燃えている。

 昼間、仕事をしながら散々悩んだ。
 当然、リンちゃんの事、つまり未練だ。

 だけど、元の世界に戻れる保障も何もない。
 なので、「開き直るしかない!」と思えて来たのだ。
 
 魔法使いクリスとして、この異世界を楽しむ。
 過去の黒歴史の仇を、改めてこの異世界で取る。
 あの運命の子リンちゃんと、結ばれなかったのは誠に残念だ。
 だけど、いつまでもぐだぐだ言っても仕方がない。
 彼女を上回る、『超可愛い完璧彼女』をこの異世界で作るしかない。
 
 だってさ……
 月に数回は徹夜をした、前世のブラック企業に比べれば、こちらの仕事は全然楽。
 加えて、魔法鑑定士は、引く手あまたの人気職業なんだもの。
 
 給料だって、なかなか良い。
 前世とは物価が違うし、貨幣価値も違うが……
 多分、月収40万円くらいってところ。
 
 おいおい、クリスはまだ25歳だろう?
 これって、自分で言うのは何だけど、素晴らしいのひと言だよね。
 
 ちなみに、王都で家族4人を養うのに、月額20万円ちょいあれば、楽勝という世界。
 何か、前世勤めていたブラック企業で……
 無理しながら、地道に頑張って来たご利益があった、この異世界で報われたぞという感じ。
 あとは……最高の『彼女』、つまり結婚相手を見つけるだけなのである。
 
 もう、割り切る。
 どんな理由で、前世から飛ばされたかは不明だが……
 この異世界で、俺は幸せになる!
 それしかない!

 転生した日に、こんな超特大イベントがあるのも、何かの縁だろう。
 
 前世でも、そうだったが……
 浮き浮き気分で行う仕事は、あっと言う間に終わるもの。
 午前9時から昼休みを挟んで、午後4時までが冒険者ギルド鑑定室で俺の働く時間。
 頑張って鑑定をこなしていたら、すぐ午後4時となり、鑑定室での仕事は終わった。
 
 俺はお疲れ様の挨拶をして鑑定室を出ると、冒険者ギルドの総務部へ戻る。
 バジル部長に、業務終了報告をし、
 更に商業ギルドへ帰り、ドミニク課長へ再度、終了報告をしたら……
 午後4時30分には、1日の勤務が終了となる。
 
 本当、すっごく楽ですよ~、この仕事は。
 
「ありがとう! またね、クリス」

 俺が勤務終了して、部長に報告。
 冒険者ギルドを出る前、礼を言われた。
 礼を言って来たのは、冒険者ギルド所属の魔法鑑定士、ルネ・ボワデフルちゃんだ。
 
 ほらほら、今朝、頼まれたじゃない。
 一緒にお昼ごはんを食べながら、彼氏の愚痴を聞いてあげたんだ。
 
 実は、「またね」ってのが今回、相談に乗ってあげた『特典』である。
 ルネちゃんも、俺が合コンを良くやっている事を知っている。
「今度、友達を誘うから……楽しい合コンやろうね!」という、お誘いの意味。

 えっ?
 彼氏が居るのに、ルネちゃんは、合コンに出るの? 
 って……もし彼氏の立場なら、当然、そう思うよね?
 
 でも、ルネちゃんは全然気にしないみたい。
 それだけ、今の彼氏に対し、微妙な気持ちなのだろう。
  
 ルネちゃんが、もし俺の彼女だったら問題だが、今のところ他人同士。
 余計な事は言わないのが、金。
 まあ、俺には関係無い事だから。

 そんなこんなで……
 俺はダッシュで冒険者ギルドを出て、商業ギルドへ向かい、魔法鑑定課に顔を出す。
 
 いつも業務終了時には、ドミニク課長に報告して、帰る事となっている。
 課長は、ラッキーな事に、在席していた。
 
 ちらっと、顔を見れば……
 相変わらず、すご~く欲求不満な表情だ。
 人生なんか楽しくない! 
 負の魔力波(オーラ)がバリバリ出ている。
 さあ、巻き込まれないうちに、報告して、退散だ。

「課長、業務終了しましたぁ」

「あっ、そ」

 あっ、そって……
 今朝、人の遅刻を散々怒った癖に!
 貴女は、やる気が全くない方ですね~。

 まあ、良いや。
 とっとと帰ろう。

「じゃあ、課長、失礼しまっす」

「クリス! ちょっと待って、込み入った相談があるのよ、個人的な」

 あれ?
 課長が呼んでいる。
 込み入った、個人的な相談だって?
 恋の相談?
 いやいや、まさか!

 どうする?

 でも、嫌だ、やっぱり待たない!
 と~っても悪い予感がするから。

 こんな時、俺の勘は良く当たる。
 絶対に、ろくな用事じゃない。
 それに、今夜は課長の個人的な話なんか、聞いている暇はない。

「すんませ~ん、急ぎの予定がありますから、また~」

 俺はそう言い、ダッシュで逃げた。

 でも、こんな事は続く!
 とは、良く言ったものだ。
 
 魔法鑑定課を出た所で、アールヴのケリーに捕まりかける。
 
 まだ頬を膨らませているから、朝の事を蒸し返すつもりだろう。
 そんなの……真っ平御免だぜ。

「悪い! 急ぐから、まったね~」

 俺は、ケリーも振り切って、一目散に外へ出たのである。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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