第25話「俺は異世界で、宿命の恋に巡り会う①」

文字数 2,028文字

「クリス課長、じゃあ早速、冒険者ギルドへ行ってきま~す」

 今朝も……
 リュカが元気良く、魔法鑑定課から出掛けて行く。
 奴は、出向先である、冒険者ギルド総務部へ向かうのだ。

「おう! ご苦労様。頑張れよ、バジル部長に宜しくな」

「はいっ! 課長、了解でっす」

 気合が入りまくりのリュカは、最近仕事ぶりも真面目で前向きだ。
 原因は、はっきりしている。

 最近……
 奴には、可愛い彼女が出来たのである。

 え?
 可愛い彼女って、リュカがひとめぼれした、創世神様の巫女ステファニーちゃんかって?
 いや、違う子なんです。

 じゃあ、順を追って,最初から話そうか。
 リュカとの会話で、気が付いたと思うけど、クリスこと俺は課長になったのだ。

 実は……
 俺が、ジャンさんに殴られた合コンから、もう半年が経っている。

 この合コンの夜から、俺はフルールさんことリンちゃんと恋人同士になり、交際を始めた。
 そして、俺達が付き合い始めた直後くらいに……
 冒険者ギルドのバジル部長が長年の交際の末、ウチのドミニク課長にプロポーズしたのだ。

 あの夜、俺がプロポーズするように勧め、バジル部長は即座に行動へ移したのである。

 本人に聞いたところ、部長は、男らしい粋な言葉でプロポーズをしたらしい。
 ドミニク課長は当然というか、とても喜んでプロポーズを受けたそうである。
 
 バジル部長から話を聞き、「ああ、良かった!」と、俺は心底喜んだ。
 部長は、リンちゃんを引き合わせてくれた、超が付く大恩人だから。
 絶対に幸せになって欲しいもの。
 
 これで、俺がフルールさんことリンちゃんと結婚すれば……
 フルールさんの伯父であるバジル部長は勿論、『伯母』となったドミニク課長とも、一生付き合う身内となる。
 
 ああ!
 何という、皮肉な運命。(笑い)
 
 しかし、ここから意外な展開となった。
 
 今迄は、仕事一筋。
 ひたすら邁進して来た、キャリアウーマンのドミニク課長。
 だから、結婚してもそのまま、バリバリ仕事を続けるかと思いきや、
 何と! 寿退社してしまったのである。

 更に、驚くべきことが起こった。
 ドミニク課長は、自分の後釜に、この俺クリスを指名してくれたのである。
 
 多分……
 バジル部長から、プロポーズへ至るまでの経緯を聞いたのだろう。
 そして、感謝してくれたに違いない。
 
 やはり……情けは人の為ならずだ。

 そしてバジル部長も、俺をぜひ後任にと、内々で推薦してくれた。
 直属の上司と取引先の責任者のプッシュがあったお陰で、俺は課長に昇進したのである。

 結婚が確定し、満面の笑みを浮かべたドミニク課長から、お礼を散々言われ……
 彼女から、業務の引き継ぎを受け、正式に課長に就任すると……
 俺は早速、課内の担当者変更を行った。
 
 考えた上、俺が派遣されていた、冒険者ギルドの総務部の仕事は、後輩のリュカへ引き継いだのである。

 当然というか、あれからリュカは、巫女のステファニーちゃんに振られた。
 それも、相当悲惨な振られっぷりだったらしく、リュカは暫く、この世の終わりのような顔をしていた。
 俺との『約束』を守らず、合コンではスタンドプレーに走るしょうもない奴だが、見捨てるにはしのびない。

 俺は課長として、越権行為にならないレベルで、傷心のリュカのやる気を出させる為、仕事を変えてやったのである。
 
 俺自身が仕事をして、分かっていたが、バジル部長を始めとして、冒険者ギルド総務部や鑑定室の人達は皆、良い人達だ。
 人間関係で、変なストレスを溜める事もない。

 但し、仕事を真面目にやって貰わないと、信頼関係を失ってしまう。
 なので、俺はリュカへ厳しく言った。

 「一旦約束したら、しっかり守れ」と。

 失恋が原因で、精神的に落ち込んでいるから、少し可哀そうな気もしたが……
 因果応報ともいえる結果といえなくもない。
 リュカは、俺との約束をあっさり反故にし、巫女さんとの合コンの際も、スタンドプレーに走ったのだから。
 
 ここは上司として、または先輩として、しっかり言わないと、奴の為にならないもの。

 「フォローもするから、新たな仕事を頑張れ」と、優しく励ました上で、
 「不真面目なら、即、異動もある」と脅したのが効いた。
 心を入れ替えたリュカは、日々頑張って、真面目に仕事をしていたらしい。

 実は俺、自分に置き換えて、リュカの事を考えたのだ。

 リュカが、ひたむきに仕事に打ち込めば、きっと見てくれる人は居ると。
 そう……信じたのだ。
 この俺が、バジル部長に見込んで貰ったように。
 そして幸せになったように……

 すると、「捨てる神あれば拾う神あり」という諺通り……
 リュカにも、素晴らしい奇跡が起こったのである。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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