第3話 「幸せから……目が覚めたら異世界転生?」

文字数 3,002文字

 俺が本日、2番目のデートスポットに選んだのが、水族館。
 
 水族館は、凄く良いよ。
 まあ魚嫌いな人はすぐ圏外、考えるのも無理だけどね。
 でも基本的には、デートに最適。
 
 何故なら!
 館内に子供は居るけど、ある程度年齢のいった大人がふたりで来ても、違和感がない。
 天候に、左右されないのも素敵だ。
 
 巨大な水槽内を悠々と泳ぐ大型魚。
 俺とリンちゃんのふたりで寄り添い、無言でじっと見ていると……
 照明の程よい薄暗さもあって、ロマンチック且つ幻想的な気分になる。
 当然、手は繋ぎっぱなし。

 その後、いろいろな水槽を見たけれど……
 女子受けする、可愛らしい小魚も、リンちゃんは好きみたい。
 『はりせんぼん』なんか、風貌と泳ぐ仕草が最高だって。

 周囲に迷惑にならないよう、気遣う小さな歓声と、優しい笑顔が絶えない。
 そんなリンちゃんの様子を見て、俺は益々、彼女が好きになった。

 でも、女子って不思議だ。
 
 真ん丸で、ユーモラスに泳ぐ、はりせんぼんは分かる。
 だけど、うねうねと長い、蛇みたいな模様のウツボも可愛いって。
 う~ん……まあ、良いか。
 細かい事は……

 ちなみに今日のデート代は、お茶と水族館の入館費は俺持ち。
 食事代は一応、割り勘にした。

 カフェは挨拶代わり、水族館の企画は俺が立てた。
 だから、このふたつは俺が払う。
 でも最近は、奢られるのが嫌いな女子も居るから、注意した方が良い。
 さりげなく事前にリサーチしておくのが無難だ。
 
 最後は……
 ちょっとだけ遅めの昼食。
 
 俺が選んだのは、結構辛いけど、女子が大好きなエスニック料理。
 午前に行ったカフェとは違い、フレンドリーな感じの店。
 肩ひじ張らず、気楽に食事が楽しめる。

 昨夜、しっかり調べておいた。
 この店みたいに、長めのランチタイムを設定している店が、デートにはベストなんだ。
 
 ランチを少し遅めにした理由は、簡単。
 何故ならば、ジャストタイムが終わって、店内が比較的空いているから。
 待ちの人も居らず、プレッシャーもなく、急かされずに、ゆったりと食事が出来る。
 
 お昼って、予約不可の店が多いから、これは結構裏技。
 
 でも、相手の女子には、遅めのお昼だと、前もって伝えておいた方が良い。
 理由は、デートの最中にお腹が空いてしまうと、辛いから。
 当然、リンちゃんにも、事前に伝えて了解は取ってある。

 ランチは当然、お茶とデザート付き。
 女子限定サービスをしていれば、尚更良い。
 スペシャル感が出るからね。

 それと、これは基本中の基本。
 
 ズバリ、相手の好きな料理をリサーチしておいた方が良い。
 それで、自分も好物ならば、バッチリ。
 相手の女子が、苦手の料理店へ行くなんて、もってのほか。
 こらこら、好き嫌いはいけないなんて、野暮な事を言っては駄目だぞ。
 最初のお茶もそうだったけど、食事って重要なんだ。

 食べる事を共有するって、一気に距離が縮まる。
 そうそう、食べ方も、凄く気を付けた方が良いよ。
 開いた口の中に、食べ物を入れながら喋ったり、音を立てて食べるのは一発で嫌われるから。

 さてさて、俺とリンちゃんは、お互い好きな料理の事でいろいろ盛り上がる。
 その流れで、食後の、お茶も楽しい。
 距離がぐっと近くなったせいか、ふたりの会話はまた弾む。

 ここで重要なのは、次回会う約束を取り付ける事。
 絶対に、忘れちゃ駄目だ。
 そして、お礼を言うのも必須。
 本当に楽しく過ごせる事が出来たんだもの。
 「ありがとう」っていう感謝の気持ちは大事だし、口に出して言う事が重要なんだ。

 リンちゃんは、病院が寮として借り上げたマンションに、ひとりで暮らしているそうだが……
 さすがに、いきなり自宅まで送るのは遠慮した。
 
 まあ、焦る事はない。
 次に会う、日時も場所も決まってる。
 それは、またのお楽しみって事で。

 3つ手前の駅で、名残惜しそうに降り、俺へ手を振るリンちゃん。
 対して、俺も笑顔で、電車内から、手を大きく振ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 こうして……
 帰宅した俺は、勝利の凱歌をあげていた。
 だって!
 25年の人生で、一番楽しかったデートだもの。

 再び、「ありがとう」のメールをリンちゃんに送って、今日は早く寝る事にしよう。
 メールはすぐ返信があった。
 「こちらこそ、ありがとう! 次回会うのが楽しみ」だってさ。
 うお!
 嬉しい!

 さあ、寝よう。
 明日は、仕事できついけど……
 張り合いが出て、頑張れそうだ。
 
 目覚めたら……俺には新たな、幸せの日々が待っているんだ。
 きっと、必ず!

 浮き浮き気分の俺は……すぐ眠りに落ちたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 だが、浮かれ過ぎると碌な事はない。
 運命は無常であった。
 とんでもない……異変が起こったのだ。

 俺の願いを聞き届けた神様が、きっと酷い悪戯をしたのである。
 そうとしか、考えられない。

 朝、起きたら……
 何と!
 自分の部屋ではなかった。
 何やら、古めかしい西洋風の部屋で、見覚えのある調度品が一切無かった。

 思わず声が出た。
 「嘘だろ!」って。
 
 やっすいワンルームに住んではいるが、一応テレビもノートブックPCもある。
 それくらいの生活はしていた。

 しかし!
 この部屋は変だ。

 まず、明かりが、電気を使ったLED照明じゃない。
 何か……
 変な形をした、古めかしいランプだ。

 でも分かる。
 これは……魔法の力で点灯する魔導ランプだ。

 ふわっとした、変な服が壁に掛かって居る。
 仮装行列の洋服みたいだった。
 ほら!
 ハロウィーンとかに、みんなが着そうな奴だ。

 でも分かる。
 これは……俺が普段着る仕事用の法衣(ローブ)だ。 

 本棚には、普段愛読するラノベや漫画の代わりに……
 見た事も無い文字で書かれた、重厚な造りの本がぎっしりと並んでいた。
 
 手にとって開いてみると魔法の発動方法が書いてある本、そして剣や杖、鎧や盾の図鑑であった。
 または、宝石のカタログみたいな本もある。
 書いてある文字も、今迄に見た事がない。

 でも、分かる。
 ばっちり読めるし、理解出来る。
 これは……俺が仕事用で使う本だ。 

 枕元に置いてある時計も奇妙だった。
 何か見慣れない数字が記されている。

 だが、分かる。
 何故か、この数字もしっかり、読めるのだ。

 ちなみに……
 今の時間は、いつも起きる朝と同じらしい。

「ちが~う!」

 大きな声で叫び、俺は首を振った。
 
 何故、こんな世界に居る?
 まさか!
 散々読みふけった、ラノベの異世界転生か!?
 
 俺は昨日、幸せだった。
 人生で一番、幸せだった。

 確かに、『幸せ絶好調』だった筈なのに……
 リンちゃんとは、どうなってしまうんだ?
 ああ、リンちゃんに会いたい!

 と、その時。

 どんどんどん!

 俺の居る不思議な部屋の扉が、大きな音をたて、ノックされたのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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