第9話 「教育的指導」

文字数 2,913文字

 俺は、ジャンさんに指示を受けた後……
 順番待ちをしながら、リュカと話していたが……
 いよいよ順番が来た。
 さあ、入店だ。
 
 店の外見は、少し豪華だが、ごくごく普通の建物。
 しかし、中に入ると……
 迷宮の入り口を補修した、大仰な石の扉が目に飛び込んできた。
 
 そう、この店は迷宮の上に家屋を建てた形となる。
 客は入店して、屋内から迷宮へと潜るのだ。
 
 ふと見れば、レンタル衣裳完備とある。
 何と!
 希望者には冒険者の職業別衣装も揃えているのだ。
 「気分は、迷宮探索をする冒険者!」
 というのが、店側のキャッチフレーズであるらしい。

 ジャンさんが、先に入って手招きしている。

「クリス君、交流会の会場は地下9階のレストランだ。魔導昇降機で降りるよ」

「了解です、リュカ、行くぞ」

「ま、待って下さいっ」

 リュカの奴、周囲に綺麗な女子がたくさん居るものだから、さっきからず~っと「きょろきょろ」していた。
 興奮しているのか、完全に目が泳いでいた。
 
 牝馬に興奮した牡の競走馬じゃないけど、これでは入れ込み過ぎだ。
 今日は王国の完全貸し切りだから、彼女達も全員参加者だろう。
 運が良ければ話せるし、更に幸運なら……知り合いになれるかもしれない。

 しかし今日は、リュカへ告げておく事がある。
 
 こいつは、最近スタンドプレーが目に余る。
 ここ何回か、合コンに出席した先輩や友人から、奴が名指しで言われた事もあった。 
 スタンドプレー……
 すなわち合コンにおいて自分の幸福だけ追い求め、
『チームプレーに非協力な事』である。
 
 合コンとは、時にチームプレーが必要だ。
 チームプレーとは、助け合いの精神って事。
 好みの子がバッティングした場合も、よほどの事情がなければ、譲り合いの精神だって持たなきゃならない。

 周囲を見回していたリュカが、ようやくこっちを向いたのを頃合いと見て、俺は言う。

「リュカ、今のうちに言っておく」

「え? 何すか」

「最近、お前はマイペース過ぎる。今回俺達は、ジェロームさんのフォローもするんだ。自分の事ばかり考えるなよ」

「ええっ!? 僕、そんなにマイペースっすか?」

 リュカ……お前、何だそれ?
 その言い方だと、やっぱり自覚していない。
 
 だから、俺は念を押す。

「もろそうだ。少し態度と行動を改めろ……俺の下へ、結構苦情が来ている」

「…………」

 俺の言葉に不満なのだろう。
 認めたくないのだろう。
 リュカの奴は、顔をしかめて黙り込んだ。

 一応、俺は聞いてみる。

「何だ? 不満か?」

「ええ、先輩の言う意味が、全く分からないっす」

 首を横に振るリュカ。
 仕方がない、分からないようなら……
 容赦なく、引導を渡そう。

「じゃあ、ここでもう帰れ。今後は、お前の世話などもうしない」

「へ?」

「へ? じゃない。今回のイベントだって俺が全部ジャンさんへ頼んで、彼が尽力してくれたお陰だ。お前が自分の事しか考えない『クレクレ君』なら、これからは、単なる職場の先輩後輩のみの付き合いだよ」

「えええっ!」

 予想もしなかった俺のきっつい物言いに、リュカは驚いたようだ。
 口を「ぽかん」と開けてしまう。
 
 やっぱりそうだよ。
 こいつは俺が優しいと思って、存分に甘えていたのだ。

 でもここで、俺が甘い顔を見せたら、こいつの為にならない。

「さあ、すぐ帰れ。俺からジャンさんへ伝えておく」

「ご、御免なさい! あ、改めますから! 先輩に見捨てられたら、僕は一生結婚出来ないっす!」

 うん、さすがに、こいつは馬鹿じゃない。
 俺が、本気で怒っているのを感じ取ったらしい。
 でも、まだまだ手綱を緩めてはいけない。

「本当に反省したか?」

「しましたっ」

「だったら今日、行動で見せろ。俺は、しっかり見ているからな」 

「うう、了解っす」

「お~い、どうしたぁ?」

 ジャンさん達から離れて話していたから……
 今の会話は、聞かれてはいない。

 俺は片手を挙げて応えると、ダッシュして、ジャンさん達へ追い付いた。
 
 全員で、魔力により動くエレベーター、魔導昇降機に乗り込む。
 暫し経ち、俺達と他の客を乗せ、魔導昇降機は発進。
 あっという間に、地下9階へ到着。
 そして、扉がすうっと開けば……
 目の前はすぐ、レストラン『探索』の入り口なのである。

 レストラン入り口扉は、大きく開け放たれていた。
 既に、たくさんの人々が参集しており、様々な衣装が目につく。
 皆、ここぞとばかり、気合を入れており、女性は派手にお洒落をしている。

 ジャンさんが、壁に掛かっていた魔導時計を見た。
 そして、全員へ言う。

「よっし、じゃあ、ここで一旦解散だ。……午後7時少し前、店内にある宝剣の間で、待ち合わせとしよう」

 宝剣の間……それが店内にある、貸し切り個室の名前なのだろう。
 そこで、ジャンさん主催の、2次会的な飲み会をやるのだ。

 ジャンさんからの、待ち合わせ指定時間は……
 午後7時少し前……よっし、覚えたぞ。

「宜しくお願いします」

 俺は頭を下げた。
 えっと、リュカにも頭を下げさせ……
 って、何だ、こいつ!
 また、女子達に見とれていやがる。
 ホント、懲りない奴だ。

 仕方なく、俺は拳骨を喰らわせてやった。

 ごっつん!

「あだっ!」

 頭を押さえて、痛がるリュカへ、俺は冷たい声で言う。

「……お前、さっきの約束を、もう忘れたのか? ここから……帰るか?」 

「あううう……す、すみません」

「可愛い子が多いから、気持ちは分かるがな」

「で、ですねっ」

 怒った俺が一転、笑顔を見せたので、リュカはホッとしたようだ。
 これくらい薬を効かせておけば、こいつも少しは反省するだろう。

 俺とリュカの『じゃれ合い』を見て、ジャンさんがニコッと笑う。

「うん! 会の冒頭に行われる、閣下の挨拶だけは、きっちり聞いておいてくれ。じゃあ、さっきの約束……頼むぞ」

 ああ、ジェロームさんのフォローの件の念押しですね?
 当然ながら、俺は、元気良く返事をする。

「了解しました」

「ははは、じゃあ後で」

「では、一旦失礼する」

 赤い流星こと、ジャンさんは店内へ去って行った。
 そして、御曹司のジェロームさんも一緒に。

 仕草や今の挨拶を聞く限り、ジェロームさんはガチガチの軍人、騎士だ。
 俺のフォローが、上手く行くかどうか、少し不安はあるが……
 ここまで来たら、やるしかない。
 それに、この国の重鎮の子息であるジェロームさんとも仲良くなれば、今後損はない……と思う。

「さあ、リュカ……俺達も行くぞ」

「は、はいっ」

 俺の機嫌が、完全に直ったと感じたのだろう。
 リュカも、嬉しそうに笑っている。

 大きく頷いた俺は、混雑する店内へ入るべく、リュカを促したのであった。
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登場人物紹介

☆大門寺トオル(俺)※転生前

本作の主人公。ブラック企業勤務のリーマン。25歳。独身。彼女いない歴8年。

あだ名は『愛の伝道師』

飲み会に参加するとカップル成立率が抜群に上がるのと、恋愛世話好きな為、周囲から重宝がられる。

しかし、遂に自分の幸せを追い求めようと決意。

人生通算100回目の合コンで、運命の女性? 相坂リンと出会い、デートをするが……



☆クリストフ・レーヌ(俺)※転生後の大門寺トオル

愛称はクリス。ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

25歳。彼女なし。

元は、完全な別人格だが、大門寺トオルの人格が憑依。

恋愛世話好きなキャラは全く同じ。


☆相坂リン

某大病院勤務の看護師。24歳。独身。

優しい性格で、癒し笑顔が特徴の美人。トオルの事を友人から聞き、合コンで意気投合した。


☆リュカ・アルノー

ヴァレンタイン王国商業ギルド魔法鑑定課所属の魔法鑑定士。

クリスの後輩で23歳、独身。

面倒見の良いクリスにくっつき、可愛い彼女を作ろうと画策中。

☆ドミニク・イベール

ヴァレンタイン王国商業ギルド所属の魔法鑑定士。

クリスとリュカの上司で魔法鑑定課課長。35歳。独身。

結構なストレスを抱えているらしく、いつもクリスとリュカを怒鳴り散らしている。

☆バジル・ケーリオ

ヴァレンタイン王国冒険者ギルド総務部部長。51歳。独身。

クリスの出向先である冒険者ギルドでの上司。温厚で真面目な性格。

☆フルール・ボードレール

バジル部長の姪。創世神教会勤務の巫女で治癒士。24歳。独身。

目鼻立ちの、はっきりした端麗な美人。

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