#1 星空の夜から、こんにちは
文字数 3,230文字
遠くの星を眺めていると、時々、その前を惑星が通り過ぎることがある。それで、「ああ、この星にも惑星があるんだな」って分かるんだ。——えっ? 肉眼で見てるのかって? 馬鹿を
そんじょそこらじゃ滅多に見られない代物で、こう〜見ているとだな、——いや、それも違う、結果が出るまでジッと待つわけだ。それも息を潜めてだな〜は冗談だが、そうすると数時間から数日、果ては数年かけてやっと、「ああ、この星にも惑星があったんだな」って分かるんだよ。
で、俺が見つけた方法ってのがトランジット法と言ってだな、簡単に説明すると、恒星の前を惑星が横切ると、恒星の光が僅かに暗くなるんだ。それで、「ほい来たー」となるわけだが、たったこれだけのことで惑星の有無どころか、大きさまで分かるって
その惑星は、スラッスラッと計算すると——うむ、恒星が地球から1400光年先にあるんだから、多分その手前にあるのだろう、というのが分かった。この1400光年先を、俺は「すごく近いじゃないか」と感じるのだが、もしかしたら途方もなく遠いと感じる
だが、一応補足しておこう。デカイと言っても、何も主星を覆い隠すくらい大きい、という意味ではない。それはだな、そうだな、そうだな、——そうそう、アレ、土星の輪を思い描くと丁度いいだろう。自転軸から見た『輪』は土星よりも大きい、と言えるだろう? そんなものである。
話が逸れてしまったので本筋に戻ろう。——だが、驚くのは早い。せっかく見つけた惑星に胸をドッキンコさせていた俺は、それが収まると、何かが違う! という『異変』を感じてしまったのだ。その異変は「かくかくしかじか」と言葉で表せるものではなく、言ってみれば俺の直感のようもので、——しかし俺には確信があったのだ。「俺を信じろ、俺は正しい」、そう聞こえてくる確かな幻聴が俺を奮い立たせた、のだ。
気の短い俺は、早速、ありったけのツテを総動員、俺のために生まれて来た電波望遠鏡をフル稼働させた。そうして、そうして、そうして、俺の心が折れる——いや、粉々に粉砕された後、人生の全てを失った代わりに借金を得た俺の元に朗報が滑り込んで来たんだ。
「人生、捨てたもんじゃないな」
その時、俺が呟いた一言である。
◇
さて、驚くのはこれからだ。なんと、そう、ここまで来れば想像できるだろう、アレである。全世界、いや、全人類が待ち望んていたであろう地球外からのメッセージ、伝言という電波がピーヒャラ〜とやって来たのだ。
「ああ、俺たち人類は独りぼっちじゃ無かったよ、母さん」
そう呟きながら念には念を入れる俺である。大概、規則性のある信号というのは得てして別の場所から放射された電波であることが多い。いや、殆ど全てと言っていいだろう。灯台下暗し、地球上のどこかで放たれた電波は電離層で反射され、クルクルっと巡り巡って記憶を無くし、
「おい、お前、どこから来た?」
「さあ、
「そうか、分かった、よく分かったぞ。お前が大嘘吐きだということがな」
「そんな、ダンナ〜」
「失せろ! この、地球発誰が放ったか訳わからん怪電波め」
と言う具合で、夢も希望もブチ壊す迷子電波の多いことか。しかし今回は違う、俺の初体験にしてビンゴの大当たり、迷子の電波などではなく正真正銘、地球外知的生命体の仕業に違いない——と思う。
早速俺は1400光年先からやって来るピーヒャラ〜電波を音声に変換。そこには、唸るサウンド、突き抜けるような高音と、腹を
このピーヒャラ〜電波は三日間続き、——そしてピタリと止まった。最初のうちは興奮して眠れぬ日々を過ごしたものだが、後の方ではアレが止んだことでホッとしたことを覚えている。
さて、愚痴をこぼすのもここまでだ。収集したデータを解析し発表すれば、俺は一躍大儲け——ではなく、現在の科学技術を大いに前進させるはずだ、と意気込み仕事に熱中した。そして、燃え尽きかけた俺が得た結果とは——
「これは、音楽である」
意志と言葉の通じぬ者同士が、唯一分かり合える手段、万物にして共通の鼓動、共振、波動、などなど、それこそが音楽なのである、という結論に達した。それ以外のことはサッパリ、風呂上がりの牛乳である。しかし、全く
最初の導入部分は何かを繰り返し、その音階は約65000である。
その後に主旋律が延々と続く。
全体的に、聴くに耐えない意味不明な
以上、これ以降の解析は、その手の専門家に委ねたい、いや、委ねるべきだろう。何故なら俺はいろいろと忙しいのだ。だから仕事は手分けした方がいいはずだ。それに、今頃は暇を持て余し、それゆえ金策に困り果てている適任者を知っている。そこで、人助けも兼ね、その御仁に丸投げ——分担すれば世紀の大発見も早く発表できる、という誰にとっても幸せが転がり込んでくる
「もしもし、俺だ。元気に暮らしているか?」
「俺に息子は居ない。……娘なら居るかもしれん」
「それは無理ってもんだろう。嫁も居ないのに娘なら尚更だ、この贅沢も者め」
「どうも話が通じる相手ではなさそうだ。電話を切る」
「ちょっと待て、これを聞いてから、切るなり焼くなり好きにしろ」
電話に向かって例の音楽を盛大に轟かせた俺だ。勿論、散々聴きまくった俺であったが、音楽の
「ああ、懐かしい。なんだか昔の思い出が蘇るようだ。それも鮮明に、鮮明に……、そうだ、お前には貸した金があったな。今すぐ返して貰おうか、今すぐにだ、電話を切るなよ」
電話の相手は知り合いの天文学者だ。その人がなぜ適任かと言うと、天文学を志す前に言語と音楽を専攻していたらしいのだ。それが何かの迷いか、それとも路頭に迷ったのか、とにかく、人生という道を踏み外して天文の道に踏み込んだらしい。
だが、コイツは使える。俺が注目したのは音楽ということもあるが、それよりも言語に通じていることの方が大きい。何故ならこのピーヒャラ、聴けば聴くほど、俺を悩ませる音楽というより、何かを訴えている
「さあぁ、どっかからでも
◇
skylife81によるPixabayからの画像