俺はスライム

文字数 3,875文字


俺はスライムだ。

どこかの異世界で悠々自適の暮らしを謳歌している俺だ。そんな俺にスライム生最大の危機が襲ってきた。それが大型トラック(かぜ)だ。異世界のどこかに居る俺に向かって、その風が挑んできた。

俺は大地にへばり付き抵抗を試みたが、敢え無くぶっ飛び、どこかの砂漠に不時着した。砂漠はスライムにとって地獄のような場所である。容赦なく照りつける異世界の太陽。こいつが俺の体から水分を略奪し、時間を掛けてトコトコと体が蒸発。そしてこの世の理に従い、俺のスライム生が終わった。



異世界の『あの世』に行く途中に神とやらに遭遇。その神、残念ながら『おっさん』である。

「なんだ、スライムかよ」
「それがなんだ」

これが神と交わしたファーストセッションだ。神は俺のことが気に入らぬらしい。当然、俺も気にくわない。何が気にくわないかって、それは『おっさん』だからだ、話が違う。

「スライムならお前、人間になれ」
「オマケを付けてくれるなら行ってもいいぞ」
「任せろ」
「ハーレムもので頼む」
「それはオプションだ、お前にはまだ早い」
「ちっ、ケチ」
「行って天下を取って来い」
「はあ?」

神は俺を『あの世の天国』に行かせたくないらしい。実にケチな野郎だ。次、会うことがあれば確実に訴えてやるからな。



気がつけば俺は人間界にいた。年齢は二十歳。お面は普通、能力はスライム級、着ている服は紺色のスーツ、レベル1で転生したようだ。何故、俺が着ているのがスーツと分かるのか? それは一般常識のスキルがあるからだ。これ無くして人間界で生きるのは不可能だろう。

二十歳ということは、誕生してからの20年間はどうしていたのかと疑問があるかもしれないが、俺は突然、出現したことになっている。そういう設定だ。

人間界なので働かなけねば生きていけない。早速ハローワークに出向き職探しだ。せっかくなので楽な仕事を選ぼう。それと二十歳なのでこれからは『僕』ということにした。これは自己暗示による設定だ。



「楽で稼ぎの良い仕事を紹介してくれ」
「はあ?」

俺の、いや僕の性格まで二十歳にはならないようだ。僕の要求に困惑の表情で応える無能な職員は職を探そうともしない。仕方ない、チートをかます。

「そんな都合の良い仕事が……あったよ」
「それで頼む」

このチートは俺が神に頼んだオマケの分だ。なかなか便利で宜しい。だが、使用は一回限りの制限付きである。



僕は大企業の総務部に事務員として雇われた。事務員レベル1だ。一日中椅子に座ってのんびりと暮らせるだろう。そう思ったが、この部署の主任がレベル10でレベル1の僕には到底逆らえる相手ではない。

主任が登場したところでレベルを紹介しよう。係長がレベル30、部長がレベル50で社長がレベルマックスの100だ。いつか俺もレベルを上げてのし上がってやろう。



月日は流れ、相変わらずレベル1の僕だ。どうやらレベルは生まれついたその時から変わらないらしい。上がるのは年齢だけで、上位レベルには歯が立たない。よって、いいようにこき使われている僕だ。既に人生真っ暗闇、故郷の異世界が懐かしい。



更に月日は流れ、転生してから10年が経った。すっかりメタボな体になった俺は年下の奴に怒鳴られながら仕事三昧の日々を送っている。正直、生きているのが不思議なくらいだ。年下とは言え俺よりも上位レベル者だ。言い返すことなど恐れ多い。

ある時、新人が俺の前で本を落とした時だ。それを拾おうと手を伸ばすと、その表紙には眩いくらいの美少女が描かれているではないか。それに心を奪われた俺に、それは『異世界ファンタジー』だと新人様が教えて下さったのだ。

身体中に電気が走った瞬間だ。異世界とは俺の『心の故郷』ではないか。人間界に慣れ親しみ堕落していた俺に射す一筋の光、希望、誘惑、その他諸々。
早速、俺は『異世界ファンタジー』なるものの知識を貪り、そして一つの真理に辿り着いた。

『死んで異世界に転生しよう!』

正確には『死んで異世界に戻ろう!』だ。だが、どっちでも同じこと。ここ人間界を異世界に例えるなら、俺は瞬殺される村人Aだ。しかし現実にはそんなことは起きない。極端な危険が無い代わりに低レベル者としての虐げられた毎日が俺を蝕んでいる。そんな世界、俺の方から願い下げだ。



異世界転生する方法は、とにかくトラックに轢かれて死ぬことだ。容易いことではないか。ということで深夜、交通量の少なくなった幹線道路でトラックを待ち伏せする俺だ。

やってきたぜ。それもかなりスピードが出ている。俺は道の真ん中に立ち、このままじっとしているだけでいい。ただそれだけで俺の人生が変わるのだ。

「前方に『人』を発見。直ちに回避行動をとる」

これはトラック運転手の思考が分かる俺のスキルだ。このスキルが何の役に立つのか分からなかったが、最後には役立ったようだ。

「アンチロック・ブレーキシステム作動。障害物回避、不可能」
無駄だ。トラックが急に止まれないくらい、お見通しだぜ。

「対人エアバック、目標は障害物、射出用意、射出」
何か白いものがトラックから飛び出てきた! それに包まれ吹き飛ぶ俺だー。

「軌道修正、方位角1.5度修正、警笛鳴らせ〜」
トラックがクラクションを鳴らしながら俺に迫って来る! 何かに包まれたまま路上に横たわる俺だー。

「対衝撃、注意、注意」
トラックが俺の上で止まったー。車体の底がよく見えるぜ。

「バッキャやろー、死にてえのかー」

運転手が怒鳴りながらブオーンとエンジンを空ぶかしている。その排気ガスの勢いで道路の端に転がっていく俺だ。簀巻(すまき)状態の俺に何かを投げつけて走り去るトラックだ。それが俺を包む白いものに刺さり空気が抜けて萎んでいく。序でに俺の気持ちも萎んでしまった。



異世界転生・第二ラウンド。前回の失敗を生かし、走ってくるトラックの直前に飛び出した俺だ。今度こそ確実である。俺はトラックにぶち当たり、ああ〜、と思ったが、何故か体が液状化しスライムになってしまった。どうやら先祖返りのスキルらしい。トラックが行ってしまった後、路上にへばり付いた俺は数秒で元の体に戻ってしまった。なんなんだ、このスキルは。話が違う。

途方にくれた俺は一から『異世界ファンタジー』を勉強し直すことにした。どうやら単純にトラックに飛び込むだけではダメなようだ。そもそも不慮の事故でなくてはならないらしい。そんな偶然、しっかり者の俺には無理な相談である。ついうっかり轢かれるなど不可能に近い。



残念ながらまた10年の月日が流れた。上がるのは相変わらず年齢だけでレベル1のままだ。

「おっさん、これやっといてくれや」

若造が大量の仕事を俺に振ってきやがる。しかし相手はレベル上位者、瞬殺されないだけでもマシな方だ。いや、一層のこと瞬殺された方が気が楽になるだろう。この、レベルが支配する世界は俺の生き方に合わないのだ。そんな世界に放り込んだ『神』を呪うばかりである。

そんな俺にも偶然が神の御業を超える時が来たようだ。

深夜遅く、終電を逃し街を彷徨う俺は、今にも倒れそうなジジイが道を渡っているのを目撃した。普段なら他人の事など気にしない俺が偶然にもそれを目にしたのだ。そのジジイに向かって突進してくる一台のトラック。気がつけば俺もジジイに向かって走っているではないか。

残業に次ぐ残業で正常な判断が出来なくなっていた俺だ。奇妙な行動をしたところで何もおかしい事はないだろう。俺はジジイがトラックに跳ねられる寸前で、そのジジイを突き飛ばしていた。

その時のジジイの顔ときたら「何するんじゃ、このボケ」と言いたげな、いや、そう言っていたかもしれない、迷惑そうな顔をしていた。だがその顔、どことなくあの『神』に似ていたのは気のせいだろう。

ジジイの代わりにトラックと接触した俺は例によってスライム化し、風圧で吹き飛ばされたようだ。その後の記憶は……無い。



気が付けば、どこか高い空の上のようなところを漂っていた。そう感じているが、どうやら体のようなものは無く、意識だけがあるようだ。そうして俺は暫く、どこかのどこかで漂うだけの存在になっていた。

雨が降り始めた。その雨と一緒に地上に舞い降りた俺という意識は、世界を見つめ続けその変化を傍観していた。そうして地上の何かと何かの有機物が結合し合い、何かが生まれてくるのを感じた。そう、何かが誕生したようだ。

それを見ていた私は、何故か空を仰ぎ見ているようだ。今まで世界を見つめていた私の視界が固定され、何者かになってしまったようです。あれ? 俺、私?

私はスルスルと移動し、水溜りに自身を映してみました。あら、どうでしょう、可愛いスライムです。どうやら私は元の世界、どこかの異世界に戻って来られたようです。何故か性格も変わってしまったようですが、それはどうでも良いでしょう。こうして元に戻れたことが私にとって最大の喜びです。これからは美スライムとして生きていきますね。

やはり最後に出会ったのは『神』だったようですね。私のことを思って元に戻してくれたのでしょう。感謝……するわけがねー。
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登場人物紹介

スライム

異世界でスライム生を謳歌している俺。

ゴーレム

異世界で少女を守りながら戦う俺。

ゴーレムの創造主
自称、魔法使い。ゴーレムからは魔法少女 または 魔法おばさん または ……

エリー

エルフの私です。
エルフの里で育ち、エルフの母に姉と弟、それに友達も皆、エルフです。
耳は長くはないけれど、ちょっとだけ身軽ではないけれど、
すくすくと育った私です。
だから私はエルフなのです。

ステンノー

ゴルゴーン三姉妹の長女

エウリュアレ

ゴルゴーン三姉妹の次女

メデューサ

ゴルゴーン三姉妹の三女

シルキー

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