俺はゴーレム

文字数 3,224文字


俺はゴーレムだ。

とある少女から創られた俺は、その少女と一緒に戦った。いったい誰とかって? それは当然、少女の敵だ。善悪は関係ない。少女に歯向かうもの、敵対する者すべてが俺の敵である。

その少女は魔法で俺を創った。だから俺は少女を『魔法少女』と呼んだが、当の本人は、「私は正当な魔法使い、そんな俗っぽい呼び方はお断りよ」と俺を正そうとした。だから俺は呼び方を変え、『魔法おばさん』と呼んだ。そうしたらどうだい、しこたま殴られたじゃあないか。

俺たちは戦った。少女の命令は絶対だっが、そんなことは関係ない。俺は少女を守る、そう決めていたからだ。だが、その日は違っていた。荒くれ者の若造が調子こいて襲ってきた。そいつは仲間内から『勇者』とかなんとか呼ばれていたが、こっちには俺がいる、鉄壁の防御だ。

少女は苦戦したが、俺も大いに暴れまくった。しかし多勢に無勢、とうとう追い詰められ、魔力が尽きかけた少女は俺に逃げろと言う。だがそれを素直に聞く俺ではない。少女を守る、どんなことをしてもだ。

少女と、その『勇者』との間で壮絶な口喧嘩が始まった。ああそうさ、少女にはそれくらいしか力が残っていなかったからだ。俺は少女の盾として最後まで踏み留まり、『勇者』の悪態から少女を守った。

少女に口では勝てないと悟った『勇者』は、こともあろうか実力行使に出てきやがった。それも顔を真っ赤にしてだ。奴が振るう剣を全身で受け止める俺。痛いなんてもんじゃない。肩が足が、腕が砕かれていく。それでも当然、俺はその場を動かない。少女を抱え込み、奴からの攻撃から少女を守り続けた。

多勢に無勢、卑怯にも『勇者』の仲間が、埒のあかない戦いに終止符を打つため、俺にとどめの一撃を仕掛けてきた。その一撃が俺の急所を突き、俺は一瞬で霧のように小さな砂粒となり、拡散しながら消えた、いや、消えたようだ。その時、少女が叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、今の俺には分からない。ただ、少女が怒っていたことだけは確かだ。ああ、無念。



異世界の『あの世』に行く途中に神とやらに遭遇。その神、残念ながら『おっさん』である。

「おお、ゴーレムではないかい」
「そうだ、ゴーレム様だ」

これが神と交わしたファーストセッションだ。神は俺のことを尊敬したらしいが、俺はそうでもない。それは神とやらが『おっさん』だからだ。少女以外の存在に興味は、無い。正確には『男には用が無い』だ。

「ゴーレムよ、人間にならんか」
「それは何故だ?」
「あなたのような強者に人間を支えて欲しいのだ」
「良かろう、だが断る」
「そうか、なら仕方ないな。せっかく少女と……いや、断るのなら話しても仕方ないことだな」

少女をダシに俺を釣ろうという魂胆らしい。だがそんな手に乗る俺ではない。
「なに! 少女と会えるのか?」と俺の深層意識が勝手に釣られている。なにを口走っているのか自分でも理解出来ないが、それが俺の本心なのだろう。

「いや、オマケを付けてくれるなら行ってもいいぞ」
「任せなさい」
「純愛もので頼む」
「いいだろう。しかしお前さんにそれが耐えられかの? 辛いぞ」
「望むところだ」
「では、行って世界を支えて来い」
「ああ、いいだろう、任せておけ」

神は俺を『あの世の天国』ではなく人間界に行かせたいらしい。なにを企んでいるかは知らないが、まあいいだろう。砂粒まで小さくなった俺だ、もうそんな細かいことを気にする俺じゃあない。待っていろ少女よ、人間界でも俺は必ずお前を守ってみせるからな。



気がつけば俺は人間界にいた。年齢は二十歳。お面は普通、能力はゴーレム級の石頭、着ている服はボロボロのジャージ、レベル1で転生したようだ。何故、俺が着ているのがジャージと分かるのか? それは一般常識のスキルがあるからだ。これ無くして人間界で生きるのは不可能だろう。

二十歳ということは、誕生してからの20年間はどうしていたのかと疑問があることだろう、説明しよう。俺は生まれてすぐ、橋の下で泣いているところを大富豪夫婦に拾われたらしい。俺のあまりの可愛らしさに目の眩んだ大富豪夫婦は俺を養子にし、お坊っちゃま生活を送った……のではなく、俺を引き取り下働きの奴隷として俺を飼うことにしたそうだ。

物心がつく年頃になると、転々と家が替った。そう、人身売買というやつだ。生まれつき体の丈夫な俺は命令に従う良き働き手として、富豪たちの間で引っ張り凧状態が続いた。しかし俺も人間である。苦労に苦労を重ねながらも、こっそりと勉強し知見を広げ世間を知った。ということで俺は地獄の世界から逃げ出したわけである。

こうして俺は今、街中に漂うゴミのように突っ立っているところだ。だが勘違いしないでほしい。俺の過去はあくまで『そのような設定』であるということだ。単に記憶上の話であると俺は思っている。もしかしたら本当かもしれないが、この辺のところは実に曖昧で、神とやらは仕事が雑でいけないと思っている。今度会ったら叱ってやろう。

さて、これからどうしたものかと思案していると、急に手を引っ張られた俺である。
「ねえ、応募に来た人でしょう」
そう快活に話しかけ、俺の手を引く者。それは『あの少女』ではないか。早速、会いたい人と会えるとは神の爺さんも粋なことをしてくるものだ、と有頂天になる俺だが、『あの少女』がここに居るわけがない。だが、めちゃくちゃ似ているのも確かだ。思はず「俺だよ、俺!」と叫ぶところだったが、似ているだけでも偶然ではないはず。これは運命だと理解し少女に逆らわず付いて行く俺である。

彼女が俺に何を期待しているのか、それは俺が立っていた場所と深い関係があった。ここは運送会社の入り口、そこに看板があり『運転手募集』の張り紙が風で揺れていた。どうやらそれを見た何者かが面接の約束をしたらしいが、いくら待ってもその者は現れなかった。業を煮やした彼女が会社を飛び出したところで俺を見つけた、というところだ。彼女はシャイな募集者と俺を勘違いし、こうして俺を連れているというわけだ。

なんだかんだで、そこで働くことになった俺。住まうところも無かったので序でに会社で住み込むことになり、実に順調な滑り出しとなった。運送会社の建物は1階が事務所、2階が住居になっていて、彼女はそこの娘でもある。つまりは社長令嬢というところか。小さな会社だが気品と品格を兼ね備えた彼女には、そのくらい言っても過言ではないだろう。

住み込みなので食事は彼女の家族と一緒である。食卓を囲む笑顔の絶えない家族に、その一員として俺を迎えてくた人たちである。

俺は新人ということもあり、近場で荷物の配送をすることになった。朝、トラックで町中を駆け巡り、昼には一旦戻って昼食を、そして午後の仕事を終えたら一日は終了だ。暖かい食事と、その後の風呂に今までの苦労が吹き飛ぶような、そんな幸せを実感するのに大して時間はかからなかったものだ。

あれから三日が経った昼のこと、彼女とたわいもない話をしていたところに、一人の若い男が現れた。その風貌はどことなくあの『勇者』に似ていたが、確かに別人である。その男は長距離トラックの運転手をしていて、久しぶりに戻ってきたわけだ。

だがその瞬間、俺は気がついてしまったようだ。それは彼女がその男を見た時、とても嬉しそうな顔をしたからだ。そんな彼女を、さも当然という風で見る男、そして、確証はないが一瞬だけ俺を睨むような目つきを向けたこと。その後、男と挨拶を交わし何事もなかったかのように笑顔を向けてくる男である。そう、これでこの二人の関係を推測するのは容易いことである。間違いようがないだろう。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

スライム

異世界でスライム生を謳歌している俺。

ゴーレム

異世界で少女を守りながら戦う俺。

ゴーレムの創造主
自称、魔法使い。ゴーレムからは魔法少女 または 魔法おばさん または ……

エリー

エルフの私です。
エルフの里で育ち、エルフの母に姉と弟、それに友達も皆、エルフです。
耳は長くはないけれど、ちょっとだけ身軽ではないけれど、
すくすくと育った私です。
だから私はエルフなのです。

ステンノー

ゴルゴーン三姉妹の長女

エウリュアレ

ゴルゴーン三姉妹の次女

メデューサ

ゴルゴーン三姉妹の三女

シルキー

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み