第2話 教会で祈ろう

文字数 3,643文字

 いきなり暗闇に突き落とされた俺だ。考えてみれば国とは神の国のことなのか? それなら満更、間違いではなさそうだって、どういうことなんだぁぁぁ。

 ということで紙にも、いや神にも情けはあるようだ。俺が暗闇に落ちていく間、特別サービスとして、これまでの経緯が説明されたのである。以下、その能書きであ〜る。

 なになに、俺が天に召されたのとほぼ同時にテロが起こったそうだ。それも世間を騒がせるゾンビウィルステロだそうだ。ふ〜ん。それで一気にそこらじゅうの奴らがゾンビに変身、街はパニックになったそうだ。ふ〜ん。そんなことは俺にとってはどうでも良いこと。それにテロと言ってもゾンビウィルスのやつなら、これで3度目ということになる。いい加減、対ゾンビは攻略済みと世間では認知されている。そうそう何度も同じ目にあうものか、ということだ。

 ああぁぁぁああ! ところでミヨちゃんはどうした? ミヨちゃんがゾンビになってたら御仕舞いだぁぁぁ! なに? ミヨちゃんは無事、そうか、それなら何も問題は無いじゃないか、安心したぜ。なに? そのテロで俺がゾンビになっただとぉぉぉ! まあ、いいか。それで俺の入国が拒否されたというわけだな、成る程、ガッテンしたぜ。

 こうして現世に舞い降りた俺である。だが、ゾンビとなったからには、からには、さて? どうしたものだろうか。

 例の交差点でムクッと起き上がった、いや、復活した俺様だ。多少、手足が明後日の方に向いていたが、エイっと叩けば直る体である。これはこれで便利そうだ。ところで、周囲には俺以外、人の姿は見えない。きっとどこかに避難したのだろう。おっと、俺を人に数えていいのか? 既に人を超えた存在ではあるが、まあ、いいだろう。

 その場でキョロキョロしていると教会が目に入ってきた。ついさっきまで縁のあった場所だ。懐かしい気がするので早速、行ってみよう。

 ギーコギコ。なんだ、扉が壊れているのか。まあいいだろう。中を覗いてみると、やけに人気が多い気がする。神と縁があるとはいえ教会に足を踏み入れるのは初めてである。なんだか気が引けるが、この際、思い切って飛び込んでみよう、おりゃ。

 教会の中は人が右往左往しているだけで、誰一人として祈りを捧げている者がいない。それもそうだろう、中に入った瞬間、俺の肩に噛み付いた輩がいるではないか。それ以外にも、みな思い思いに噛みつき合っている。もしかしたら、それがここの挨拶なのかもしれない……な訳があるはずないだろう! こいつら全員、ゾンビになって我を忘れていやがる。

 早速、俺に噛み付いた奴をぶちのめし、どんどん前へと進む。何故こんな時にわざわざ進むのかって? それは、それは、どうしてだろうか。きっとゾンビの血がそうさせているに違いない。それは本能、それとも性質、いや、宿命であろう、うん。

 そんな時である。俺が親切丁寧に開けた扉をぶち壊し、おまけに叫びながら小火器の連射である。あれはおそらくゾンビハンター、それも私兵の一人であろう。相手が人ではないので警告も遠慮も無く、好き勝手に射殺、いや、粉砕していくバカ者である。俺にもしものことがあったら、どう責任を取るつもりなのだ、と言いたいが、既に右腕を持って行かれたところだ。

 しかーし、俺にも補充用のパーツはゴロゴロと転がっている。これで即、復活、新品同様である。これ即ち、無限のパワーと英知を兼ね備えた、スーパーな俺であろう。まさしく、ゾンビの中のゾンビ、ゾンビ王であるぞぉ、控えおろうぞ!

「動いたら殺す、動かなくても殺す、抵抗したら殺す、わかったら大人しく死ねぇぇぇ」

 ゾンビハンターがまた何やら訳のわかぬことをホザいているようだ。『死ね』と言われても、ゾンビ諸君は既に死んでおるわい。それが原始生命体のようにうごめいているだけである、但し俺を除く。

 それは本能がそうさせているのか、それとも小脳くらいは機能していて体を動かしているのか、違うのならそれはゾンビウィルスの所業か。この際どれでも構わないが、とにかくゾンビ諸君は動いているものに興味があるらしい。それはまるで昆虫のようでもあるが、とにかく、この場で動いている者、そして生きの良い者といえばゾンビハンターである。そいつに群がり、結局は粉砕され散っていく。それを見て思うのは、あぁはなりたくないものだということだ。

 何故か知性と教養のある俺がスーパーゾンビとしてこの世に降臨した以上、世間をアッと言わせなくてはならないだろう。多分それが俺の運命、宿命というやつだ。だから役に立たないゾンビ諸君、低級ゾンビは捨て置き、目の前の敵であるゾンビハンターをなんとかしなけれなるまい。それが俺が生き延びる、いや、存在し続ける唯一の方法である。

 ここで、生きている人間の振りをしようと思ったが、頭に血が上ったゾンビハンターには通用しない。奴にとっては生きていようが死んでいようがお構いなしである。

 以前であればゾンビが人を襲うものだと相場は決まっていた。そうして、かなりの場合ゾンビ側が優勢で、その後の結末が楽しみであった。何せ相手は不死身、いや、死んでいるがとにかく動く代物、向かうところ敵なしの状態だった。それなのに今はどうだ。ゾンビを見つけ次第ことごとく粉砕し、その存在を無き者としようとする。これではゾンビ映画が流行らない訳である。だって、怖くないんだもん。

 ということで昔のように銃でバンバン、へっちゃらのゾンビという構図はなくなった。とにかく威力の高い武器で粉々、粉砕である。相手はもう人であって人ではない、人の形をした動く何かである。

「うりゃああああああああ」

 またゾンビハンターが叫んでいる。それもたった一人でだ。だがそれも頷ける部分もある。それはゾンビ駆除に報奨金が支払われるからだ。これを大人数で割ったらその分、稼ぎが減るというもの。腕に自信があるからこそ、こうして一人で乗り込んで来たのだろう。

 標的は「うー」とか「あー」としか言わない、もしくは無言で徘徊する妖怪変化の類だ。そこに情けは無用、コッパミジンコにして成仏を祈るのみである。

 だーが、ショットガンを構え、腰にサブマシンガン、背中にグレネードランチャーを背負った男がその都度祈るとは到底思えない。そんな芸当が出来るのは俺くらいなものである。

 状況は更に最悪だ。既に大方のゾンビ諸君が吹き飛ばされ息も絶え絶え、いや、殆ど活動を停止してしまっている。その中で一応、俺もアタックにより昇天していることになっているが、最後に奴は手持ちの手榴弾でこの場を破壊尽くしていくだろう。

 何故そんなことを俺が知っているのかって? まあ、一度は憧れた職業である。それに日頃のストレスを解消するにはもってこいだと思わないか? 俺は思う。そしてバラバラ、肉片と化したゾンビは最後に焼却処分と決まっている。何せ元はウィルスである、燃やしてしまうのが確実だろう。

 だからこうして死んだふり、いや、活動停止したフリをしても無駄なのである。せっかく甦ったこの体。有意義に使わなくてなんとする、だ。

 ◇◇

 さて、困難な状況に追い込まれた俺である。ここで何かしてどうにかすると、狂人である奴を倒すことは可能、な訳がない。重装備の狂人に対してこちらは丸腰。いくら不死身といえども……いや、不死身だからこそ出来ることが有るのではないか?

 そこで物は試しと、近くに転がっていた誰かの腕を放り投げてやった。するとどうだ。

 バッキュウン・バリバリ。

 早速それに反応した狂人がショットガンをぶっ放したではないか。では、これならどうだ。今度は少々大きめの誰かの足だ。これをフンッと遠くに投げ、それに気を取られた狂人の隙をつき、一気に祭壇の後ろまで駆け抜ける。

 おお、体が軽い。それもそのはず。今まで人であったことの限界を優に超えることが可能。全筋肉を総動員すればオリンピックも屁ではない、ぷー。

「誰だー、返事をしろぉぉぉい」

 俺の撹乱作戦にまんまと騙された愚か者の叫びである。さて、次なる作戦だが、上手い具合に非常口が見えるではないか。しかし少々遠い気がする。でも今のスーパーな俺なら可能のはずだ。善は急げ、今すぐダッシュをキメる、ダー。

 バッキュウンウンウン・バリッチョ。

 俺の疾走を僻んだ愚か者からのアタック。へへってんだ、痛くも痒くもないやい。そこで非常口を無事通過した俺の前には長い廊下が。そこもダッシュをキメ、途中のエレベーターに滑り込む。

 なんで教会にエレベーターが? 最初に語ったであろう、ここは豪華な教会だと。この教会は高層ビルの1階にあるのだよ、あるんだ。だからエレベーターがあってもおかしくはないのだ。

 そこで俺は全てのボタンを押した。これで俺がどこでエレベーターを降りたかなんて分からなくなるだろう。知恵と才能は生きている内に、いや、使える内に使い果たしておくべきだ。

 ◇
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登場人物紹介

スライム

異世界でスライム生を謳歌している俺。

ゴーレム

異世界で少女を守りながら戦う俺。

ゴーレムの創造主
自称、魔法使い。ゴーレムからは魔法少女 または 魔法おばさん または ……

エリー

エルフの私です。
エルフの里で育ち、エルフの母に姉と弟、それに友達も皆、エルフです。
耳は長くはないけれど、ちょっとだけ身軽ではないけれど、
すくすくと育った私です。
だから私はエルフなのです。

ステンノー

ゴルゴーン三姉妹の長女

エウリュアレ

ゴルゴーン三姉妹の次女

メデューサ

ゴルゴーン三姉妹の三女

シルキー

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