冬至まつり800
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朝目を覚ますと、俺の部屋に死体が転がっていた。
目は虚ろで、冬の乾燥した空気のせいか、肌もかさついている。
見ていられなくなって、俺は思わず瞼だけでも閉ざしてやることにした。
それにしても何故死体。すっかり冷たくなって死後何時間も経っていることは間違いない。ストーブを入れたとはいえ、玄関にでも置いておけば保存は効くだろうけど、勝手に動かしてしまうと警察を呼んだ時に怒られてしまいそうだ。
「……ふぁあ」
動いた。
死体が起き上がってあくびした。
そして充電してあった俺のスマホを手に取るとソシャゲのログインボーナスを手に入れて、周回を始めてくれる。
何してんだこいつ。
「おい、お前」
「あ、おはようございます」
「えぇ……? お、おはようございます」
「すいませんお騒がせしました。迷惑はかけないので、見守ってやっちゃくれませんかね? こちらで勝手に生活していくので」
思ったよりも礼儀正しい。
しかし困った。自分で勝手にやっていくというのに、わざわざ警察に通報して迷惑をかけるのも心苦しい。
そんな感じで俺と動く死体の奇妙な共同生活は始まった。
動く死体は非常に勤勉で、仕事場では目立った業績こそあげないもののなんやかんやと出世し、恋愛沙汰にも興味が無いくせにちゃんと結婚、立派な家庭を築き、仕事は程々に、家庭や地域に貢献する立派な市民となった。すごいぞ、動く死体。そんな死体にも本当の終わりは訪れる。ある日、趣味の畑を手入れしてたら、胸を抑えて苦しみ始めたのだ。周りには俺しかいない。
「おい、すぐに救急車を――」
死体は首を横に振る。彼は崩れ落ち、俺の視界は真っ白になる。気づくと俺は自分の部屋で目を覚ました。目の前にはまだ真っ白な年賀状。宛名書きの最中に寝落ちしてしまっていたらしい。あの死体はもう居ない。外はまだ暗い。長い長い夜の底で、俺はあいつの分まで生きていくことにした。
sealion
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