『クリスマスプレゼント』 今村広樹
トン、トン、トン
「はあい、何かしら?」
ここは世界の果てにあるという図書館。
こんなところに人が来るのかしらっと、近くにある唯一の街の人は言いますが、不思議なことに、定期的にお客さんが来るようです。
今回の少女のように。
その少女といえば、『いしころおひめさま』という『おおうなばらのたびびと』という二冊の絵本を借りようとしています。が、
「あ、お姉さん、待ってね」
と、いうと、カバンから、何かを取り出しました。
「お姉さん、はあい」
「あら、何かしら?」
「クリスマスのプレゼントだよ」
「まあ、ありがとう、なにかしら?」
と、お姉さんが少女のくれた包みを開けると、中には、セーターとマフラーが1揃え入っていました。
「あら、私なんかのために、編んでくれたの?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、おかえしじゃないけど、サンタさんが貴女のためにって、私に預けたモノがあってね」
お姉さんは、机の引き出しから、赤い長靴を取り出しました。
「わあ、お姉さんありがとう」
「お礼はサンタさんに言おうね」
お姉さんはそういうと一瞬顔を曇らせました。
その時お姉さんの頭の中に浮かんだモノは、腹から血を大量に出ている男の姿でした。彼はこう言います。
『これを、うちの娘に渡してほしい。人生最期に親らしいことをしようと思ってね』
と、言うと男はよろめきながら、外へ去っていきました。
残ったのは、雪の上に点々と血の跡だけ。
「わあ、私のほしかった魔法少女まじめちゃんのステッキとか入ってる!
サンタさんって、ホントに人が欲しいものわかるんだね!」
と、少女が喜んでいるのを見て、われにかえったお姉さんは、穏やかな笑みを浮かべながら、こう返しました。
「そうよ、サンタさんって、貴女のこと何でも知ってるのよ」
「へえ、スゴいねえ」
何も知らない少女の足元に、図書館に住み着いている猫が来て、アクビしていました。