「オハナが来た道」和良拓馬

文字数 793文字

「オハナが来た道」 和良拓馬



有馬記念前日に中山競馬場へ行くのは、ここ数年の恒例となっている。翌日は歩くのにも一苦労なくらい混雑しているので、これくらい空いている前日のほうが過ごしやすくて好きなのだ。


だが、今日の馬券の出来はよろしくない。穴馬を当てたと思えば、本命が外れ。本命が来たと思えば、穴馬が来ない。メインレースである中山大障害は【◎】を打った馬が、最後の最後の障害で転んでしまった。5~6レース賭けて当たったのはひとつ。このままでは大赤字である。


最終レースはノエル賞。牝馬限定のレースだ。せめてコンビニのチキンが買えるくらいの当たりが欲しい。そして、明日の有馬記念に向けて、良い状態で締めくくりたい……。


見覚えがある馬の名前を、紙面上で発見した。オハナ。彼女と競馬場で出会うのは、今年4月の東京競馬場以来だった。その時は本命に指名したものの、低調な出来で敗戦。それ以降も彼女は大舞台では結果を出せず、再び身の丈にあった今日のレースに戻ってきたわけだ。


うむ、懐かしい。この馬にするべきか? でも、このオッズではチキンが買えない。それに、調整内容の評価も低いし……と色々な理由を付けて、もう少し穴っぽい馬を僕は選んだ。



このレースを勝ったのはオハナだった。レースの展開は彼女に向かない部分があったのだが、大外からとんでもないラストスパートでみんな抜き去ってしまった。


そして、オハナはもう一つ大切なことを教えてくれた。彼女が全速力で走っていった位置と同じコースを、翌日の有馬記念を制した馬も走っていたのである。芝生が荒れていないくて、かつコースロスが無いポイント。中山競馬場のウイニングロードは、実は彼女が先に走っていたのだ。


でも、僕は彼女が来た道に気がつかなかった。レース後にぼんやり眺めていたのは、茶色と緑色が混ざったコースの向こう側にある、重たく広がり続けている冬の曇り空だった。


2018/12/24 18:40

waratas

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