「それ、ときどき訊かれますけど、意味がわからないのです。わたしや沙織さんが信じるか否かに関わらず、いるではありませんか。サンタクロース」
友だちに真顔でそんな反応をされてビビる。まじですか。成人した女子大生が。
「アコちゃん家には来たの。サンタ」
「残念ながら一度も。プレゼントは毎年、父が買ってくれました」
「でも、いるんだ。サンタ」
「自分のところに来ないことと存在するかどうかは別の問題では」
Twitterの議論好きのひとみたいなことをおっしゃる。
「サンタはいないってひと、世の中に多くない?」
「それは、そうですね。いくら効率よく巡回しても、その日に働けるサンタの人数も、ひと晩で訪問できるお宅の数も限りがありますし、サンタに選ばれたことのないわたしのようなひとは多いでしょうから、羨ましさの裏返しで、本当は存在しないという陰謀論に傾く気持ちは理解できます」
インボーロン。よどみなく語る章子を、私はぼんやりと見つめる。意外な一面だな。
「まさか、沙織さんのところには……」
「えーとね。うん。ある。あるアルよ」
「本当ですか!」章子の眼鏡がきらりんと光る。
「保育園のとき、朝起きたら枕元に欲しかった変身ベルトが」
「プリキュアより仮面ライダーがお好きだったのですね。でも、それは本当にサンタからですか? わたしのようにご家族からの贈りものでは」
そこは疑うんだ。「どうやってなるんだろうね、サンタ」と話を逸らす。
「それは、いくらインターネットで調べてもわからないんです」
「『サンタ なり方』みたいなワードで検索し続けてるひとを逆探知して、密かにスカウトしてるかもしれないよ」
「もしお誘いが来たらどうしましょう」
「就活しなくていいじゃん」
「お給料は出るのでしょうか。無償の活動では」
「知らんけど」
「あと、昔から疑問に思っていることが……」
この話題、まだ続くらしい。えらい質問をしてしまった。