ペンネーム:kuu
タイトル:夜の女王の憂鬱
毎年この日は忙しくて嫌になる。
そう嘆息する美しい姿に見とれながら、私はお茶のおかわりをすすめた。
彼女は夜の女王。リトルブラックドレスを着た姿は普通の人間のように見える。
もちろん、わが主はずっと高貴で可憐だが。
「日が落ちてから登るまで、ずっと歌い続けなければいけないのが面倒なのよね」
1年の内で一番夜が長い冬至の日。夜を統べる女王は、それを寿ぎ歌を捧げることになっている。
毎年彼女は前日になって必ず、やれ喉のケアが大変だの、どうせ人間には聞こえないからさぼったって良くない?などと愚痴をこぼす。
「まあまあ、1日だけですから。昼の君だって毎年頑張ってるわけでしょう?」
「まあ、そうなんだけど」
むくれた姿も愛らしい女王である。おっと、お湯が沸いた。きちんと70度ぴったり。
「とにかくキーが高くて嫌なのよ。あの歌」
人間には感知できない周波数の歌なので、聞いてもらえなくて残念だ。
とっても美しいのに!!
あえて言うならば、人間の音楽家、モーツァルトとか言う者が作ったオペラの
「魔笛」。あれに出てくる夜の女王の歌に似ている。
いや、きっとうちの先代女王の歌をパクったに違いない。ちょっと不完全だけど。
え?「人には聞こえない歌なのになぜパクれるか」って?
時々、音楽家と言われる人間の中には、私たちの奏でる音楽や声が聞こえる人が
いるみたい。彼らはそこからインズピレーションを得て、文化芸術に貢献してるってわけ。
さて、今日はなんのお茶にしよう。
ジャパンという国から取り寄せた、ユズという果物のフレーバーがいいかしら。
喉に優しいそうだから、女王にぴったり。
「はい、どうぞ」
私は湯気の出るカップを差し出した。反応が気になる。
「……いい仕事、したわね」
そう言って女王は、うすく微笑んだ。
今年の冬至は盛り上がりそうだ。