「夜の女王の憂鬱」kuu

文字数 765文字

ペンネーム:kuu

タイトル:夜の女王の憂鬱


毎年この日は忙しくて嫌になる。

そう嘆息する美しい姿に見とれながら、私はお茶のおかわりをすすめた。

彼女は夜の女王。リトルブラックドレスを着た姿は普通の人間のように見える。

もちろん、わが主はずっと高貴で可憐だが。


「日が落ちてから登るまで、ずっと歌い続けなければいけないのが面倒なのよね」


1年の内で一番夜が長い冬至の日。夜を統べる女王は、それを寿ぎ歌を捧げることになっている。

毎年彼女は前日になって必ず、やれ喉のケアが大変だの、どうせ人間には聞こえないからさぼったって良くない?などと愚痴をこぼす。


「まあまあ、1日だけですから。昼の君だって毎年頑張ってるわけでしょう?」

「まあ、そうなんだけど」

むくれた姿も愛らしい女王である。おっと、お湯が沸いた。きちんと70度ぴったり。


「とにかくキーが高くて嫌なのよ。あの歌」

人間には感知できない周波数の歌なので、聞いてもらえなくて残念だ。

とっても美しいのに!!


あえて言うならば、人間の音楽家、モーツァルトとか言う者が作ったオペラの

「魔笛」。あれに出てくる夜の女王の歌に似ている。

いや、きっとうちの先代女王の歌をパクったに違いない。ちょっと不完全だけど。


え?「人には聞こえない歌なのになぜパクれるか」って?


時々、音楽家と言われる人間の中には、私たちの奏でる音楽や声が聞こえる人が

いるみたい。彼らはそこからインズピレーションを得て、文化芸術に貢献してるってわけ。


さて、今日はなんのお茶にしよう。


ジャパンという国から取り寄せた、ユズという果物のフレーバーがいいかしら。

喉に優しいそうだから、女王にぴったり。


「はい、どうぞ」

私は湯気の出るカップを差し出した。反応が気になる。


「……いい仕事、したわね」


そう言って女王は、うすく微笑んだ。


今年の冬至は盛り上がりそうだ。

2018/12/24 13:39

kuu_talk

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色