2006年9月8日

文字数 1,132文字

2006年9月8日
 ホッファーは、モンテーニュを代表に、ブレーズ・パスカルやアレクシス・ド・トクヴィル、エルネスト・ルナン、アンリ・ベルクソンなどフランスの思想家に影響を受けている。彼は「個人的なものの下に常に人間の条件の普遍的形態を看破させようとし(略)真実を演繹もしくは形而上学ではなく、直接的な接触によって捉えようとする」(フォルテュナ・ストロウスキー『フランスの智慧』))系譜の継承者である。

 モラリストから影響を受けたのは、ホッファーが近代主義者だからである。彼はフランス革命に由来する近代の理念「自由・平等・友愛」に忠実である。これらは同一の概念ではないので、時に、対立しさえするが、禁欲的な自律において調停される。

 しかし、それには困難が伴うため、耐えきれず、しばしば、自由を犠牲にして従属を選びとってしまう。「自由に適さない人々、自由であってもたいしたことのできぬ人々、そうした人々が権力を渇望するということが重要な点である。(略)もしもヒトラーが才能と真の芸術家の気質を持っていたなら、もしもスターリンが一流の理論家になる能力を持っていたなら、もしもナポレオンが偉大な詩人あるいは哲学者の資質をもっていたなら、彼らは絶対的な権力にすべてを焼きつくすような欲望をいだかなかっただろう。(略)自由という大気の中にあって多くを達成する能力の欠けている人々は権力を渇望する」(『波止場日記』)。

 人がこうした状態に走ってしまうのは、「自尊心」を失ったからである。「その理由は何であれ、自尊心が得られないとき、自律的個人は、きわめて爆発的な実体と化す。かれは、将来性のない自我から身をひるがえし、自尊心にかわる爆発的代用品たるプライドの追求という新しい冒険にとびこんでいく。すべての社会的混乱と激動は、その根底に、個人の自尊心の危機がある。大衆が最もたやすく統合される偉業も、基本的には、このプライドの探求である」(『情熱的な精神状態』)。ホッファーは「自尊心」と「プライド」を区別している。自尊心が自身を認めることであるのに対し、プライドはルサンチマンが引き起こした感情である。なお、今日の発達心理学の日本語では前者が「自尊感情」、後者は「自尊心」と呼ばれている。

 この「プライド」探求にとりつかれるのが、ホッファーによれば、「知識人」である。フランス的な思考スタイルとアメリカの愛国者であることは、矛盾ではない。フィリップ・ソレルスはユートピアに幻滅した後、アメリカに現実的処方箋を見出している。ホッファーがアメリカを「大衆」の国と賞賛するのは、大衆が近代の理念を体現しているからである。それが大衆の中で実現しているのに、知識人が台無しにしようとする。
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