2006年9月6日

文字数 1,042文字

2006年9月6日
 後藤田正純金融・経済財政担当政務官が消費者金融の金利をめぐる金融庁の改定法案に反対して、辞任したという報道をテレビで目にする。

 今春、最高裁がグレーゾーンを違法と判決を下したが、それをわざわざ後退させる内容の法案だ。判例は消極的規制であって、抑止にはなるとしても、やはり弱い。法律による規制には拘束力がある積極的な強制であり、それが必要だ。アングロ・サクソンの法体系は慣例法が中心であり、その基本は、当然、抑止であって、強制ではない。最低限、判例を法律で補完しなければならないのに、この動きは極めて悪質である。

 日本社会はデフレに苦しんできたが、デフレは借金を相対的に増やすのであって、その点でも、こうした高利は問題である。「合意は拘束する(pacta sunt servanda)」は、古代ローマ以来、金の貸し借りに対して適用されてきたけれども、今日の日本ほどこれが拡大解釈されている社会は歴史上ない。消費者金融の20%以上の年利は多くの社会問題を誘発している。平成15年版の犯罪白書によると、不明を除いて、消費者金融から借金をしている者が強盗群の66.1%、そのうち多重債務者は消費者金融からの借入れがある者の57.9%を占めている。また、年間3万人を超える自殺者の中にも消費者金融からの借金を苦にした人が少なからずいると推測される。この現状と照らし合わせるなら、ウィリアム・シェークスピアの『ベニスの商人』のシャイロックも慈悲深く見えるほどだ。「悪魔でも聖書を引くことができる,身勝手な目的にな」。

 シャイロックは、『ベニスの商人』により、歴史上最低の悪徳金貸しとなってしまったが、これは明らかにユダヤ人差別である。ユダヤ人はトーラーとタルムードの二つを守らなければならない。前者は律法、すなわちモーセ五書を指し、後者は律法学者が決めたユダヤ教徒として従うべき日常生活や商取引などのルールである。この二つを共通基盤としているため、ユダヤ人はお互いを信頼して金融や商業のネットワークを形成できる。そのタルムードで、ユダヤ教徒がとっていい利率は3%までと決まっている。シャイロックが今の消費者金融を見たらこう言うに違いない。「いかなる悪徳も外面にはいくらか美徳の印を見せている。それをせぬような愚直な悪徳はかつてない」。

 「高邁な理想に身を捧げた無慈悲な人よりも、玩具に夢中になっているが、同情心をもちうる人に世界をまかせたほうがよい」(『情熱的な精神状態』)。
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