2006年9月7日

文字数 1,655文字

2006年9月7日
 昨日の出産により、皇位継承問題は静まり返っている。笠原英彦の『歴代天皇総覧』(中央公論新社)によると、現在の天皇は、途絶えたために閑院宮家から迎えた養子の7代目にあたる。この閑院宮家は、皇統が断絶する可能性を踏まえて、新井白石が考案した宮家であり、現在はすでに絶えている。この養子以来、尊王論が高まり、明治維新がおきるが、近代に入ると、天皇をめぐる厳しい規則が定められ、むしろ、皇統が途切れる危険性は高まってしまう。

 「変化という試練」をホッファーは強調する。ドラスティックな変化は人からアイデンティティを奪い、ミスフィットを生み出す。そうした変化に対応できないものたちは自尊心を回復するために、「情熱的な精神状態」に陥り、急進化し、革命やクーデターに向かう。革命が変化をもたらすのではなく、変化が革命を引き起こす。

 この「情熱的な精神状態」は青年期的ないし思春期的である。人間は子供から大人へと成長していくが、特にその時期は変化が急激である。変化にアイデンティティを奪われると、人はその青年期の精神状態へと舞い戻ってしまう。「保守主義は、往々にして不毛性を示す一兆候である。成長し発展しうるものが内面にないとき、人はすでにもっている信条、観念、財産にしがみつく。不毛な急進主義者もまた、基本的には保守的である。彼らは自分の人生が空虚で無駄なものだとみられたくないため,青年期に拾いあげた観念や信条から脱皮するのを恐れている」(『情熱的な精神状態』)。

 この精神状態は自己からの逃避、すなわち自己嫌悪によって生まれる。「世界で生じている問題の根源は自己愛にではなく、自己嫌悪にある」(『波止場日記』)。イデオロギーはこの自己逃避が現実を把握するために選ばれるのであり、現実認識は心理的現実にほかならない。自己嫌悪のミスフィットは、その認められていない自身への怒りから、世界の破壊による救済にとりつかれ、「狂信者(True believer)」となる。「あらゆる大衆運動は、その支持者の内部に死の覚悟と統一行動への傾向を生み出す。あらゆる運動は、どのような主義を説こうと、どのような綱領を打ち出そうと、狂信、熱狂、熱烈な希望、憎悪、そして不寛容を育てる。運動は全て生活の一定の分野における活動の力強い流れを放出することが可能である。そして運動は全て、盲目的な信仰と一筋の忠誠を要求するのである。あらゆる運動は、異なった主義と熱望とを持っているのにもかかわらず、その初期の支持者を同じ類型の人間から引き出してくる。運動は全て、同じ類型の心の持ち主の興味をひくのである」(ホッファー『大衆運動』)。

 ホッファーの言う「変化」は移民や都市への移住、失業、引退、階級の没落、途上国の近代化などを指している。それは特別ではなく、日常的であって、変化のない方が特殊な状態である。これはニュートン力学の運動と静止に関する前提と同じであり、省みられてこなかった点であるが、ホッファーが近代主義者であることを端的に表わしている。

 近代は変化に強いられているのであり、いつでも「情熱的な精神状態」に陥る危険性が潜んでいる。それは、いわゆる実社会に限ったことではない。ネットの掲示板やブログが情熱的な精神状態に覆われ、青年期的な破壊衝動が爆発することも稀ではない。禁欲的であることを思い起こさねばならない。「われわれは、自分自身に対する不満の種を見つけるや否や、奇妙にも、執拗で声高な一連の欲望にかられてしまう。欲望とは、好ましからざる自己から強引にわれわれを引き離そうとする遠心力の表現なのであろうか。自尊心が強まると、通常、欲求は減退するものだが、自尊心が危機に陥ると、多くの場合、自己規律は弱まるか、完全に崩壊してしまう。禁欲主義は、往々にして魂の化学反応を逆転させようとする意識的な努力である。つまり、われわれは欲望を抑制することによって、自尊心を再建し強化しようとするのである」(『情熱的な精神状態』)。
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