第32話 勇者と新アイテム4
文字数 1,287文字
おれが謎の生物(?)に襲われた話を聞いたハルは、さして詳細な情報は持っていないようだったが、それでも不思議そうに首を傾げる。
「けど、銀は自力で対処できたんじゃないのか。どうやったんだ」
「え、なんか避けて蹴ったら消えていった」
「…………じゃあ、それでいいんじゃね」
はい、興味なくしました。漫画なら背景に文字が浮かび上がりそうな反応だ。わかりやすい奴は嫌いじゃないし、ハルがここまで表情に出すのはどちらかと言えば珍しい現象なので、内容次第では微笑ましく思えなくもないのだが、今回ばかりはそんな場合じゃない。
「いやいやいや、そんなわけないだろ! 大体昨日はたまたま似たような状況を思い出したら身体が動いただけで、いつもいつもあんな芸当できねぇよ!」
身を乗り出して抗議すると、ハルは不思議な色の瞳を少し見開いた。
「思い出した?」
「あー……おれの知り合い、よく喧嘩に巻き込まれる奴だったから。なんか、逃げ込んだ場所も知ってる公園に似てたし……ってなんだよ」
そこまで話して怪訝な声が出たのは、ハルがさっきまでの興味なさげな表情を一変させ、なぜか鋭い目を爛々と光らせた猫みたいな顔をしていたからだ。こいつの情緒、本当によくわからない。
「おまえはやっぱり、おもしろいな。こんな世界 に迷い込んでなお、無駄なものに囲まれている」
至極満足げに称賛するような表情ではあるが、言っていることは良くて皮肉、普通に聴けば意味はわからないものの馬鹿にしているようにしか思えない。
「……今そんなおもろい話してた? おれ」
「そう睨むな。おれを楽しませてくれるおまえに、特別にこれをやる」
ハルはおれの絶対零度の視線を受けても痛くもかゆくもないと言うように、涼し気な表情を崩さずにふんと鼻で笑った。それからおれの前に握った掌を突き出して手品のようにぱっと開いてみせた。
「なに、これ」
いったいどこから取り出したのか、ハルの手には紫色の水晶の原石のようなものが乗っていた。ちょうどハルの瞳のようなアメジスト色だ。大きさは小指の長さほどもあり、安っぽいリビングの照明の光を受けて繊細な色彩に揺らめいた。まさか本当の宝石ではあるまいとは思うものの、それにしてもおれが身に着けるにしては分不相応に美しすぎる。
「運が良ければおまえの役に立つかもしれないもの」
「……運が悪ければ?」
「役に立たない」
「本当にそれだけか……?」
「それはおれにもわからない。けどどうせ、何もなくてもおまえは困るんだろう、さっきそう言ってたじゃねーか」
「まぁそれはそうなんだけど」
「じゃあ、可能性があるだけマシだろう。おまえが、この先も吞まれずに『思い出せる』ことがあるのなら、使いこなせるのかもしれない」
「? どういう意味だよ」
「そのまんま。おまえにとっての当たり前は、この世界じゃわりととんでもないことかもしれない。けどそれは逆もまた然り。せいぜいおれを楽しませてくれよ、銀」
ハルは要領の得ない問答も特に意に介さないように、複雑に光るアメジストの瞳を愉しそうに細めておれを眺めると、RPGのラスボスも真っ青になるくらい邪悪な表情でにやりと微笑んだ。
「けど、銀は自力で対処できたんじゃないのか。どうやったんだ」
「え、なんか避けて蹴ったら消えていった」
「…………じゃあ、それでいいんじゃね」
はい、興味なくしました。漫画なら背景に文字が浮かび上がりそうな反応だ。わかりやすい奴は嫌いじゃないし、ハルがここまで表情に出すのはどちらかと言えば珍しい現象なので、内容次第では微笑ましく思えなくもないのだが、今回ばかりはそんな場合じゃない。
「いやいやいや、そんなわけないだろ! 大体昨日はたまたま似たような状況を思い出したら身体が動いただけで、いつもいつもあんな芸当できねぇよ!」
身を乗り出して抗議すると、ハルは不思議な色の瞳を少し見開いた。
「思い出した?」
「あー……おれの知り合い、よく喧嘩に巻き込まれる奴だったから。なんか、逃げ込んだ場所も知ってる公園に似てたし……ってなんだよ」
そこまで話して怪訝な声が出たのは、ハルがさっきまでの興味なさげな表情を一変させ、なぜか鋭い目を爛々と光らせた猫みたいな顔をしていたからだ。こいつの情緒、本当によくわからない。
「おまえはやっぱり、おもしろいな。こんな
至極満足げに称賛するような表情ではあるが、言っていることは良くて皮肉、普通に聴けば意味はわからないものの馬鹿にしているようにしか思えない。
「……今そんなおもろい話してた? おれ」
「そう睨むな。おれを楽しませてくれるおまえに、特別にこれをやる」
ハルはおれの絶対零度の視線を受けても痛くもかゆくもないと言うように、涼し気な表情を崩さずにふんと鼻で笑った。それからおれの前に握った掌を突き出して手品のようにぱっと開いてみせた。
「なに、これ」
いったいどこから取り出したのか、ハルの手には紫色の水晶の原石のようなものが乗っていた。ちょうどハルの瞳のようなアメジスト色だ。大きさは小指の長さほどもあり、安っぽいリビングの照明の光を受けて繊細な色彩に揺らめいた。まさか本当の宝石ではあるまいとは思うものの、それにしてもおれが身に着けるにしては分不相応に美しすぎる。
「運が良ければおまえの役に立つかもしれないもの」
「……運が悪ければ?」
「役に立たない」
「本当にそれだけか……?」
「それはおれにもわからない。けどどうせ、何もなくてもおまえは困るんだろう、さっきそう言ってたじゃねーか」
「まぁそれはそうなんだけど」
「じゃあ、可能性があるだけマシだろう。おまえが、この先も吞まれずに『思い出せる』ことがあるのなら、使いこなせるのかもしれない」
「? どういう意味だよ」
「そのまんま。おまえにとっての当たり前は、この世界じゃわりととんでもないことかもしれない。けどそれは逆もまた然り。せいぜいおれを楽しませてくれよ、銀」
ハルは要領の得ない問答も特に意に介さないように、複雑に光るアメジストの瞳を愉しそうに細めておれを眺めると、RPGのラスボスも真っ青になるくらい邪悪な表情でにやりと微笑んだ。